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ワンマン
Guest: ドミコ
Guest: ドミコ
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※開催におきましては、新型コロナウイルス感染症に伴う政府方針に対応するため、会場の収容人数をガイドラインに基づき設定し、マスク着用、検温、手指の消毒、共有スペースでのソーシャルディスタンスの確保など出来る限りの対策で、お客様が安全に公演をお楽しみいただけるよう準備をしております。
Suspended 4thが変革のときを迎えている。「KARMA」という歌を押し出したシングルをリリースし、それに伴いこれまでステージ下手を持ち場にしていたワシヤマカズキ(Gt/Vo)がセンターに立つようになった。そして、7月20日には満を持して1stアルバム『Travel The Galaxy』をリリースする。そんな、今まさに新たなフェーズに突入しようとする4人に話を聞いた。Vol.1となる今回は、「KARMA」と、ワシヤマの立ち位置の変化がバンドに与えた影響についての話が中心になっている。読み進めるうちにきっと「立ち位置ひとつでそんなに意識って変わるんだ……」と思うはず。まずは、4人が最近聴いている音楽の話からどうぞ。
―― みなさん、最近何聴いてますか?
ワシヤマ 俺はジャック・ホワイトの新譜をめっちゃ聴いてます。あと、ジェイコブ・コリアーっていうソロアーティストの新譜。スナーキー・パピーの新譜も聴いてます。
―― どんなところが気に入ってますか?
ワシヤマ ジャック・ホワイトは今回のが一番好きかもしれない。これまでのジャック・ホワイトをさらにジャック・ホワイトにした感じ。ロックなアルバムって昨今ないじゃないですか。だからこういう作品を参考にしなきゃなと思って。
デニス 僕が最近聴いてるのは、ジャック・ティーガーデンっていう20年代ぐらいから活躍してた……。
ワシヤマ 1900?(笑)
デニス 1900。
―― 2020年代じゃないんだ、100年前なんだ。
デニス トロンボーンとボーカルのジャズミュージシャンで、見た目が喪黒福造に似てますね。声もめちゃめちゃよくて。それと、最近は50年代のミュージカル映画も掘ってます。
―― 前に話を聞いたときは「ようやく(聴く音楽が)80年代に入ってきた」みたいなことを言ってたはずだけど……。
デニス 戻っちゃいましたね。80年代が限界みたいです(笑)。
―― なんでそこで断念したんですか?
デニス サウンドがダメですね。ドラムがはっきり聞こえると「そうじゃない」ってなります。
―― はっきり聞こえていいものではないんですね。
デニス ダメですねぇ。塊できてくれないと。歪みつつ、雑音も入りつつ、な感じじゃないとダメですね。プレイに関しても70年代半ばを境に変わっちゃいました。
―― 音の粒が立ってるのとか嫌なんだ。
デニス 録音技術的には粒を捉えられるのに、プレイヤーが粒を出していないんですね。
―― へぇ~!
デニス 聞くに堪えないですね。
ワシヤマ じゃあ、街を歩くときなんて大変だね。ドラムが聞こえてくると嫌気が差す?
デニス 嫌ですねぇ、本当に嫌です。
―― あとのふたりはどうですか?
フクダ 俺は最近ようやく藤井風を聴きはじめたのと、あとはEDM色の強いフィックル・フレンズっていうバンドばっか聴いてますね。
―― どんなところが好きなんですか?
フクダ どっちも曲が好きなんですよ。フィックル・フレンズみたいな打ち込み系の音はもともと好きで、どっちかというとバンドよりもクラブミュージックを聴いてるほうが多くて。
―― そこにベースは関係ないんですね。
フクダ 関係ないですね。
サワダ 僕はむうくん(フクダ)とは逆でめっちゃバンドを聴いてて、しかもオリジナル音源を聴くんじゃなくてライブ映像をめっちゃ観てます。レッチリとかレイジとかグリーン・デイとかミッシェル・ガン・エレファントみたいに、自分がバンドにハマりだした頃に憧れた人たちのライブ映像を観ながら自分のステージでの在り方を考えたりしてます。
―― 90年代の人たちなんですね。
サワダ そもそも90年代に憧れがあって、最近はそこに原点回帰してる感じですね。
―― やっぱり、そういう音楽は自分たちの音源や演奏に反映させるために聴いてるところがありますか。
サワダ ミッシェルなんて落語を聴くように聴いてるので、そこから自分に下ろしてくるというか、イタコ芸みたいな感覚ですね。
ワシヤマ まあ、少なからず影響を受けますよね。自分の中のトレンドは音に反映されてしまうというか。もともと、路上でライブをしにいくまでの移動中に車のなかで聴いてた音楽のフレーズをそのまま使っちゃったりしてたし。
サワダ ああ、あるあるある! 俺もラジオ聴きながら行くと、そこでたまたま流れてた音楽をそのままアウトプットしちゃったりしますね。
デニス 僕は自分が目指しているドラマーの演奏は聴き尽くしちゃって、どっちかというと歌の勉強の側面が強いですね。ドラムは自分との戦いの時期に入ってきました。
―― はやっ!
ワシヤマ デニスは最近めちゃめちゃ悩んでいるよねえ。
―― それはどういう悩みなんですか?
