(金)大阪メルパルクホール
(木)渋谷LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
Interview Vol.01
-- 全国各地のライブハウスを回った3~4月の「Feel The Vibes Tour」、シングルシリーズのスタート、5月20日の日比谷公園大音楽堂公演「DEAD AT MEGA CITY」、6月17日の「SATANIC CARNIVAL 2023」、そして、8月9日から始まった「Summer Dude Tour 2023」と加速度的に勢いを増していっているKen Yokoyamaの活動がとても頼もしいです。
KEN: はい(笑)。でも、忙しいのはイヤですね。
一同: ハハハハ。
KEN: コロナ禍が明けたとたん、忙しくなって、こんなありがたいことはないと思ったんですよ。でも、もう飽きちゃいましたね。
一同: ハハハハ。
KEN: やっぱり、何か1つやったらちゃんと休みを取って、本当は時間を掛けてやりたいですけど、コロナ禍中にやりたかったことが今、がーっと重なっているんです。
-- ああ、なるほど。でも、それはいいことですよね?
KEN: そう。いいことのはずなんですけど、時々、生きるって何だろうなって考えちゃいます(笑)。
-- えっと、そうか(笑)。加速度的に勢いを増していっているKen Yokoyamaを見ながら、コロナ禍がようやく明けたことや、コロナ禍以降の新しい時代が始まったことを改めて感じていたので、最初の質問は、そんな現在のKen Yokoyamaの意気込みやバンドのムードを聞かせてもらおうと思っていたのですが(笑)。
KEN: ムードですか。そうだな。今、やることにすごく追われているんですね、バンドとしては。けっこう長いスパンでいろいろなことを決めたので、目の前のことを1つ1つクリアしながら、充実しているという感じですかね。で、僕が1人で忙しい、忙しいって言いながら怒っている感じです(笑)。
-- 3人はいかがですか?
Jun-Gray: 実は今年の前半はライブをやりながら、けっこうレコーディングばかりやっていて、そこで録り溜めたものが今回の「My One Wish」も含め、これからリリースされていくんです。だから、レコーディングに関してはひと段落していて、ほっとしているところもあるけど、KENはジャケットのアートワークもいろいろやらなきゃいけないから忙しいっていうのもあるんでしょうね。俺なんかは海に遊びに行ってますけど。
KEN: この色の違い、見てくださいよ!
-- Junさん、めちゃめちゃ焼けてますね(笑)。
Jun-Gray: 俺はそれぐらいの余裕はあるけど、KENはやっぱり忙しいんじゃないですか。
-- MinamiさんとEKKUNは?
Minami: そうですね。充実していますね。まだ、あまり言えないですけど、割と先まで漠然とした予定も立てているし、何かいい感じですよ
EKKUN: はい。忙しいです。
KEN: 何に忙しいの?(笑)
EKKUN: いや、忙しいと言うか、充実してます。
-- Ken Yokoyamaのバイオグラフィに特筆されるべき出来事が今年前半に幾つかあったと思うので、新しいシングルの話の前に、それを振り返らせてください。まず初の日比谷野音公演の手応えを聞かせていただけますか?
KEN: すごく楽しかったですよ。そもそも、なぜ野音でやろうと思ったかと言うと、コロナ禍を通じて、ずっとイス有りとか、オールスタンディングでも、ここから動かないでとか、その挙句、見にきた人は声も出せないというライブが続いていたんですね。
-- そうでしたね。
KEN: 最初はそれをやらざるを得なかったんですよ。ライブしたいんだったら、そのやり方しかないよっていう。それで、しょうがなくやったんですね。でも、やりながらこれはこれでおもしろいなとちょっと気が付いたんです。ステージ上からもよく言うんですけど、僕らのライブっていつもフロアがカオスになるんですけど、そういう状況では、僕らのことを近くで見られないであろうお子さんとか、体の小さな女性とか、そういった方達が目の前で目をキラキラさせて、僕らが演奏するさまを見ているんですね。それは思ってもいなかった感激だったんですよ。そういう方達に見てもらえる。、すごくうれしくて、コロナ禍が明けても座席指定のライブはやっていってもいいなって感じたんです。
-- はい。
KEN: で、去年の段階で、どこかやりたいところがあるか考えたとき、真っ先に出てきたのが野音だったんです。実際にやってみて楽しかったですね。パンデミックはもう去ってましたけど、みんながみんなカオスを求めているわけじゃないんだってすごく感じました。僕達はバンドの文化的背景として、カオスを作りたくてバンドをやっているようなものなんですね。なんですけど、僕はバンドを始めてもう35年経つのかな。そうじゃない時があってもいいよねって意外と素直に思えたんです。
-- 3人はいかがでしたか?
Jun-Gray: KEN以外は、野音でやった経験があったんじゃないかな。過去のバンドで。
EKKUN: 俺は初めてでした。
Jun-Gray: Minamiと俺はあったけど。
Minami: うん。
Jun-Gray: KENがさっき言ったように、Ken Yokoyamaでやることはない場所だと思ってたけど、やることになった時は、単純に、あ、おもしろそうだって思いましたよ。それで、いざやってみたら、モッシュもダイブもないからいつものカオスはないんだけど、確かに、あのライブだから見にこられるって人もいるわけで。KENも言ってたけど、こういう形態のライブをできる範囲でやっていこうって。それが今回、秋のツアーに繋がっていくんですけど、こういうのもあっていいんじゃないかな。もちろん、「モッシュもダイブもないなんてつまらないよ」って思ってる人もいるんだろうけど。
KEN: うん。
Jun-Gray: 特にライブハウスが大好き人はそうですよね。でも、そういう人はライブハウスに来ればいいわけで、単純に野音はそういうことを確認できたという意味でもおもしろかったですよ。
KEN: そう。意外とイス有りのライブでもお客さんの熱量って声さえ出せれば伝わってくるんだなって。やっぱり拍手だけだと、1つの状況下にあると言うか、1つの条件の中でやっているなっていうもどかしさがあるんですけど、声さえ出せれば、多少の差はあるとは言え、これはありだと思いました、僕は。
-- 野音を含め、イス有りのライブでも自分達は全然やっていけるという自信にもなった、と?
