Comeback My Daughters Special Interview
ニューヨークで完成させた最新アルバム『Outta Here』についてメンバーが語る連続インタビュー。その第2回目は、いよいよ新作の核心に迫る! メンバー全員の面がわかる、これまでで一番バンドっぽいアルバムになったとメンバー自ら語る新作は、いかにして生み出されたのか。制作の舞台裏や彼らが新作に込めた想いを聞いてみた。
今回、でっかいテーマは海だったんじゃないかな(CHUN2)
――海外でレコーディングしようというアイディアはいつ頃から考えていたんですか?
戸川 話が出たのは2010年の4月ですね。たまたま「レコーディングどうしようか?」って話になったとき、「海外でやらない?」って誰かがぽろっと言ったら、みんな、「それいいね」って。
高本 みんなの口からそういうアイディアが出てきたことが、僕はうれしかった。こんなご時世に、そんなことを考えるべきじゃないという意見もあると思うんですけど、受け身の(笑)メンバー全員が一般論とはかけ離れたことを平気で言うってところが、やっぱりカムバックはすごいなと思いました(笑)。そこから一気に、おお、じゃあ海外行っちゃおうかって盛り上がったんです。
――海外でレコーディングしたいと思った理由というのは?
CHUN2 やっぱりインディー・ロックを含め、アメリカの音楽が好きなんですよね。そういう音に近づけたいってずっと考えてたんですけど、現実的にこれまで作ってきた3枚のアルバムは日本の音になってしまった。もちろん日本の音の良さはあるんですけど、もっともっと海外の音に近づけたかったんです。これまではツアーも土日だけ動いてという形でやってきたんですけど、それを変えてでも海外でレコーディングしてみたいという強い気持ちはありましたね。
高本 そしたら、たっくんの知り合いがニューヨークでエンジニアをやってるって言うんで、彼に相談してみたら、決して実現できない話じゃないということがわかったんですよ。 [ ↗ ]
――今回、すごくナチュラルで、温もりのあるサウンドの、前作とはまた違った意味で、とてもいいアルバムになったと思うんですけど、作るにあたっては、どんな作品にしたいと考えたんですか?
高本 個人的には、一つのテーマを掲げた洗練された作品を作ると言うよりは、これまでやってきたことを全部背負ったうえで、笑いながら演奏できるようなね。ライヴで得た、こういうところが僕らのいいところなんじゃないかというところも詰め込んでいこうとは考えてました。だから、なるべくいろいろな曲とか変な曲とかがあったらいいなと思ってました。
中津川 僕の中では、前作はちゃんと手順を踏んで、やることをやったうえでちゃんと作ったアルバムだったんで、今回はもっと勢いとか乗りとかを重視した作品にしたいと思ってました。
CHUN2 去年、横須賀の走水海岸にある、かねよ食堂ってところでライヴをやったんですけど、メンバー全員が最高と思える夜になったんですよ。その時の印象が強かったせいか、どんなアルバムにしようかってざっくりした話をしたとき、なんとなく海ってイメージが出てきて。たまたまその時、ビーチ・ボーイズを聴いてたっていうのもあるんですけど、今回、でっかいテーマは海だったんじゃないかなって思います。


――曲作りを進めながら、アルバムの方向性が見えたとか、アルバムの全体像が掴めたとか、そういうきっかけになった曲はありましたか?