デニス 想像した演奏は絶対にできるようになったので、その想像力をどこまで広げられるか、みたいな。
―― でも、聴くべきものは全部聴いちゃったから……。
デニス そう、あとは自分で生み出すしかない。
ワシヤマ 直近だと、フェスでのバンドの音作りがどうしてもフェス向きのものになっちゃってるんですけど、「それは違うんじゃねえかな」とはずっと思ってて。特にドラムに関しては、今の日本ではフェス向きの音を要するからもっとボトムがないといけない、みたいな風潮があるので、デニス的な新しい音にたどり着かなきゃいけないっていうでけえ壁があります。
―― それは今日まさに聞こうと思ってたことで、フェスでデカいステージに上がっていくためにはお客さんにある程度ウケるような音作りをしていかなきゃいけないけど、サスフォーが持っている唯一無二のよさもあるわけで、自分たちのどこを守って、どこを変化させていくのかっていう選択がすごく難しいんじゃないかなと思ったんです。
ワシヤマ そこは今まさに強いられてる感じですね。特に、今はジャムをする時間がコロナ前に比べて何分の1かぐらいまで減ってきてるけど、完全にそれを捨てるまでいかなかったり、そういうのが細々とある感じですね。
―― フェスでジャムってたら持ち時間オーバーしてしまいますからね。
ワシヤマ そう。だったら1曲削ってジャムする時間を設けるか、みたいな脳みその使い方になってきてる。
―― しかも、最初から「ここはジャムする時間」って決まってるのもどうなんだろうっていう。
ワシヤマ そうそうそう。突発的に起こるのがおもしろさでもあったので、その感じをいまは封印しつつあって、その上での戦い方を見つけようとしている時期ですね。
デニス そうすることによって勢いで乗り切れない部分が増えてきて、その代わりに演奏の細部までどれだけ完成度を上げられるのかという戦いに入ってきてますね。ごまかしのきかないところに来た気がします。
ワシヤマ いや、それはちょっと違ってて、たしかに細部まで見ないといけないんだけど、これまでジャムセッションで熱くなってたぶん、細部まで楽しむことで熱くならないといけない感じ。
デニス ああ、そうですそうです。
ワシヤマ 熱さを削ぐわけではなくて、熱くなれるところを変えようとしている。最近はちゃんとセットリストを決めて、それに従ってやれるような練習をしてます。ひと言でいうと、バンドになろうとしている感じですね。
サワダ 僕は以前よりもライブをするのが楽しいし、全然窮屈じゃないですね。
―― それはなぜ?
サワダ コロナの状態が少しずつよくなってきたこともあってか、お客さんのレスポンスを感じられるようになったので、今まではSuspended 4thの中だけの世界観をお見せしているような感じだったのが、お客さんとの呼応を楽しむ余裕が出てきたんですよね。それが最近の楽しみポイントです。
―― もっとたくさんの人と音を共有できる喜び。
サワダ 僕はそうっすね。
―― ポイントとしては、バンドとして新しいフェーズに入ってきてはいるけれど、それは必ずしもサスフォーらしさを削っているわけではない、と。
ワシヤマ 自分たちが持っているほかの部分でライブハウスやフェスのシーンに順応しようとしてる感じですね。
―― でも、こないだのサタニックでのライブはもどかしさがうかがえる発言をしていましたね。
ワシヤマ ああ、あのときはまだ慣れきっていないというか、変化のスタートだったので。サタニックのあとから「KARMA」のツアーがはじまったことでなんとか楽しみ方がわかってきました。
―― なるほど。
ワシヤマ でも、準備してきたものをやるだけでもお客さんから反応があることはわかってたけど、それが本当にいいのかどうかがまだわかってなくて。
デニス え、そうだったんですか?(笑)
サワダ たぶん、そこに関してはワシヤマとほか3人では感じ方が違うと思う。
ワシヤマ どう感じてたの?
デニス 普段のライブと変わらない感じです。
サワダ 「やったるぜ!」って気持ちだけはあったけど。
ワシヤマ 準備しといたものを遂行するだけって感じはなかった?
サワダ そうだね。俺とむうくんの立ち居振る舞いもそっちにフォーカスしてた感じ。
ワシヤマ だよね。本来、場の雰囲気を変えるためにジャムをやってるけど、あのときはそれをやらなくても意外と反応って返ってくるんだって思った。だから、レールに乗せることでしか場の掌握感が得られないっていうのがもどかしいというか、そわそわするというか。
―― でも、3人はそうではなかった。
サワダ 準備をしたことである程度の反応をいただけたので、こっちとしては「やったね!」って感じでした。でも、ステージを降りたときにワシヤマが「いや~、大変ですね、フロントマンは~!」って言ってて、それを聞いて僕は「立ち位置変えてよかったな」と思いました。
―― 立ち位置を変えたことについて聞かせてください。
サワダ もともと、むうくんがセンターにいたのがワシヤマに変わったんです。そのことでワシヤマが受ける視線とか期待がいつもと変わったから、それに従ってワシヤマの感じ方も変わったと思うんですよ。
ワシヤマ ああ、そうそう。それはすごく違うと思う。
―― ザ・フロントマン。
ワシヤマ ……になろうとしてます(笑)。でも、全然俺のキャラじゃないですよ(笑)。だからソワソワするし、俺がフロントマンをやってることに対してお客さんから反応があるのも違和感あるし、「これ、本当にイケてんのかな?」って。そう思うタイミングでジャムをやりたい衝動が湧いてくるんですけど、それをやってると絶対に時間内に収まらない。そういう変な葛藤をしちゃう。周りが「いいじゃん」って言ってくれるからなんとなく自信を持ってやってるけど、自分ではあまり性に合ってないなと思ってます。
―― それでも覚悟しないといけない。
ワシヤマ 自分がフロントマンにならねばっていう覚悟は「KARMA」を出したときになんとなくできてたんですよ。最早、以前の立ち位置であの曲をやる姿が今は見えない。だって、下手にいるボーカルが歌い出すってトリッキーすぎないですか?