KEN: そうですね。でも、それはもう野音を押さえた時に、1年ぐらい前に野音の予定を立てたんですけど。
-- はい。ライブ中にもおっしゃっていましたね。
KEN: その時にはもう自信はありました。
-- 野音のライブを見ながら、思うことがいろいろありまして、それについても聞かせてほしいのですが、「Ricky Punks III」を演奏する時に「ここ(日比谷周辺)が日本を動かしているんだとしたら、「Ricky Punks III」をやることには俺達なりの意味があるんじゃないか」とおっしゃっていたじゃないですか。あのMCを聞いたとき、「Ricky Punks III」が生まれた背景を重ね合わせて、僕は溜飲が下がったんですけど、あそこで「Ricky Punks III」を、あのMCとともにやることも野音でやりたかった理由の1つとしてあったんじゃないかって想像したのですが。
KEN: いや、実はそれは全然なくてですね(笑)。ライブ直前に決めたかな。「Ricky Punks III」をやることは。そもそも最初の予定では、そんなにやるつもりは……。
Minami: なかったかもしれないですね。
KEN: だよね。
-- それを直前に?
KEN: はい、直前に。ふと思いついて、考えてみりゃ、日本を動かしているエリアがあるとしたらあそこだよなって。
-- 僕はそこで中指を突き立てたと受け取ったんですけど、横山さんはそういう気持ちだったんですか?
KEN: そういう感覚に近いですね。細かい話にはなっちゃうんですけど、東日本大震災の時に国が何もしなかったわけではないと思うんですね。
-- はい。
KEN: だけど、震災のことだけに限らず、特に近年、政治と我々の生活ってものすごく乖離しているなって。「Ricky Punks III」って本当は行政がやるべき……行政のことなんか考えて歌ってないですけど、紐解けば、行政がやるべきことを個人がやって、それで個人の心が変わっていくという歌じゃないですか。そういうことは何も震災に限らず、いろいろなことに言えるなって。だから、やっぱり中指を突き立てた気持ちではありますね。
-- コロナ禍の期間中、何だかわからない圧力で音楽が奪われたじゃないですか。そういうことに対しても、あの場所で中指を突き立てているんじゃないかと思ったし。
KEN: そうですね。
-- 最近、政府がやっているめちゃくちゃなことにも中指を突き立てたんじゃないかと思ったし。機会があるなら聞いてみたいと思っていたんですけど、横山さんもトリビュート盤に参加していたシンガー・ソングライターのSIONさんが2011年8月に同じ野音で、「先生方よ恥を知れ」と……。
KEN: あぁー。
-- 《政治家よ 評論家よ、恥を知れ》と歌う「恥を知れ」という曲は歌わなかったんですけど、ある曲の間奏で、そう叫んだんです。それで、もしかしたら、野音で「Ricky Punks III」をやったとき、横山さんもそのことがちょっと頭にあったんじゃないかって。
KEN: いえ、なかったです(笑)。震災直後、SIONさんとは何回か一緒にライブをやって、「恥を知れ」の歌詞をSNSに上げていたのを僕も目にはしましたけど。でも、すごいですよね。あそこまで言える人っていないし、SIONさんが言うことで、僕らが言っている愚痴とはちょっと違う温度で伝わるなと思ったんですけど、そうなんですね。野音で叫んだんだ。すごい根性ですね、SIONさん。いや、根性なのかな? でも、かっこいいですね。
-- すみません、余談でした。EKKUNとMinamiさんも野音の手応えを聞かせてください。
EKKUN: 僕は初めての野音で、行くのも初めてだったんですけど、野音ってやっぱり聖地的なイメージがあったので、ここかっていう特別な空気感でした。改装前に、オリジナルのままの野音でやれたことは光栄でしたね。
Minami: そうですね。「Feel The Vibes Tour」の締めとして、野音をやった感じだったと思うんですよね。何かいい感じで、ツアーを締めくくれてよかったと思うんですけど、どうしても僕は性格上、演奏面の反省点がいっぱいあって(苦笑)。でも、Ken Yokoyamaとしては確実に、日本武道館ではもうやらないことを考えると、野音でやれてよかったと思います。
Jun-Gray: 武道館でやらないじゃなくて、やれないでしょ?
Minami: そうそうそう(笑)。
Jun-Gray: やれない理由も野音で語ってたしね。
-- 語ってましたね。武道館、本当にもうできないんですか?
KEN: らしいですよ(と項垂れる)。
Jun-Gray & Minami: ハハハハ。
-- すみません、聞いてはいけないことを聞いてしまいました。ところで、野音で「Whatcha Gonna Do」をやる時も「日本のど真ん中で」ということをおっしゃっていたんですけど、あれも日本のど真ん中で、《マ〇コ》とか、《チ〇コ》とかを歌うという。
KEN: いや、僕、《マ〇コ》とか、《チ〇コ》とか歌ってないですよ。英語がそう聞こえただけで(笑)。
Jun-Gray: 偶然ですよ。
-- でも、気持ちの中では日本語で歌っているということだったんじゃないですか?