高本 「Yours Truly」と「Slow Down」の2曲はけっこう前からあって、もう何度かライヴでもやってたんですけど、その2曲はアルバムに入れようと考えてました。2曲ともタイプが全然違うんですけど、どちらもみんなでやってみようってぱっと作った、今のカムバックってこういう感じになるんだろうなってイメージがあって、あ、こういうアルバムを作ればいんだって思いました。僕がベーシックのアイディアを持っていった時は、すごく地味だったと思うんですけど、そこにどんなリズムが乗るんだとか、歌のフレーズはどうなるんだとか、そういうことを楽しみながら作ってました。それで、みんながけっこう無茶やってきたなみたいになると、すごく楽しくなって、もっと行っちゃえ行っちゃえって(笑)。今回は、そんなふうにメンバーそれぞれの色を出したかったんです。
――今回、アコースティック・ギターの音色が前面に出てきましたね。
高本 単純な理由です。アコギにすると、目立つじゃないですか。音色が違うからリード・ギターもアコギも。それに誰がどう演奏しているか明確にわかってシビアにもなる。そこがおもしろいと思ったんですよ。 [ ↗ ]
――逆に、エレキ・ギターをかき鳴らすような曲は今回、ありませんね。
高本 でも、曲作りしている時もスタジオでみんなで合わせてる時も違和感はなかったです。静かなサウンドを求めて、アコギを使ったわけではないんで。むしろ、エレキ感覚でガンガン弾いていますね。
――今回は一発録りなんですよね?
戸川 それはめんどくさかったから(笑)。
小坂 そうだったんだ。
戸川 いや、単純に僕達、ライヴでもリハーサルでもみんな一緒に演奏してるのにレコーディングだけ、なんで別録りなんだって、そういう疑問が芽生えたんですよ。最初にぱっと演奏したやつで、それがいいテイクだったらそれを生かせばいいし、最悪、後でパンチしてもちょっとくらいならいいだろうって。そこは作品のクオリティーを第一に考えたんで、完全に一発録りではないんですけど、一発録りというスタンスは明確なものとしてありました。そう言えば、さっきCHUN2が新作のテーマは海って言ってたんですけど、その話が出たとき、僕だけ首を縦に振らなかったんです。
CHUN2 そうなんだ!
戸川 実は、その海っぽさを消すために僕はニューヨーク・レコーディングを敢行したんです(笑)。むしろ汚いビル街で録ったほうがおもしろいものになるんじゃないかって。まぁ、それはそれとして、僕はどういうアルバムにしたいかと言うよりもむしろ、全員の面がわかるミックスにしたいと考えてました。曲ごとに目立ってるところはそれぞれ違うと思うんですけど、そういうデコボコってこれまではエディットしてデコボコさせたと思うんですよ。でも、今回は、それを自分達の演奏でデコボコさせてる。新作がナチュラルっていうのは、そこなんじゃないかな。


同じワンフレーズを、みんなでパスしあうと言うか、 「ずっとバッキングやってればいいわけじゃないぜ」「次は、おまえ行け」みたいなことをやってみたかった(高本)
――ところで、レコーディングはどうでしたか? 行ってみるまでスタジオの様子もわからなかっただろうし、エンジニアさんにしても…。
戸川 エンジニアは僕の後輩なんですよ、高校の時の。
――あ、そうだったんですか。でも、初対面でいきなりレコーディングって不安ではなかったですか?
高本 正直、それは。でも、一番びっくりしたのは、時間になったらサクッと帰ってしまうってところでした(笑)。アメリカの人ってマジで残業しない。音云々よりもそれが不安でした。結果、音は素晴らしかったんですけど、最初は、え、帰るの?!っていうのはありましたね。
戸川 僕も最初は黙ってたんですけど、1週間経った頃、おまえももうちょっとがんばれよってそいつにこっそり言ってみたんですけどね(苦笑)。
中津川 日本語は喋れるんですけど、考え方はもう本当に…高校生の時だっけ?
戸川 そう、もう早くにアメリカに留学しちゃったんで。
中津川 だから、頭はアメリカ人。日本語は喋れるからコミュニケーションの部分では全然ストレスはなかったんですけど、発想はアメリカの感覚なので、最初はちょっと戸惑いました。でも、そうやってパシッとその日の作業を終わらせてもらえて、逆によかったのかもしれない。僕らスタジオで寝泊りしてたんで、エンジニアさんがそうやって帰ってしまわなければ、ずるずると朝まで作業しつづけてたと思うんですけど、時間がないからこそ、レコーディングがスムーズに進むような努力を、みんなそれぞれにやった。そこはでかかったと思います。 [ ↗ ]
――そう言えば、裕亮さんは夜中に一人で練習していたそうですね。
小坂 はい、してました。
戸川 なんで?