―― まあね。
ワシヤマ もし俺が観てる側だとしても、あの曲はセンターにいるヤツが歌いだしてほしいし、そういう辻褄が合っちゃったなあっていう感じがしてます。
―― そういう曲をつくっちゃったからしょうがない、みたいな。
ワシヤマ つくっちゃったというか、そういう曲が必要になってきたという感じですね。
―― そもそも、なんでこれまでセンターじゃなかったんですか?
ワシヤマ 俺のエゴっすね。Suspended 4thっていうバンドは<フロントマンとそのバックバンド>というイメージでやってないし、デニスがよく「ドラムは歌だ」って言ってるんですけど、俺もそのとおりだと思ってて、このバンドには歌心のある奴らが集まってるから、俺がわざわざ真ん中に立って歌をやる必要はねえなって。
―― でもたしかに、「KARMA」で初めてサスフォーを知った人がなんの予備知識もなしに観たライブでいきなり下手にいる人が歌い始めたら、「お前が歌うんかい!」ってなりますね。
ワシヤマ そうそうそう。「ストラトキャスター・シーサイド」のYouTubeセッションみたいなのがあって、2分ぐらいの前奏が終わって歌い出すまで、たぶん俺はリードギターだと思われてるんですよ。
フクダ 「お前が歌うんかい」ってコメントがあった。
ワシヤマ お客さんからすると違和感があるんだろうなっていうのはそのときから思ってたけど、エンジニア的な考え方だとやっぱりベースが真ん中にいるほうがいいんですよね。
―― そういうときにエンジニア脳が余計に働いちゃうんですね。
ワシヤマ エンターテインメントと関係ないところでそういう脳みそを使っちゃって。それが変な奴らにウケてるっていう手応えはあったんですけど、「KARMA」ができたことで「やっぱり自分が真ん中に立ったほうがわかりやすいんだな」って。
―― 前回のインタビューでめちゃめちゃ気にしていた「KARMA」の反応はどうだったんですか?
ワシヤマ 下手で歌ってるときのお客さんの目線とフロントで歌ってるときの目線が全然違いますね。てか、もうそれだけで曲の雰囲気が全然変わる。下手にいたときは「この曲はそんなにウケねえだろうな」と思ってたんですけど、センターに立つようになってからは、他の曲をやったあとに「KARMA」をやると空気が変わるのをなんとなく体感できてる気がします。
―― それはいいことですよね?
ワシヤマ おそらく。。
サワダ&フクダ&デニス いいことです。
ワシヤマ 俺だけよくわかってない(笑)。
―― 3人はわかってるんだ。
サワダ バンドってチームだけど、「KARMA」を歌い出す瞬間、お客さんはフロントに立ってるひとりの男を見てるだけの状態になるんですよ。その姿がカッコいいからこっちとしては「OK! いけ!」って感じなんですけど、本人は戸惑っているっていう。
デニス ライブを観に行ったり、ライブ映像を観るときって、「本当にこの人たちがやってるんだな!」って実感したいじゃないですか。その実感って楽器よりボーカルのほうが強く得られると思ってて。
サワダ 生身感というかね。
デニス 「あ……! 歌ってる……!」みたいな。サスフォーのライブでそれを体感できるポイントができたというのはすごく大きな財産だと思います。
サワダ これまでの話を聞いてて思ったのは、今までのサスフォーは個々をフラットに見せるっていうコンセプトでやってきてて、そのおかげでそれぞれの個性が見えやすいステージになってたんだけど、今はそういうお膳立てなしでも自分のキャラクターを出せる力がついたから、ワシヤマがフロントに立ってもほかのメンバーの個性が殺されない状態になってるんじゃないかなって。
ワシヤマ 「ようやくファーストアルバムなん?」っていうのと同じですよ、たぶん。
サワダ ここで真ん中に立たなかったら、ずっと立ち位置は前のままで固定だったと思いますね。
―― セカンドアルバムからセンターに立ちますっていうのもね。
サワダ ちょっとテコ入れ感が出ますよね(笑)。
―― それにしても、立ち位置ひとつでこんなにいろいろあるとは。
ワシヤマ 俺もぶっちゃけ、そんなに気にしてなかったんですよ。真ん中に行ったら何かが変わるなんてそんな甘いもんじゃないだろと思ってたら……けっこう甘かったっすね。
サワダ 甘いっていうか、それぐらい場を作ることって重要なんだなって俺は思ったね。
―― 責任感が増したところはありますか?
ワシヤマ それはもちろん。
サワダ 責任感も増したし、愛に溢れてますね。愛で会場を包み込もうとしている感じを横にいて感じます。俺とむうくんはいつも「感動した!」って言ってるよね。
フクダ 「今日のワシヤマは愛に溢れとった。素晴らしい!」って。
―― どういうところでそれを感じるんですか?