KEN: ちゃんとお話しするとそういうことですね(笑)。
一同: ハハハ。
-- あれもパンク精神の発露の1つなのかなと思いながら見ていたんですけど。
KEN: そうですね。あの場所でマイクを通して、その文字の並びはなかなか言えないですもんね。
-- 言った人はいないんじゃないか、と。
KEN: そういう場所ということで意識はしていました(笑)。
-- 快挙だと思います。
KEN: 快挙⁉ やった(笑)。
-- 野音公演では、もう1つ思うところがありまして、「そろそろちゃんと感謝を伝えないと、いつ会えなくなるかわからないし、いつまでやれるかわからない。明日のことはわからない。そういうことを口にするような年齢になった」とおっしゃって、チバユウスケさんと恒岡章さんの話をされたじゃないですか。もちろん、年齢のこともあるとは思うんですけど、おふたりのこともあって、明日のことはわからないとか、時間には限りがあるんだとか、そういう心境になられているんじゃないか、と。
KEN: そうですね。ちょっと大きな話になっちゃいますけど、実はもう40過ぎぐらいから、僕はずっとその感覚と共に生きているんです。
-- はい。コラムにも書かれていましたね。
KEN: 昔、自分の人生は60年だと思っていたので、45を過ぎたとき、あ、最終コーナーを回ったという感覚があったんです。なんとなく死に向かって、生きているような感覚が日常であるんですね。実際、体力は落ちてきましたし、見かけは老けてくるし、頭の回転は悪くなるし、本当に人間って老いるんだなってまた最近実感していて。そんな中でチバ君の病気とか、ツネが亡くなったこととかがあって、自分の中でそれがもう、何て言うのかな、自分が昔から感じてた死に向かって生きていく感覚と、周りにいる友人が病気になったり、亡くなったりってことと重なって、本当にそういう年齢になったんだなって自覚せざるを得ないんですよね。
-- その自覚が時間は有限だという考えに繋がって、だったら限られた時間の中でできるだけできることをやろうとか、いろいろなことをやってみようとかというポジティブなモチベーションに、どこかのタイミングで変わったんじゃないかという気もしているんですけど、どうですか?
KEN: それは日々、戦いですね。特に人前で、そういうことを発する時はポジティブになるんですけど、1人で考えていると、ものすごくネガティブですよ。舌打ちと一緒に出ると言うか、ちっ、歳食っちゃったなー、くそっていう(笑)。でも、人前で言葉を発する者としては、そんなものをネガティブに表現しても気持ちのいいものではないので、ポジティブなものに昇華させて、発するだけですね。
-- 僕も50代後半で、いつまでフリーランスの音楽ライターとして仕事を続けていけるのかということを考えるようになったんですけど、横山さんがそういうことを言いながら、現在のように精力的な活動に邁進しているところを見ると、言い方が陳腐になってしまいますが、励まされるところもあって、横山さんには大人のロック・ミュージシャンとしてかっこいい姿を見せていってほしいと期待せずにいられないんです。最近、「Let The Beat Carry On」を演奏するとき、「文化を繋げていかないと」っておっしゃっているじゃないですか。50代のミュージシャンとして、文化を繋いでいかないといけないという使命感と言ったら大袈裟になりますけど、そういう気持ちもあるんじゃないかと思いながら、最近、ライブを見ているんですけど。
KEN: 使命感と言うより、強い願望ですね。僕がパンク・ロックを含め、激しい音楽からいいものをもらったように、僕らの音楽を聴く人達も、全員とまでは言わないけど、きっと誰かは何かを受け取ってくれるだろうって。うん、もうそういう強い願望でしかないですね。
-- 願望ですか。
KEN: 使命感と言ったら、ちょっとおこがましいかな。
-- 同じ50代のMinamiさんとJunさんはいかがですか? 時間に限りがあるという感覚はありますか?
Jun-Gray: うん。でも、それはけっこう前からありますよ。Ken Yokoyamaに入ったのが44歳なんですよ。それ以前にもバンドをずっと続けてきたわけじゃないですか。だから、Ken Yokoyamaに入った頃、いつまでやっているんだろうなって漠然と思ったりもしたけど、結局、今もやっているわけで。確かに時間に限りはあるんだろうけど、好きだから、やれる限りはいつまでもやっているのかなって。それくらい単純なことだと思います。病気になったらそこでストップせざるを得ないこともあるかもしれないけど、よくレコーディングの前に、「絶対、今死ねない」とか、「今、絶対事故れない」とかって口にするんですよ。せっかく、あとレコーディングするだけってなってるのに、ここでケガしたら、ましてや死んじゃったらもったいなさすぎる。レコーディングが終わるまでは、病気にもなれないし、事故れないしってレコーディングの時は毎回思うんですよ。
KEN: 録りさえ終わればね、「俺が死んでも出る」ってね(笑)。
Jun-Gray: とりあえずこれでひと安心って思ったりするっていうその繰り返しですよ(笑)。
-- 因みにJunさんはKen Yokoyamaの定年間近だそうですね?(笑)
Jun-Gray: そうそうそう。
Minami: ハハハ。
Jun-Gray: 自分よりも上のミュージシャンがぽつぽつ近くにいるんですけど、そういう人達を見ていると、こっちも元気が出るし、そういう人達が引退したら、すごくがっかりするだろうし。海外のミュージシャンも然りなんだけど、そういう人達ががんばっているところを見ていると、自分も全然できるのかなって思うところもありますね。
-- Minamiさん、いかがですか?