小坂 スムーズにレコーディングを進められるように。時間を取ったらいけないなと思って、時間も限られてたんで。
戸川 それだけ?(笑) 
高本 超フツーのコメント。
戸川 おまえさ、いつも普通じゃないんだからそういうところを出していこうよ(笑)。 
高本 裕亮、生ピアノを弾いたね。どうだったの?
小坂 よかったです(笑)。
CHUN2 スタジオにいろいろな機材があって、ちょっと変わった…あれ何て言うんだろ?
戸川 ああ、マンドリンみたいなやつ。


――あ、マンドリンを使ってるのかなって曲がありましたね。
戸川 4曲目の「Mona Lisa」。
CHUN2 その曲では、その謎のマンドリン風の楽器を使いました。
中津川 ヴィンテージのアコースティック・ギターとかアンプとか、スタジオにオーナーの持ち物がいっぱいあって、自由に使っていいよって言ってもらえたんで、その時の乗りでこれを入れたらいいんじゃないかっていうのは即興で入れました。最近のライヴではパーカッションも使ってるんですけど、今回のレコーディングでも鍵盤が入らない曲は、パーカッションを足しました。だから、リズムが強化された印象になってますね。
――ああ、「Lavender」とか「Always on your side」とか。
中津川 「Mona Lisa」もそうですね。
――今回、新作を作るうえでインスピレーションになった音楽って何かありましたか?
高本 どうなんですかね。みんなそれぞれに違うと思うんですけど、最近、アメリカだったりイギリスだったりのインディーをチェックする周期がまた来て、そういうのをチェックしてたっていうのもあるんですけど、それと同時に元々好きだったルーツ・ミュージックをもうちょっと掘り下げたいと言うか、ルーツ・ミュージックはルーツ・ミュージックでも自分がどういうのが好きなのかやっとわかってきて。たとえば、これさえあれば、曲が成立するってワンフレーズがあって、それを3回か4回繰り返してフェイドアウトしてって名曲がいっぱいあるんですけど、今回、そういう曲をカムバックでやってみたかった。同じワンフレーズを、みんなでパスしあうと言うか、「次は、おまえ行け」みたいなことをやってみたいと思ってました。 [ ↗ ]
――たとえば、それは新作で言うと?
高本 「henji ha iranai」とか最後の「See you later alligator」とか。敢えて展開を追加しないと言うか、同じフレーズでひっぱった曲ですね。ずっと同じフレーズなんで、おのおのの手癖と言うか、それぞれのその曲に対するアプローチが出たら、一人一人が目立つと思うんですよね。そういうのカムバックでやってみたら楽しいだろうなって。油断できないところがおもしろい。「ずっとバッキングやってればいいわけじゃないぜ」「次はおまえだぞ」みたいなね(笑)。
――じゃあ曲を作りながら、ここでもう一展開加えたいんだけどって思う気持ちを敢えて抑えるなんてこともあったわけですか?
高本 それをやらない美学と言うか、勝手に自分の中で、そこは転調しません、ずっとこれで行きますみたいなことは考えてました(笑)。
戸川 展開は今までのアルバムで一番少ないよね。
高本 そうかもしれないね。おのおのがワンフレーズに対して、自分の答えを乗せてきたアルバムだと思うんですよ 元々はデモを作って、みんなの演奏を聴きながら、ここは足したほうがいいとか話しあいながら作ってたんですけど、今回はもう、がっつりそのワンフレーズでみんながそれぞれに主張できたんで、敢えて、そのまま突っ走ったほうが個性的になるのかなって思いました。
――それぞれの個性が出ているぶん、展開が少なくても全然単調に聴こえないし、物足りなさはないですよね。
高本 そうなったらいいなと思いながら作ってました(笑)。


今回は生ピアノも弾かせてもらって。弾けてよかったなぁと思いました。 ちょっとだけなんですけど、ヤマハ音楽教室に通っててよかったな(小坂)
――完成してみて、どんな作品になったと考えていますか?