サワダ 立ち位置の話に戻るんですけど、ワシヤマが客を見てるってことに尽きると思います。これまではメンバーと客を見て全部を支配するって感じだったんですけど、今は後ろを僕たちに任せて自分は客の相手をするっていう感じに変わりました。
ワシヤマ 言われてみればたしかにそうかもしれない。
サワダ MCひとつとっても、話し方とか表情も全然違って見えるし。
ワシヤマ デニスとアイコンタクトが取れるから、下手にいたときのほうが演奏しやすかったんですよね。やっぱ、ドラマーと歌って現代の音楽においてすごく重要なセクションじゃないですか。だから、最初はそこでの呼応感がなくなるんじゃないかと思ってたけど、目線を外してもそんなに変わらねえんだなと思った。
サワダ そこに関しても地力がついたから目線がなくても呼応できるようになったのかな。
―― メンバーをより信頼できるようになった。
ワシヤマ そうっすね。でも、すごく不思議な感覚というか……もちろん、信頼はしてるんですけど、やっぱり直接メンバーのことを見れるほうがより信頼できるんですよ。それと同時に、背中を向けていることによって逆にメンバーを信頼してるように見えてるんだなとも思ってて(笑)。
サワダ あるかもあるかも。
ワシヤマ 本当はアイコンタクトとりたいし、なんなら円になって演奏するほうが絶対楽しいと思うんですけど。
―― まあ、その演奏を誰に届けるんだって話ですからね。
ワシヤマ こんな話、普段はしないんでだいぶ吐き出してますけど(笑)、立ち位置の話でこれだけ話せるっていうのはSuspended 4thの歴史的にも重要ですね。
―― そうすると、ここからまた表現が変わりますね。
ワシヤマ そうですね。そのうえでどういうバンドになっていくのかっていう問題になんとなく直面しかけています。俺的には、歌があってバックバンドがいる状態だと歌モノの邦楽ロック的なくくりになってしまうっていう感覚だから、ベースがセンターで、楽器があって、歌もあってっていう形のほうがロックバンドだなとは思ってるんですけどね。
デニス ……でも、いいバンドはどこもボーカルが引っ張ってるんですよ。
ワシヤマ そうなんすよ……! 結局、フロントにボーカルがいればどんな歌を歌ってようがロックになる、みたいな。それを追い求めるフェーズに入った。
―― AC/DCもリードギターのアンガスがバンドの象徴的な存在だけど、ブライアンというボーカルがいるからこそみたいなところもあるし。
ワシヤマ ヴァン・ヘイレンもそうですよね。ギターがフォーカスされるけど、やっぱりボーカルだし。
サワダ 一番わかりやすいのはレッチリだと思うんですよね。あのボーカルが入った瞬間に「あ、レッチリや!」ってなる。
ワシヤマ 上手い下手じゃないよさがあるんですよね。楽器でロックをやるっていうよりも、バンドでロックをやるって方向に向いてきてる。
Vol.02へ続く...
Interview by 阿刀大志
7月20日にリリースされるアルバム『Travel The Galaxy』のリリースインタビューVol.2。今回は、Suspended 4thというバンドが目指す音の在り方や、フロントマンでありながらレコーディングエンジニアまで担うワシヤマの、想像するだけで気が狂いそうなこだわりにスポットを当てている。なかなかアルバムの話が始まらないが、もうしばらく辛抱してほしい。
――バンドが大きくなっていてもサスフォーが元来持っているよさは失ってほしくないけど、でも何がどうなったらそれが失われるのか俺にはわからなくて。
ワシヤマ 俺はそれ、確実にあるっすね。全員の好きな音楽の年代が一致した瞬間にこのバンドは終わる(笑)。
――あはは!
デニス たしかに(笑)。
ワシヤマ そこがブレなければ個性は消えないと思うけど、例えば俺とサワダ氏が90年代のここが好きってなった瞬間にめちゃくちゃつまんなくなる。
――意気投合した瞬間に。
ワシヤマ フクダくんとデニスの趣味が合ったらマジで気持ち悪いし。
デニス いやぁ、この世の終わりです(笑)。
サワダ たしかにどっちかがどっちかに寄せたら嫌だなあ。
ワシヤマ そういう譲り合いがないし、自分の好きな年代や音楽を変わらずやれてるのがSuspended 4thのアイデンティティなのかなって。
サワダ 最近、「ストラトキャスター・シーサイド」に入る前のジャムセッションで、こいつ(フクダ)がスラップしてデニスがスウィングするっていうのをやってて、それを見たときに「これがSuspended 4thの真髄なのでは」って思ったし、それぐらい発明だと思ったんですよね。あれは面白いよね。
フクダ 新しいよね。
――そっちがそうなら俺もそうしようかな、じゃなく。
ワシヤマ お互いが同じぐらいの感じで別々に魅せようとしてる。
サワダ それがバラバラではなくて塊に見えるような瞬間をつくろうとしてる気はしますね。
――ベクトルは違えど高みを目指しているのは同じで、それがどこかで交わったときに新しいものが生まれるという。
デニス そもそもミクスチャーロックがそういう文脈ですもんね。
サワダ サスフォーってミクスチャーバンドなのかな、実は。令和のミクスチャー(笑)。
――そうやって自分たちの形を見つけていく横で、同世代のバンドがどんどん上に行くのがもどかしくなったりしないですか。
ワシヤマ 上に行ってるバンドを知らねぇっていうのはありますね。それに、俺らが好きなバンドってまとまっていく感じじゃなくて、各々に個性があって、バンドの名前だけじゃなくて個人の名前も出てくる、みたいな人たちなんですよね。ミッシェル・ガン・エレファントも個人名が出てくるし。でも、そういうバンドって最近いない。バンドとして一丸となるって俺にはいろんなものがシステマティックになるイメージしかなくて。
――ほう、具体的には?