Minami: 僕もKENさんと一緒で、40代後半くらいからそういうことを意識しだして、そんな中で、コロナ禍で動きが止まったわけじゃないですか。その止まっている約2年間、やっぱりすごくストレスでしたね。残りあと何年やれるかわからない中で、2年間取られちゃうって言うか、よくメディアで、若い子達の卒業式ができないだの何だの、今しかない時間を失ってしまってかわいそうだみたいに言ってましたけど、そんなの歳取ってたって、時間の大切さは一緒なんだよって。
Jun-Gray: ハハハ。
Minami: いや、残された時間が少ないおっさん達のほうがよっぽど時間は貴重だって意見はありましたよ。冗談抜きで。だってねえ、若い子達は幾らでもやり直しできるじゃないですか。それに比べたら、もう後がないおっさんのほうがよっぽど辛いですよ。
KEN: 確かに(笑)。
Minami: その中で、今こうやって、KENさんも忙しいって冗談っぽく言ってたけど、自分なんかはやっぱりすごくうれしいですね。この忙しさが。
KEN: 以前は歳を取るのが楽しいなという感覚があったはずなんですよ。若い時にできなかったことが実現しやすくなったり、経験を積んで、目的に達するためのインフラも頭の中で組み立てやすくなったりするわけじゃないですか。だから、30代の時はおもしろいと思ってたはずなんですけど、ここまで来ると、イヤですね(苦笑)。ほんと、いろいろやりやすくなったけど、体がついてこないと言うか、気力も、もちろん運動神経も。いやぁ、この前まで若手のはずだったのになってよく思います(笑)。
-- でも、そんな中でもやっていかなきゃいけない、と。
KEN: そうなんですよ。
interview by 山口智男
Vol.2へ続く...
Interview Vol.02
-- それでは、今回のシングルの話を聞かせてください。「My One Wish」の《Born once again(If I could Be)》(=もしもう一度生まれ変わるとしたら)とか、「Time Waits For No One」(=時間は誰のことも待ってくれない)とか、時間に限りにあるからと思っているからこそ出てくる言葉と言うか、発想なのかなと思いました。
KEN: 2曲ともそうですね。
-- アルバムに向けての、曲の振り幅というところもあると思うのですが、疾走感のあるメロディック・パンク調の「My One Wish」と、メタル風のハードなリフで聴かせる「Time Waits For No One」。今回、そこに木村カエラさんを迎えた「Tomorrow」を加えた3曲になったのは、どんな経緯からだったんですか?
KEN: 実はですね。今年2月にレコーディングしたんですけども、その時、8曲録ったんですよ。それを2曲、3曲、3曲に分けて出そうということなんです。
-- シングルシリーズとして。
KEN: はい。種明かしになっちゃうんですけど、この後、もう1枚シングルが出るんですね。それをどういう順番で出したらおもしろいかなっていう組み合わせで、こうなりました。だから、録った時期は前作の「Better Left Unsaid / Whatcha Gonna Do」と同じなんですね。
-- 「Better Left Unsaid / Whatcha Gonna Do」を除いた6曲の中から、どんな意図があって、今回の3曲を選んだんですか?
Minami: 6曲の中からメインの曲を2曲選ぶわけじゃないですか。
-- 今回のシングルと次のシングルの表題曲として。
Minami: はい。それで、この曲にはこの組み合わせだよねということで、今回の3曲、次の3曲になっているんだと思います。
KEN: そうだね。なんとなくのバランスですね。
-- なるほど。「My One Wish」は8ビートと2ビートを織りまぜた演奏も聴きどころの1つではないかと思うのですが、8ビートと2ビートの使い分けはセッションしながらアレンジを決めていったのでしょうか?
KEN: そうです。大体、僕が曲を持っていくんですけど、なんとなくのイメージしか持ってないんですよ。「ここは2ビートで、サビで8ビートになってみようか」みたいな。で、その場で試して、よくなかったら、「全部2ビートで突っ走ってみようか」というふうにセッションして、試して、その都度iPhoneに録って、家に持って帰って、ああでもないこうでもないって曲を練っていきますね。
-- 8ビートと2ビートの巧みな使い分けについて、EKKUNはどんなふうにアプローチしていったんですか?
EKKUN: 巧みに使い分けられているかどうかはわからないですけど。
-- 使い分けていますよね?
KEN: はい(笑)。
EKKUN: やめてください(笑)。
-- えっ、使い分けていますよね?
EKKUN: やめてください。それはやめてください。
Minami: EKKUNが巧みに使い分けなきゃこの曲はできなかったと思います。
KEN: 匠です。
Minami: たっくんにする? これからは。
EKKUN: 名前が変わっちゃった(笑)。
-- EKKUNの得意な感じなんですか?
EKKUN: そうですね。個人的には得意です。
Minami: ウソつけ(笑)。
EKKUN: みなさんの評価はわからないですけど。
KEN: ハハハハ。
EKKUN: 僕としては得意分野ではあるんです。あるんですけど……。
KEN: EKKUNがなぜこんなにまごまごしながら話しているかと言うと、僕らってリズムに対するリクエストがすごく多いんですよ。それはやっぱり8ビートであることとか、2ビートであることとか、それぞれにかっこよさや意味を見出したいからなんですけど、EKKUNよりも先に、こうしたいって思いついちゃうと、それをEKKUNの中で消化するのに時間が掛かったりっていう。そういう場面って意外と多いんですね。だからEKKUN的には、全部、自分でやったかな、これっていう。
Minami: ハハハハ。
KEN: いや、もちろん、叩いたのはEKKUNよ。
EKKUN: わかりますわかります。みんなで作り上げたっていう。でも、8ビートである理由、2ビートである理由がちゃんとパートごとにあるってところで、最後にさらにハーフになるじゃないですか。その手前のおかずは考えました。
KEN: ハハハハ!