中津川 自分自身でもすごく納得できる作品になったと思います。これまではカムバックに普遍性を求めていたと言うか、普遍的なバンドであろうとしてたんですけど、前作を作ってからは、その時の乗りとかその時々の変化が加わってもいいんじゃないかって思うようになったんですよ。今回は、そういう今までにない、たとえば、たっくんがバンドが加わったことで出せるようになった乗りなんかを生かせたんで、僕はすごく気に入ってます。
CHUN2 前からずっとやりたかった海外レコーディングを含め、自分達がやりたかったことをやりきったアルバムですね。作っている最中は、最後の最後までどうなるんだろうってずっと心配で、おかげで自分が心配性だってことがわかったんですけど(笑)、出来上がった時は、最高の4枚目になったと思いました。今は大好きです。 [ ↗ ]
戸川 僕はぶっちゃけ何の不安もなくて(笑)。これまでのカムバックのレコーディングのやり方も知ってたんで、そうじゃないやり方でもっと良くするにはどうすればいいか。そこは客観的に考えたと思うんですけど、今までのカムバックの良さと、これからのカムバックの良さの公倍数の頂点を目指したかった。そういう想いがあったうえでメンバー全員の面が見えるミックスっていうのと、メンバーそれぞれの気持ちとか感情とかも含めてヘルシーなレコーディングがニューヨークで展開できたんじゃないかな。録り音の良さを生かした作品にしたかったっていうのもあったんですけど、それがリアルに出てると思います。実はミスってる部分もそのまま入れてるんですよ。普通だったらやり直すと思うんですけど、隙があるところも含めて、メンバー全員の面が見えるものになったんじゃないかな。個人的には、マスタリングをスティーリー・ダンの『トゥ・アゲインスト・ネイチャー』をやったスコット・ハルさんにやってもらえたのがうれしかった。エンジニアは僕の後輩なんでどうでもいいんですけど、でも、何だかんだ言ってスティーヴ・ジョーダンさんのヴァーブスなんかもやらせてもらってるんですよ。そういう信頼できる人達が周りにいましたね。だから、不安はなかったし、もし問題があっても大丈夫だろうって。何しろカムバックは奇跡のバンドなんで(笑)。
――そういうことはレコーディング中、みんなに言ったんですか?
戸川 全く言わないです。そういうことを言うと、みんな舞い上がっちゃうんで。
CHUN2 おまえの言葉で舞い上がるほどバカじゃないよ(笑)。
中津川 アメリカに行ったら、やっぱり楽しみたいんで、それまでに不安な要素はなるべく取り除いて、楽しくやろうよってことは、みんなで話しましたね。だから、アメリカに行く直前まで、毎日、スタジオには入ってましたけどね。
高本 今までの中では一番バンドっぽいアルバムになったと思います。
小坂 僕は…そうですねぇ。


――こういうとき、最後はつらいですよね(笑)。
小坂 そうですね。
CHUN2 言えばいいじゃん。
小坂 え、何をですか?
CHUN2 だって今回がんばったじゃん。
小坂 そうですね。ホント、今回は生ピアノも弾かせてもらって。弾けてよかったなぁと思いました。ちょっとだけなんですけど、ヤマハ音楽教室に通っててよかったなって(笑)。
――えっと、それは子供の頃?
小坂 いや、最近です。
――あ、そうなんですか。
CHUN2 でも、ピアノの先生に恋しちゃって、練習どころじゃなかったっていう(笑)。
戸川 それじゃ上達しないっつーの!
CHUN2 それでやめたんです(笑)。 [ ↗ ]
――ああ。大人になってから習い事するのって難しいですよね。
CHUN2 そう、邪念が入っちゃうから(笑)。
(つづく)
インタビュー◎山口智男