ワシヤマ 例えば、今回のアルバムは俺がレコーディングからミックス、マスタリングまで関わっていて、タイム修正とかピッチのエディットもやってるんですけど、そこに関して今回はほとんどいじってないんですよ。もちろん、重要なポイントではやってるんですけど、演奏の基盤になるようなベースとドラムはエディットしたりテイクを差し替えるということはしてない。
――そうなんだ。
ワシヤマ 逆に、そういうエディットをやっているバンドには一丸となっているイメージがある。めちゃめちゃバチバチに音が詰まってて、特に歌モノの音源はそういうことが多いなって。でも、それって嘘じゃないですか。もちろん、音源としての美学はあると思うんですけど、それを突き詰めれば突き詰めるほどポップになっていくというか、あまりロックじゃないなって。人間性が見えないし。
デニス そういう音楽は生で聴くとやっぱりガッカリしますね。
ワシヤマ ライブより音源のほうがいいっていう美学もあると思うんですけどね。でも、俺らは自己顕示欲が強い奴らの集まりなんでライブを観に来てほしいし、実際に会ってちやほやされたいです(笑)。
デニス 僕はそんなことないですよ(笑)。
ワシヤマ まあ、とにかく生身を観てもらうのが一番の宣伝だとするなら、音源も生身がいいなっていう俺のエゴです。
――言われてみれば、今回のアルバムはあれだけ音が詰まってるけど、聴いてて疲れないですね。
ワシヤマ それは(音の)縦があまり揃ってなくて、隙があるからだと思います。一聴しただけでなんとなくすごいと思える音源って、あまり上手くないテイクをそのまま使っちゃってるものが多いと思うんですよ。今、レッチリの「Can’t Stop」のパートごとのトラックがネットに上がってるじゃないですか。あれを聴くとジョン・フルシアンテのギターなんてめちゃくちゃどうしようもない感じだし、ノイズもめっちゃ入ってる。フリーもそんなに上手くないし、チャドもあんまり。でも、全部が合わさるとすごいっていう。それを聴いて以降、そんなに正確なトラックは必要ないなって思ったんですよね。そういうレッチリみたいなバンドマジックを俺は追い求めてます。
――バチバチに詰まった音源もカッコいいとは思うけど、バチバチすぎて何回も聴かなくていいかなと思っちゃうものもありますね。
ワシヤマ それってなんとなくわかるんですけど、なんかこびりつく感じがあるじゃないですか。例えば、最近の音源だとボーカルのリップノイズをカットしたり、ギターのキュッとタメてる感じもカットしてるからそうなる。そこが無音なことって絶対ないんですよ。だから今回のアルバムはそういうところまで収録してます。それが違和感になるし、音源として聴かせられるものになってるんだと思います。
――そういうエンジニアの耳があるといいこともあるけど、大変なことも多そうですね。
ワシヤマ でも、仕事とは思ってないし、どういう音の隙間があるのか的確に提示できるのは利点だなって。
デニス ライブのリハーサルのときに、PAさんに「モニターの2K(音の帯域。2キロヘルツ)あたり削ってください」って言ってたり。
ワシヤマ でも、それはシビアな話じゃなくて、シンプルに「自分はこういう音が好きです」っていうことを伝えるためだったりして。
デニス 向こうももちろんプロなんで、「あ、わかりました」って感じで、「あ……通じてる。こういう世界があるんだ……」っていう。
サワダ マジで知らない言語の会話を聞いてる感じですよ。本当にわからない。
ワシヤマ そういうことがわかっているから、さっき言ったみたいに今回のアルバムも色々と鳴ってるけどまとまって聞こえるんですよ。帯域の展望が見えてる状態で曲をつくるからこそメンバーを煽れたりもして。「ここ、お前のセクションだからバチバチに歪ませたスラップ入れてもいいよ」みたいな。
――プロデューサー的でもありますね。
ワシヤマ そうっすね。でも、現代のプロデューサーは自分で音をイジれる人が多いんですよ。みんな確実にエンジニアあがりだったりして。
――エンジニア兼プロデューサーのワシヤマさんはメンバーから見てどうなんですか?
サワダ すごいのひと言ですよ(笑)。
フクダ でも、修羅の道を歩んでいるっていう感じはしますね。
デニス 知らないほうが気楽ですからね。
サワダ しかも、真ん中に立ってフロントマンとしての仕事も背負うとなると、考えることが多すぎて気ぃ狂うんじゃねえかって思いますね。
――本当にそう思う。
ワシヤマ たぶん、気ぃ狂ってますね。
――あはは!
ワシヤマ そういうのも含めてSuspended 4thだと思ってるんで、別に苦じゃないです。
サワダ 楽しみを見出してやってくれてるんならいいと思いますけど。
ワシヤマ できればやりたくないけど、その辛さって楽しさでもあったりして。他人からは辛そうに見えるかもしれないけど、俺の中では全然辛くない。エンジニアという脳みそを使うことでメンバー自身が気づいてない音を取り入れたいなと思ってやってたりもするし。言語化するのがすごく難しいですけど、とにかく、何も思ってないよりも何かを思っていたい。それを音楽だけじゃなくて、音響とかそういうところにも向けたいっていう変な好奇心があります。
――大変になるのはわかってるけど興味があるから……。
ワシヤマ そう、グッと行っちゃう。最悪ですよね。「やりたくない」って言いながらエディットしてる。で、そんな自分の姿に「うわ、俺、かっけー!」って思うんですよ(笑)。
――ああ、なんかわかる(笑)。でも、ほかに信頼できるエンジニアやプロデューサーが見つかったら喜んでお任せしたい。
ワシヤマ もちろんっす。
サワダ 「KARMA」のときは「代わりがほしい」って言ってて、何かと思ったらフロントマンの代わりで。
――言ってましたね(笑)。
ワシヤマ 俺、最近、ローディーがやりたくて!