EKKUN: そこはこだわりました。どういうフレーズにしたら、次の展開がさらに勢いづくのか考えて、レコーディングしました。
KEN: 龍巻いたんだよね。
EKKUN: はい、龍巻きました(笑)。
-- 「My One Wish」は、Minamiさんのミュートしたカッティングが2番でガガガと入ってきて、そこに横山さんのギターがフィードバックから重なるところから、メンバー全員の演奏の熱がぐっと上がるところがめちゃめちゃかっこよくて、バンドならではだと思います。
Minami: Ken Yokoyamaのよくあるパターンって言ったら、ちょっと語弊はあるかもなんですけど、他の曲でもなくはないんで、その差別化と言うか、あの曲はこうだったから、この曲はこうしたら、似ているけど、ちょっと変わるよねってところで意外と苦戦はしてますね。
KEN: そうだね。
Minami: でも、同じバンドだし、そこまで劇的な変化にこだわる必要もないかっていう開き直りもありつつ、その匙加減ですよね。
-- Junさんの上で鳴るベースラインもアイデアとしては王道と言えるものですけど、かっこいいですね。
Minami: Junさんはベースラインのことしか考えてないんですよ(笑)。
Jun-Gray: いや、そんなことはないけど、この曲調はうちらの得意分野と言うか、すごくうちらっぽい。前に出した「Better Left Unsaid」よりもKen Yokoyamaっぽい曲なんじゃないかな。だから、(EKKUN以外の)こっち3人はもう、さっきの8ビートも2ビートも、「ここはもうこうでしょ」ってKENが曲を持ってきた時点でわかるんだけど、EKKUNは意外と苦戦してたよね。
Minami: それでベースラインについては、どう考えていたんですか?(笑)
Jun-Gray: あ、ベースライン? ベースラインは完璧です。いつもね。
一同: ハハハハ。
KEN: いつも僕が言ったとおりにちゃんと弾いてくれてます。
Jun-Gray: うるせえよ(笑)。
-- おっしゃるとおり、Ken Yokoyamaの得意なタイプの曲だと思うし、疾走感もかっこいいと思うんですけど、疾走感のみならず、円熟味が絶妙に入り混じっている曲だとも思っていて。僕個人としてはメロディの良さが最初に入ってきたんです。特にサビのメロディの展開は聴いていると、胸が熱くなる感じがして、「Better Left Unsaid」の時もメロディメイカーとしての横山さんの才能を改めて感じましたが、「My One Wish」のサビのメロディの展開は、コード進行から作っていったんですか。それとも浮かんできたメロディにコードを当てていったんですか。どういうふうに作っていったのでしょうか?
KEN: 曲によって、作り方が違うんですけど、「My One Wish」はサビのメロがポンと出てきて、それにコードを当てたらこうなりました。だから、サビからできたんですよ。
-- このメロディをぽんと思いつくってすごいと思います。降ってきたみたいなことですよね?
KEN: そうですね。僕、頭の中に木が生えているんです。
-- はい。
KEN: そこに鳥が止まるんですね。その鳥を捕まえると、曲になるんです。中には逃げちゃう鳥もいるんですけど……っていうことですね(笑)。
-- みなさん、笑っていますけど(笑)。
KEN: 時々、僕のプライベートな友達から、「曲ってどうやって作るの?」って聞かれたとき、そうやって説明するんですよ。そしたら、「ほぉ~」って感心してくれるんです。ちょっとしたネタです。ちゃんとその後に「うっそ~ん」って言いますけど。
-- でも、わかりやすいたとえだと思いますよ。ところで、「Better Left Unsaid」は、どんなふうに?
KEN: あれはどこからできたかな。
Minami: あの8ビート感の曲を作りたいってところから始まったんじゃなかったでしたっけ。
KEN: だったかな。いや、あれは何か……うーん、忘れちゃいました。
Minami: 鳥が逃げちゃった(笑)。
KEN: でも、「My One Wish」はぱっと思いついて、自分でその場でサビをiPhoneに録ったのでよく覚えています。
-- Ken Yokoyamaはギター2本とベースとドラムというシンプルなアンサンブルじゃないですか。その中で、より良い曲を作るとなると、やはりメロディを磨き上げなきゃってところになっていくんですか?
KEN: うーん、メロディももちろん大事ですけど、バンドとしてのアンサンブルはちょっとした小技を重視していますね。それはもう聴いている人に伝わるか伝わらないかわからないですけど、演奏する側の楽しみとして。聴く人はメロディが一番入ってくるってわかるんですけど、それをどう際立たせるかってためのメソッドはすごく意識してます。メロディだけ良くてもダメなんだっていうふうには思ってますね。
-- たとえば、「My One Wish」だったら、8ビートと2ビートの織りまぜ方みたいなところですか?
KEN: はい。あと、1番と2番のAメロが微妙に違うとか、そういうところはなるべく、「こんなもんじゃね?」ってところに落とし込まないように。そこはすごくピュアに考えていると思うんですよ。「まあ、こんなもんじゃね?」って作ったものってバレるような気がして。バレるからイヤなんじゃなくて、僕もイヤなんですよ。やることが濁っている気がして。だから、そこは徹底的にやりますね。そこは聴く人がどうこうと言うよりも自分の物作りってところなんでしょうけど、これ、今までやったことないとか、あ、この感じはなかったとかっていうのを思いつくと、すごくうれしいです。
-- ところで、さっき強い願望という言葉が出ましたけど、「My One Wish」の歌詞は、たった1つの願いを歌いながら、ロックンロール賛歌のようでもあり、自分賛歌のようでもありという曲なんじゃないかと思うのですが、《I hope that rock ‘n’ roll will still be alive then》(=ロックンロールにまだ生きていて欲しい)、《For a World where rock ‘n’ roll don’t exist is just not worth living again》(=ロックンロールがない世界に何て生まれ変わる価値はないのさ)という歌詞から想像するに、ロックンロールがなくなってしまうんじゃないかという危機感があるのでしょうか?
