“もういい”以来8ヵ月ぶりのシングル『ブレイクアウト・ジャンキーブルースメン』。Sawadaの影響源、というか信仰として大きいTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの匂いもしてくる、ニヤリとするタイトルだ。
これはオマージュ云々の話ではなく、自分らの心臓になっているバンドの御影が呼ばれるくらい、サスフォーにとってのビッグ・アンセムを作り上げようという気概がこの曲に込められているのだと受け取った。
実際、骨太なリフと手数の多いリズムが牽引する楽曲構造、その上に4声のユニゾンが乗っかることでアグレッシヴな前進力を生み出す歌力のアイディアなどなど、彼らの代表曲として君臨する“ストラトキャスター・シーサイド”とは異なる方法で熱狂を煽るであろう一撃である。
「熱狂を煽る」と書いたが、跳ねられる・歌える・踊れるという三拍子がストレートに音楽に表出しているのがこの曲の肝だ。
個々の突出したスキルは説明要らずのスーパーな4人によるスーパーなバンドがSuspended 4thだが、ジャズとセッション・ストリートライヴを出自にする彼らの特性上、4人のスーパーな音楽コミュニケーション自体を曲にして「覗かせる」向きがこれまでは強かった。
実際、彼らと話した時に印象的だったのは「ライヴハウスでやると、僕らを目当てにした人が来るわけですよね。でも俺らは扇動する立場になりたくない」という旨の発言だ。
好きにやるから好きに見てよ、ひとつにならなくていいから一人ひとりで遊ぼうよ。
そんな精神性はロックバンドとして、もっと言えば、「みんな」という言葉が実は何も指していないと明白になって久しい時代の生き方として超的確ですらあった。
しかしコロナ禍をはじめとする厄災によって、ストリート、もっと言えば遊び場自体が失われ、その概念ごとひっくり返ったのが今だ。
その中でも徐々に取り戻されつつあるライヴの現場と、一人ひとりの意志で開かれるものという意味での「遊び場」の定義。
そこで鳴らす音楽として、一人ひとりが(ルールの中であっても)好きに躍動できる楽曲として、テクニカルな側面をダンサブルかつ解放感へと向けたのがこの楽曲と言えるのではないか。
「熱狂を煽る」とは、みんなで踊ろうということではない。
むしろお前が感じたままにやれ、1m四方に閉じ込められた今だからこそ自分の意志で踊れ、と率直に伝える意志が今楽曲の瞬発力に直結している。
人間だって音楽だって、制限の中でこそ自由の在りかが見えてくるものだ。
音楽的にというよりは、自分らのエモーションとバンドの意志をどこに向かわせるのかという意味で、以前よりも遥かに束ねられたサスフォーの音を感じられる楽曲、それが“ブレイクアウト・ジャンキーブルースメン”だ。
新型コロナ感染症の影響により中止となったものの「スペシャ列伝ツアー」に選出されたこと、Fenderが全世界的に次世代を担うアーティストをサポートするプログラム「Fender NEXT」に名を連ねたこと。ネクスト・ビッグシングとしての看板を集めるフェーズはもう終わり、何より人を、現場を、シーンのど真ん中を射抜く時へのキックオフを告げる1曲を彼ら自身が求めてきたのだろう。
タイトル、音、リズム全部に強烈なフックが宿っている今作は、その号砲としての気概を十二分に感じる。
見渡してみてば、誰しも心がブレイクアウトしていてブルースな毎日(ジャンキーは人による)だ。
まぁまぁよく耐えたけどさ、もういいだろ?--そんな提言と、音楽による爆破予告の1曲だ。走り出したサスフォーの一撃必殺を召しませ。
PIZZA OF DEATHが今年3月に立ち上げたIT会社「Linercraft」によって製作された今回のTrailer。
2021年8月に実写撮影を行い、1ヶ月で最終仕上げというスピード感をもって作業が進められ、同社スタッフがVFXプロデューサー、VFXスーパーバイザー、コンポジター、デジタルアーティスト、マットペインター、プログラマー、デスクなどを兼任し、超少数精鋭で臨んだ作品となっている。
Suspended 4thのパフォーマンスを崩すこと無く実に自然なかたちで共存するサイバーパンク感溢れるドローンのCGアニメーションをはじめ、一連のVFXワークはとても良質に仕上がっているので、ブレイクダウン※1 映像と共にお楽しみください。
※1 ブレイクダウンとは、完成映像を構成するCGに使われた要素を分解して見せる映像の事で、映画などのメイキング映像として公開されることが多い。