――もう、一体なんなんだよ!(笑)
ワシヤマ 俺、めちゃめちゃ機材積むの得意なんですよ。
フクダ 機材車にね。
ワシヤマ そう。しかも、上手いっていうのはよくバンドマンがいう<積み師>とかのレベルじゃなくて、その機材が一番ダメージを受けづらい場所に置きつつ、ちゃんと空間も使い切る天才なんですよ。あと、ケーブルもさばきてぇ。サワダ氏のローディーになったら俺は本人が絶対不自由のないようにステージをさばけるっす。
サワダ やってくれたら超快適に演奏できる気がします。
デニス たしかに向いてると思う。
ワシヤマ でしょ? それに最近気づいて、マジでローディーやりてぇなと思ってます。
サワダ 頼むからローディーはやらないでくれ!
――ほかにちゃんといるからね(笑)。
ワシヤマ ですよね。だから自分をなだめてるんですけど。
――そんな人間が今、フロントに立って歌を歌おうとしてるという……なんかアルバムの話に入りづらくなっちゃったな。
サワダ そんなふうにやりたいことがいろいろ詰まっているのが今回のアルバムって気がします。
ワシヤマ お、いいですねえ。
Vol.03へ続く...
Interview by 阿刀大志
お待たせしました。オフィシャルインタビューVol.3にしてやっとアルバム『Travel The Galaxy』についての話がスタートする。アーリーベストの体裁をとりながらもそうは聞こえない理由や、「Shaky」と「ANYONE」で割れたメンバーの推し曲問題、そしてデニスが作詞作曲を手掛けた「Tell Them」の話に端を発するメンバーのパートチェンジについてなど、Suspended 4thというバンドにしか起こり得ないようなトークが詰まっている。サスフォーって本当におもしろいバンドだ。
――『Travel The Galaxy』は1stアルバムなのに集大成感がまったくないと思いました。新曲、再録、初録音曲があって、形だけ見るともちろん集大成なんだけど、実際に音を聴いてみるとこの作品がこれまでのSuspended 4thを象徴するものには聞こえなくて。もちろん、いい意味で。
ワシヤマ それは初めて言われましたけど、たしかにそうっすね。集大成感を出すつもりでやってたんですけど、リテイクをすることって<集大成>に反しているんですよ。
――ああ、なるほど。
ワシヤマ 既存曲は全部録り直してるし、アーリーベストとは言え、結果として新曲ぽくなっちゃったのも数曲あるし、それがたぶんベスト感に通じてないのかもしれない。実際に音源を聴くと「今だな」って感じがしますよね。
――そう、そうなんですよ。
ワシヤマ そういってもらえて光栄なんですけど、今回俺ら的に一番話したいのは「Burn」なんですよね。
――そうなんだ! でも、ディープ・パープルのインストカバーですよ? たしかにめちゃくちゃカッコいいけど。
ワシヤマ この曲が一番楽しくやれてるし、今回のアルバムのレコーディングでやりたかったことを体現できてるかなと。例えば、デニスのドラムの原点になってるのはディープ・パープルだし、デニス的に「Burn」を叩くっていうのは……ねえ?
デニス はい。小学生の頃からの研究の成果を発表する、みたいな感じです。ご本人のクセまで再現してます。
――ディープ・パープル世代のリスナーも気に入るかもしれないですね。
ワシヤマ 好きにはなるかもしれないけど、たぶん認めてくれないっすね。
デニス ヘヴィ過ぎると思います。「これは俺たちが知ってるディープ・パープルの『Burn』じゃない!」って。
ワシヤマ さっきのレッチリの話じゃないですけど、もっとディープ・パープルのヨレを研究しないとダメですね。デニスはマシーンなんで。
デニス でも、もともとのディープ・パープルを知ってる人たちが「若いのが出てきたな」って感じでサスフォーのほかの曲も聴いてくれたらうれしいですね。
ワシヤマ ひとつの入口としてね。俺らもディープ・パープルはリスペクトしてるし、おもしろおかしくやらせてもらってます。しかも、インストでカバーしてる。これはLAにいるようなバカテクのミュージシャンたちに対抗しにいった感じですね。各々のやりたいことを詰め込みました。あと、このカバーはピザからの提案でもあって。
サワダ ハイスタも「ピンクパンサーのテーマ」とかカバーしてるし。
――聞くところによると、推し曲をどうするかで意見が割れたそうですね。
サワダ 「トラベル・ザ・ギャラクシー」は満場一致で決まってたんですけど、それ以外の新曲の中で一番好きなのは「ANYONE」で。だから、「Shaky」って言われたときは「『Shaky』かあ……」っていうのが最初の感想でしたね。
ワシヤマ それは俺とデニスも同じです。
デニス 理解はできますけどね。
フクダ 俺は「『Shaky』だろ!」って感じでした。
ワシヤマ 彼以外は「Shaky」に対してあまり乗り気じゃないんですよ。なぜかというと、速すぎて演奏できないから(笑)。
サワダ ちゃんと録れはしたんでできないことはないですけど、これは大変です。すでにミュージックビデオは撮ってますけど、「当て振りなのに疲れるってどういうこと?」って。それぐらいのレベルで難しいので、ライブでやれるのかなっていう不安はあります。まあ、これまでの曲もやってるうちにできるようになったので大丈夫だと思うんですけど。
デニス 僕はミュージックビデオの撮影をしながら練習できましたね。
――フクダさん的な「Shaky」の推しポイントは?