KEN: めちゃめちゃありますね。僕はあまりヒット曲を聴く人間ではないし、チャートはどうだとか注視している人間ではないので、漠然としたイメージでしかないんですけども、生の楽器のスリリングさがもはや世の中に要求されていないんじゃないかなって思うんですよ。あれ、何て言うんだろう?わからないけれども、今流行っている音楽もそれはそれで素晴らしいんだろうし、ベースにはロックンロールがあるのかもしれないですけど、正直に言うと、ロックンロールを感じないですね。僕はロックンロールの良さをものすごく体感した人間なので。50年代のチャック・ベリーから始まって、ハードロックも好きですし、にわかには信じられないですけど、先入観を捨てて考えたら、世の中ではロックンロールで、いわゆる生の良さがあるものって、案外ウケてないぞって思うんです。
-- わかります。
KEN: それが流行り廃りで終わってくれればいいんですけど、時代は巡るからいずれ戻ってくるよみたいな楽観的なこともあまり考えられなくて。このままそっちのほうに流れて行っちゃうんじゃないかという予想をしていますね。
-- なるほど。
KEN: 話が大きくなっちゃうかもしれないですけど、音楽の聴かれ方がずいぶん変わったじゃないですか。音楽の価値自体が違うので、僕達が育った時のことを言っても全然ナンセンスですけども、でも、僕は僕が受け取ったものをいいと思っているからこういう歌詞になるわけで。
-- 音楽の聴かれ方は本当に変わってしまったと思います。先日、ある若者が「最近、ダムドが好きなんです」と言っていたんです。だから、「どのアルバムが好き?」と聞いたら、「サブスクで聴いているからどのアルバムが好きかわからないです」と言われて、そうか、アルバム単位っていうのは古い考えなんだって。
KEN: そうなんですよ。ごめんなさい、話飛んじゃっていいですか。今回、シングル3つ、次作を含めて出すんですけど、アルバムの価値の低下に対して、僕らも実験しているってところもあるんです。僕は自分でレコード会社もやっているので、言うのは辛いんですけど、アルバムの価値は、まぁ、ものすごく落ちましたよね。でも、こっちは性根が性根なので、12曲あったら、これがA面の1曲目だとしたら、これはA面の6曲目というふうに曲順を考えちゃうぐらいアルバム人間なんで、そりゃ今の子と話はズレるよなって思います。こういうことを表では、「嘆くことでもないよね。時代がこうだからしょうがないよね」って話をするんですけど、1人で部屋にいると、怒ってばっかですね(笑)。「誰だ、サブスクなんて考えた奴は⁉」って(笑)。1,000幾らで聴き放題なんてしてるから市場が壊れるんであって、なんでそれを許したかな。公正取引委員会が入って、聴き放題は20,000円ぐらい取ればいいんですよ。聴き放題で1,000幾らって、アーティストと曲の価値を下げて、ユーザーは安ければ安いほどいいわけですから、企業に責任があるんじゃないか。おまえらどうしてくれるんだっていうところはありますね。すごい話になってきちゃった。
-- ところで、歌詞の中で、たった1つの願いを幾つか歌っているんですけど、それらは並列なんですか、それとも最後のパンチラインが究極の、たった1つの願いなんですか?
KEN: どれも並列ですね。因みにこの曲の聴きどころは、たった1つの願いが5つもあることです(笑)。
一同: ハハハハ。
-- そして、「Time Waits For No One」。こういうハードロックと言うか、メタルっぽいリフを持った曲はこれまでもありましたが、この曲は実はありそうでなかった曲なんじゃないかとメロディに関しては感じました。
KEN: 僕達としてはすごくロックンロール・ベースのものをやろうというのがありました。大体、曲を作っていると、何々っぽいものを作ろうって言って、途中でその何々っぽいものは忘れて、その曲の素材にひっぱられてできあがっていくものなんですけど、この曲は最後までロックンロールであることにはすごくこだわりました。
-- それは「My One Wish」の《I hope that rock ‘n’ roll will still be alive then》(=ロックンロールにまだ生きていて欲しい)という歌詞に繋がるところなんですか?
KEN: 繋がってないんですけど、繋がっていることにしておいてください(笑)。いや、でも何か繋がりはあるんでしょうね。この歌詞を書いた時期は、そういうことを思っていたんだろうな。
-- 歌詞はすごくビターなのですが、《Yeah》とか、《Hey》とか、《Hoo Woo》とか、掛け声で楽しそうなところがいいですね。
KEN: そうですね。《Hoo Woo》って言うところは、「ブラウン・シュガー」みたくやりたいという話をしていました。
-- あっ、ローリング・ストーンズの。なるほど!
KEN: 心象風景として、すごくロックンロールがあったんですよ。
-- 「ブラウン・シュガー」と言われると、確かにと思います。因みに、この曲はずっとハイハットを鳴らしていますよね?
EKKUN: 鳴らしているんですけど、だいぶ苦労しました。
KEN: 4分で鳴らすか、8分で鳴らすかでね。
EKKUN: ニュアンスがだいぶ変わるんですよ。
-- なぜ、ずっとハイハットを鳴らそうと?
EKKUN: リクエストされたんです。ずっとハイハットを鳴らしとけって。
KEN: 結局、8分で鳴らしてとリクエストしたんです。
EKKUN: ちゃんと刻めているか、刻めていないかで、曲の出来が全然違うっていうのをレコーディングで改めて痛感して、ちゃんと刻みたいと何度もトライした結果です。
-- ハイハットをずっと鳴らすっていうのは、どんなところからの発想だったんですか?
KEN: 演奏してみての感触だと思うんですけど、そうしたほうがこっちもしっかり8分でリズムを取っているので、ドラムの金物でリードしてほしいって感じたんじゃないかな。
interview by 山口智男
Vol.3へ続く...