フクダ これまでのサスフォーになかった疾走感がありますよね。自分が普段聴いてる音楽は現代のノリのいい感じのものなので、それと同じようにこれも刺さってます。
ワシヤマ ベースはエグいよね。疾走感のある曲でベースが難しいってなかなかなくないですか? ベースが難しくて疾走感があるってあり得ないんですよ。
フクダ 「Shaky」はサスフォーの曲の中で一番難しいですね。
ワシヤマ でも、嫌な難しさじゃなくて、爽快感のある難しさなんですよ。
フクダ 難しすぎて清々しい(笑)。この曲はインテリジェンスというよりもパワーなんです。
ワシヤマ 曲の速さに圧倒されてなかなかベースの細かいフレーズが聞こえてこないと思うのでじっくり聴いてみてください。
――ちなみに僕も「Shaky」派です。シンプルに曲がいい。
ワシヤマ 実は2016年ぐらいにこれはつくってて、原曲はダラララッダラララッっていうバスドラが入ってる現代的なドラムだったんですよ。でも、そういうのはデニスが叩けないので、サスフォーらしくアップデートしました。
――叩けないというより、叩きたくない?
デニス いや、メタルっぽいスタイルは一切できないですね。そもそも考え方が違うと思います。メタル系のドラムはパズルのようにハメていって、それをいかに正確に速く叩くかって感じですけど、僕のスタイルは流れというか、これぐらい音がハマればいいかな、ぐらいの感覚なので。でもこの曲はめちゃめちゃ速いので、僕の中のイメージとしてはこのテンポについていくために<指でいく>しかないんですよ。そして、あとは体の軸だけを動かす。
――どういうことですか?
デニス 太鼓のひとつひとつがピアノみたいな感じというか。ピアノを複数台自分の周りに置いて、それに合わせて自分の体を動かしていく感じ。
――話を聞きながら小室哲哉が浮かんできました。
サワダ ああ、それはわかりやすいですね。
――「ANYONE」が好きだという理由は?
ワシヤマ 好きな年代が古ければ古いほど「Shaky」より「ANYONE」が好きなんだと思います。
サワダ ……これまでの話を聞いてて思ったんですけど、こういう会話をアルバムを聴いた友達同士でしてほしいですね。俺はこの曲に対してこう思ったけど、お前はどうだ、みたいに。
ワシヤマ じゃあ、サワダ氏はこのインタビューを読んで「『ANYONE』のほうが好き」ってつぶやいた人のことをフォローすると。
サワダ そうは言ってない! 「Shaky」が好きって人のこともフォローしますよ!
ワシヤマ 本当か!?(笑) まあ、「ANYONE」はギターが聞こえてくる感じがいいというか、Bメロがすごく好きなんですよ。
サワダ そう、Bメロが最高なんですよ。
ワシヤマ でも、「Bメロがいい」って感じだから推し曲に選ばれなかったんでしょうね(笑)。もちろん、サビもキャッチーなメロをハメられたつもりなんですけど。
サワダ いや~、Bメロがいい曲が好きなんだよな、俺。
ワシヤマ 俺もBメロがいい曲をつくりたくてああいう曲にしたんだよね。
――それらの曲を差し置いて、「トラベル・ザ・ギャラクシー」が表題曲になりました。
ワシヤマ まず、<TRAVEL THE GALAXY>っていうワードがヤバいんですよ。
サワダ 一番最後にできた曲なんだけどね。
ワシヤマ そう、このアルバムにつくらされた感じです。もう1曲書きたいってピザに言ったら、ピザ側もちょうどもう1曲欲しがってたので、「やっぱ、欲しいですよね。じゃあ、書きます」って。なんとなくこのアルバムを締められる曲がなかったんですよね。
サワダ 「トラベル・ザ・ギャラクシー」になる前のタイトルが「Historic Collection」っていうギブソンの歴史的名器の復刻シリーズにちなんだもので、「歴史の集まり」っていう意味合いだったんです。
ワシヤマ そう、テーマとして<アーリーベスト>というのがあったからそのタイトルがすごくしっくりきてたんですけど、そのあとに<TRAVEL THE GALAXY>ってワードが出てきちゃって。でも、「ヤバいワード思いついたけど隠しとこう」と思ってBメロに置いといたらやっぱりバレて(笑)。「このワード、ヤバいぞ!」って。そこからこの言葉がサビに移って、曲のタイトルになり、アルバムタイトルになったっていう。
――アルバム全体を担う言葉になったと。
ワシヤマ Bメロのままだったらタイトルにまではならなかったかもしれない。
――この曲に出てくる<GALAXY>だけでなく、<星>とか<星座>とか<NIGHT>とか宇宙的な言葉が今回の歌詞には多いですよね。こういった言葉にはどういう思いが乗っかっているんですか?
ワシヤマ シンプルに広大な感じというか。地球にいることが息苦しいっていう。<TRAVEL THE GALAXY>ってフレーズが出てきたときもなんとなく「ここから出てえな」と思ったからで。あと、自分の世界観として、シンプルに地球だけがフィールドじゃないっていうか。アホっぽいし、突き抜けてる感じもあるじゃないですか。
――その一方で、<暴走>とか<破滅的>とか<終着点>っていうワードも出てきますけど、今の話を踏まえると真逆のようでいて近いのかもしれないですね。
ワシヤマ たしかにそうですね。それでいうと、俺がローディーをやりたいっていうさっきの話と似てるかもしれないですね。
――それはどういうことですか?
ワシヤマ <破滅的>っていうのは目の前で起こってることだけど、そうじゃなくて、世界観としてはすごくデカいものっていうズレというか違和感が俺はすごく好きで。だから、今まで書いてた曲……例えば「もういい」みたいに、時代の流れに沿ったような歌詞って冷静に考えると自分はそんなに必要としてないなって。そんなことよりも音楽を聴いてすげえヤバい状態になるほうがいい。
――個人的には「Tell Them」も好きです。
サワダ あ、デニス先生の。
――曲を書いたのは?
ワシヤマ 曲もデニスです。
――え! なんか90年代っぽいんだけど。
デニス なんか、そうなっちゃいました。
ワシヤマ 音像のイメージとしてはあの年代のレディオヘッドとかですね。
デニス 僕、レディオヘッドが大好きで、クラシックを聴く感覚で聴いてます。1600年代と同じ感覚。この曲はピアノっぽいフレーズをギターでつくれないかというところから始まりました。
ワシヤマ だから、レコーディングもギターはデニスで。
デニス そして、ドラムはワシヤマさん。
――えー! そうなんだ!
ワシヤマ だから、ライブでこの曲をやるときはパートを変えようかなって。ワンマンでも俺とデニスのパートチェンジは時々あるんですけど、違う楽器をやってるほうが2人ともいい顔してるってよく言われます。俺、たぶんドラムのほうが好きなんですよ。ドラムを叩いてるときのほうが生きてる感じがするっすね。で、デニスも……。
デニス はい、ギターのほうが楽しいなあ。
ワシヤマ 本当はフクダくんとサワダ氏も変わる予定だったんだけど。
サワダ 俺は変わってもいいよ。
フクダ 俺は弾けないよ。
――パートチェンジってカッコいいから、どうせなら変わってほしいなあ。
ワシヤマ 変わってほしいなあ。
フクダ ええ~!
サワダ 練習するか!
フクダ 練習するか~。
サワダ むうくんがこういう反応をするのは理解できるんですけど、実は僕にとってもこの曲のギターは難しいんですよ。デニスの手癖のコードワークが入ってて、その押さえ方じゃないと無理っていう感じなのでそれを習得するのが大変。自分にないボキャブラリーなので楽しいんですけど。
ワシヤマ そういう要素がアルバムにあるとサスフォーの今後の展望が見えてきますね。俺はデニスの歌も好きだし、サスフォーの曲にはソウルとかR&Bの要素が多少なりともあると思うので、そういう音楽が好きな人にこの曲を聴いてもらえれば掴めるんじゃないかっていう戦略もあります。
――YouTubeのコメントを見ると、「早く売れてくれ」っていうのがよくありますね。
ワシヤマ あはは! 売れるためのステップとして俺がフロントに立ったというのは今一番手応えがあります。それを突き詰めていくと売れちゃうんじゃないかなって怯えてます。
サワダ やっとフルアルバムができたのでこれからどうなるのか楽しみですね。
――ある意味、ようやくスタートラインに立ったという。
ワシヤマ これだけ満を持してスタートラインに立てるってめちゃめちゃ贅沢ですよね。
サワダ ピザが待っててくれたからね。ちゃんとレーベルとバンドが納得したタイミングでフルアルバムを出せるっていうのはありがたいし、お客さんが待ってくれてたっていうのもありがたいです。
ワシヤマ 俺も満を持してフロントに立つっていう責任感はある。
――ツアーのテーマはあるんですか?
ワシヤマ すべての現象に対して慣れる、じゃないですか?(笑)コロナ前よりもバンドが大きくなってきてるので、そういう状態で体験する現象とかお客さんの反応を受け止めて、ちゃんと投げ返せるようになるっていうシンプルなテーマがありますね。
サワダ あとは、高校生とか若いお客さんにもたくさん来てもらえるようになったらいいですね。軽音楽部一行とかね。学割とかやってもいいかもね。そんなふうに若い子に向けてどうしていくのかも考えていきたいです。
――やっぱり、サスフォーはおもしろいバンドですね。ただ上手いだけのバンドだったらこんなに興味は持ってなかったと思います。
ワシヤマ そうっすね。それはいろんなソロシンガーを見てても思います。めちゃめちゃ歌が上手いのにお客さんが全然いないっていうことがよくあるじゃないですか。それはそういうことなんだなって。
デニス その歌声に何が詰まっているのか、音楽に詳しくない人でも一瞬で見抜くんですよね。
――言語化はできないけど何かを感じ取ってるっていう。
ワシヤマ さっきのローディーの話にもつながるんですけど、俺らはライブ会場にいる全員上下関係がないっていうスタンスでやってるんですよ。ソロでやってる方って自分の周りにどういう人たちがいるのか知らない人が多いじゃないですか。そういう人はそういう歌になるけど、サスフォーはメンバー全員がみんなに対してリスペクトを持ってるので。
――ステージに立ってるかどうかは関係なく。
ワシヤマ そう。そこにいる人たちのお陰でステージに立ててるっていう意識は人一倍あるつもりなので、それが歌にも出てたらいいなと思います。
Interview by 阿刀大志