Interview Vol.03
-- さて、木村カエラさんを迎え、ミュージカル『アニー』のテーマソング「Tomorrow」のカバーは2021年10月の配信スタジオライブで木村さんと演奏した曲を今回改めてレコーディングしたそうですね。
KEN: カエラとは前から一緒に何かやりたいねという話をずっとしていたんです。配信ライブで対バンしようかみたいなところから始まったんですけど、配信という環境の問題から対バンができずに、うちのバンドにカエラだけ来てもらってということになったんですね。そこで初めて一緒に演奏したんですけど、それがすごく楽しくて、その時、一緒に音源を作りたいと思ったんです。4曲でも6曲でもいいから、何か特別なものを、カエラと僕ら4人で5人組バンドをやるくらいの気持ちで作りたいと僕1人で盛り上がったんですけど、段々日が経つにつれて、そこまでやらなくてもと言うか、僕らみたいなおじさんバンドにカエラを付き合わせていいものかって思えてきて(笑)。やろうよって言ったらカエラは気持ちよくやってくれると思うけど、誘うのがいいことなのかどうなのか、こっちが、こっちがって言うか、僕が及び腰になっていったわけです。それで、せめて1曲ぐらい録ろうと言って、やってもらったのが今回の「Tomorrow」なんです。でも、それも申し訳なくて。
-- 申し訳なくはないと思いますけど(笑)。
KEN: 楽しんでやってくれたとは思うし、本当はリード・トラックにしたいぐらい、いい出来だと思うんですけど、そうすると、僕らと一緒に取材を受けなきゃいけないわけじゃないですか。それが申し訳なくて(笑)。
-- いや、全然申し訳なくはないと思いますよ(笑)。「Tomorrow」を選曲したのは?
KEN: カエラです。配信ライブの時にね。アレンジもすぐ思いついて、この形ができあがりました。
-- 『Better Left Unsaid』は2曲入りでしたけど、今回はその「Tomorrow」を含む3曲入りで、初回限定盤はスタジオライブ音源3曲を収録したExtra Discが付きます。前作に比べて、大盤振る舞いという印象がありますが、それはシングルの出し方をいろいろ探っているということなんですか?
KEN: そうですね。前のシングルを2曲収録という形で出したのは自社流通を使ったということもあります。自社流通で限定販売だったんですね。いつまでオーダーを受け付けるかわからないけどってことで、もう終わっちゃったんですけど、今回は大きな流通に乗せるので、そうなると、CDの価値の話にもなりますけど、普通に出したんじゃ、シングルですら売れない。なので、初回限定盤には急遽、スタジオライブを付けることにしました。
-- スタジオライブの3曲は、みなさんで選曲したんですか?
KEN: そうでした。けっこういろいろなアイデアが出たよね?
Minami: 出ましたね。
KEN: 「Love Me Slowly」をやろうっていうのは、すぐに決まったっけ?
Minami: そうですね。
KEN: ライブでもたまにやるんですけど、原曲はキーボードが入っているじゃないですか。それなしのバージョンも僕らは持っていたので、それを出すにはいい機会だねって。他の2曲はいろいろ変わりましたね。
-- 「Fuck Up, Fuck Up」はJunさんが歌っていますね?
Jun-Gray: それはね、最後に決まったんですよ。「Love Me Slowly」が決まって、もう1曲はカバーにしようって候補曲も何曲かあって、実際、スタジオでやってみた中からWeezerの「Teenage Victory Song」に決まったんだけど、「Fuck Up, Fuck Up」も実は違う候補曲があって、そっちで行くんだと思ってたから、俺は全然、歌うつもりはなかったんですよ。
KEN: ハハハハ。
-- Junさん、ライブでこの曲、歌っていますよね?
Minami: 元々はSerge (Verkhovsky)がいた頃、Sergeが歌ってたんですよ。
-- そうでしたね。
Minami: その後、ベースがSergeからJunさんに変わったから、「Junさん、歌ってよ」くらいの気持ちで歌ってもらったんです。
Jun-Gray: 俺、歌うことはそもそも好きじゃないんですよ。だから、コーラスも普段、あまりやらないんです。「Fuck Up, Fuck Up」は、たまに歌ってましたけど、それを急に来週、3曲録るよってタイミングで、レコーディングするって言われて、マジでって。でも、がんばりました。
KEN: 本人はとぼけてますけど、そこに至るまでにはちゃんと議論を尽くしたんですよ。
Minami: そうそうそう。
Jun-Gray: でも、違う曲をやる予定だったじゃん。
-- 「Fuck Up, Fuck Up」の前後にスタジオのガヤが入っていますが、あれは本当にその時の音なんですか?
KEN: そうです。
-- 最後に「こんなもんじゃない?(笑)」って言っているのは?
KEN: 僕です。レコーディングの環境下で、もっとできるはずだって空気にどんどんなっていくじゃないですか。もう、それを止めたかったんですよね(笑)。
Minami: そうですね。
Jun-Gray: 俺も何回も歌いたくないから、それでいいじゃんって感じです。
KEN: でも、「Fuck Up, Fuck Up」を歓んでくれる人は絶対いると思うんですよね。Junちゃんファンは多いから。
Jun-Gray: いや、音源はいい出来なんですよ。ただ、自分はそんなに歌いたくないっていうだけで。これが出たら、やってくれってリクエストが増えるっていうのはわかってるんですけど。
KEN: 何なの、その自信(笑)。
Jun-Gray: ただ歌うのは苦手っていう。
KEN: 今回、ブックレットにスタジオライブ音源の歌詞は載せてないんですよ。なんですが、「Fuck Up, Fuck Up」だけは、Junちゃんが実際に使用した歌詞カードが載ってるので。
Jun-Gray: それは見てもらいたい。
-- それには初回盤を買わないと。ところで、Weezerのカバーがアルバム未収録曲とっていうのは……。
Jun-Gray: 渋いよね。
KEN: 僕がその曲が収録されているシングルを持っていて。「Island In The Sun」の3曲入りシングルの3曲目だったんですよ。すごく好きな曲なんです。むしろアルバムの曲よりも好きなんですけど、ただ、コード使いとか、コードに対する音の当て方が、僕らがやらないような、ちょっと地味と言うか、潜ったラインなので、演奏してみて一度ボツになりかけたんですけど、演奏の疾走感が良かったら録ってみようって。そしたらすごく良かったんですよ。めちゃかっこいい曲になったと思います。元々、かっこいい曲なんですけどね。でも、聴いてもらったら、納得してもらえると思うんですよ。Weezerバージョンとはアレンジも全然違っていて。
-- Ken Yokoyamaらしいカバーになっていると思います。
KEN: 「Teenage Victory Song」、Weezerファンは知ってますかね?
Jun-Gray: 俺はWeezerけっこう好きで、この頃のアルバムも持ってるけど、シングルは持ってないからこの曲は知らなかった。だから、こんな曲があるんだって思った。
-- 意外にファンでも知らないかもしれないですね。
KEN: でも、僕の中ではWeezerの代表曲の1つになっちゃうんですよね。Weezerの「Teenage Victory Song」は、サブスクで聴けないんだっけ?
Minami: なかった気がする。
Jun-Gray: YouTubeにあるよ。
KEN: そうなんだ。あ、僕らのバージョンもサブスクでは聴けないんですよ。スタジオライブ音源の3曲はサブスクには載せないから。じゃあ、これはWeezerファンもこぞって初回盤を買ってもらわないといけないですね(笑)。
-- いつリリースするかはさておき、次のシングルは、また形態が変わるんですか?
KEN: 何か考えないといけないとは思ってます。正直、めんどくさい時代になっちゃいましたね。前のアルバム(『4Wheels 9Lives』)で初めて初回限定盤にDVDを付けるっていうのをやってみたんですけど、その波がアルバムのみならずシングルにまで来ている。もちろん、俺らはいいよってつっぱることもできるんですけど、それをすることによって、1人でも多くの人が音源を聴いてくれるんであれば、やるべきなんじゃないかっていうバンドのジャッジですね。
-- 横山さんが描いたジャケットもCDを手に取る理由になっているんじゃないですか?
KEN: 後付けだけど、あるかもしれないですね。『Better Left Unsaid』『My One Wish』と次のシングルの3つは描こうと思っているんですけど、アルバムはさすがにできないです(笑)。
-- アルバムの話が出たので、聞かせてほしいのですが、そのアルバムはシングルシリーズの曲に新曲を加えるわけですよね?
KEN: シングル用に録った8曲からは数曲しか入らないです。だから、シングルで聴けない曲がすごく多いんです。
-- アルバムに入れる新曲は、もう作り始めているんですか?
KEN: レコーディングは終わりました。
-- え、もう終わっているんですか!?
KEN: 忙しいわけですよね(笑)。
-- リリースがいつ頃っていうのも決まっているんですか?
KEN: 来年になりそうですね。
-- これを聞くのは気が早いとは思うのですが、どんなアルバムになりそうですか?
KEN: いいアルバムになると思います(笑)。前作の『4Wheels 9Lives』は速い曲を中心に入れたんですよ。それで僕はライブに来てくれる人とか、僕らの音楽を聴いてくれる人とかの承認を受けたと思ってるんです。それぐらい、いいアルバムができたと思うし、ライブでも浸透していると実感を得られたんです。だったら、今度は毛色の違うアルバムを作ってみようっていう。大体、そういうチャレンジって、僕、失敗するんですけど、今回は、良さそうです。
Jun-Gray: 毎回、前作を超えているとは当然思っているんですけど、『4Wheels 9Lives』より良くね?って思うくらい手応えはありますね。『4Wheels 9Lives』とは違う部分もあるけど、ガラッと変わっているわけじゃないから、期待は裏切らないと思いますよ。
-- 来年のリリースが、より楽しみになりました。さて、「My One Wish」のリリース・ツアーは、ホールツアーです。
KEN: はい。東名阪でやります。
-- ホールツアーということで、どんなライブになりそうですか?
KEN: 「My One Wish」を披露したいツアーではあるんですけど、それも含め、ホールならではの選曲ができたらなと思ってます。ただ、ホールだからと言って、特別な演出は考えていないので、見ていてエキサイティングなセットリストをちゃんと組みたいですね。
-- そう言えば、最近、ライブの時、曲を演奏する前に曲に込めた思いや、その曲をその日に演奏する意味をていねいに話されているという印象がありますが、意識的にそうしているんですか?
KEN: 話すこと自体はそんなに意識的ではないんですけども、僕、セットリストを考えるとき、ものすごくいろいろなことを考えるんです。なんとなくでは絶対やらないんですね。結局、本番で突然、曲を挟んだりするから、ステージ上では、なんとなくになるんですけど。さっき言った、こんなもんじゃね?で済ませないって話に繋がるんですけど、1本1本のライブにちゃんと意味があるはずなんですね。それをちゃんと捉えたい。だから、ステージに上っちゃえば、ロックンロールすればいいんだよって態度を取りますけど、実はライブ前はまったく違うことを考えているんです。それがステージ上で出ちゃうんですよね。あのお喋りがなければ、倍ぐらいの曲数ができるんですけどね(笑)。
-- でも、僕の印象ですけど、最近はMCが以前よりも簡潔になった気がします。
KEN: そうですね。怒られまくっているんで、メンバーに(笑)。怒りはしないですけど、チクリチクリとは言われますからね。
interview by 山口智男