―― 現在、久しぶりに小箱を回るツアー"Feel The Vibes Tour"中です。俺も新宿アンチノックで観ましたけど、その日の楽屋で横山さんが俺を見たときの第一声がツネさんに関する強烈なブラックジョークで、かなりギョッとしました。まあ、内容は言わないですけど。
KEN ああ、仲間内でしか通じないからね。
Jun-Gray 通じてないけどね。
KEN まあ、通じさせたいなと思って。
―― そう、ギョッとはしたんですけど、「俺に気は遣わなくていいからね」っていう横山さんなりの気遣いなんだろうなと。
KEN ああ、それはあるかもな。俺もいろんな人からすごく心配してもらったからさ。みんな、俺の顔を見たらきっとそのことが最初に浮かぶだろうし、気は遣わなくて大丈夫ですよっていう……なんでいきなりこんな話を持ち出すんだよ(苦笑)。
―― いや、ツネさんが亡くなったことはハイスタだけの問題ではないし、実際にKen Yokoyamaのライブにも影響を与えているし……。
KEN そりゃあ、そうだよ。
―― だから、この話を避けてしまうと、今のKen Yokoyamaのインタビューとして成立しないんじゃないかと思って。
KEN たしかに。
Jun-Gray まあ、何が正解かはわからないけど、俺たちも進んでいかないといけないし、ずっと引きずれない部分もあるから……とは言っても、簡単に忘れられるわけでもないんだけどさ。
―― それはそうですよね。自分の経験で言うと、親族を亡くすことと仕事……つまり音楽に関わることって無理やり切り離すことはできるんですよ。だけど、今回はそうではなくて。
KEN そうだね。
―― それが難しいというか、辛くて、消化しきれなくて。Ken Yokoyamaの中ではどうやって共有されていたのか聞きたいです。
KEN ……シングルのレコーディング中だったのよ、ツネが亡くなった日。さすがにその日はショックだったよ。でも、次の日からブラックジョークを言ってたよ、俺はね。レコーディング中だったから、それに影響を受けたくないと思ってたところがあって。もちろん、悪い意味じゃなくてね。切り替えたいっていう。
―― よくわかります。
KEN ギターを弾こうとする俺に対して、メンバーから「大丈夫……?」なんて思われるのも嫌じゃない?
―― 自らそうしなきゃいけないと思ってやっていたこととはいえ、辛いのひと言では言い表せないものがありますね。
KEN うん、敢えて表現するなら、俺なりの自衛本能だったのかもしれない。そうしないと、レコーディングもそうだし、このバンドの活動に対して正気ではいられないというか。でも、今は本当に笑いたいと思ってる。ツネとの思い出って楽しいことばかりだったし、いつも笑かしてくれたのよ。あいつ自身はそのつもりがなくてもさ。ツネって変わった人間だったじゃない?
―― そうですね。
KEN だから、ツネのことを思うと楽しかった思い出ばかり浮かんできてさ。そういう話の延長で、「しまいには死んじゃってさ!」みたいな温度に早くしたいんだよな。まだ四十九日も済んでないけどさ。それがツネに対して失礼なこととも思えない。Junちゃんとかはビビるだろうけどね。
―― 3人はどうだったんですか。
EKKUN 俺はツイッターで知ったんですよ。
Jun-Gray たまたまいなくてね。こっちもバタバタしてたから教えてなくて。
EKKUN スタジオに向かってる途中だったから、「今日はどうするんだろう……」と思ったんですけど、やるってことだったんでそのままスタジオに行きました。
KEN 当然、「今日はさすがにやんないかな……?」ってなっちゃうよね。
―― バンド内での受け止め方はどうだったんでしょう。
Minami 僕なんかは昔、Hi-STANDARDのいちファンで、同じバンドをやってたわけでもないけど、会えばもちろん仲よく話してくれてて……。Ken Yokoyamaに関しては、KENさんがどう動くか様子を見てたところはあったかな。その後のスケジュールも細かく決まってたし、それをやることはもう決まってたからさ、もちろん冷静ではないし、KENさんがやりたいと思ってても「今日はいけない」みたいな日も出てくるだろうし、その中でバンドがやるべきことをやんなきゃなって思ってた。
―― それについて話し合いはあったんですか。
Minami いや、そうでもない。「KENさん、平気かな」って様子を見ながらだったかな。
Jun-Gray ちょうどKENのギター入れがあって、その後には歌も入れなきゃいけなかったりして忙しくなる直前だったから……今思うと、変な話、そんな時期だったからKENはいろんなことを考える暇もなく、レコーディングに打ち込めたのかなとも思ったり。でも、1週間後にレコーディング、っていう感じだったらどうなってたか分かんない。あのときはとにかくやらなきゃいけないことがいっぱいあったんだよね。
KEN そう、そういう現場の最中だったから……この言い方が合ってるかどうかは分かんないけど、レコーディングでけっこう気が紛れてたんだよね。あまり直視せずに済んだというか。
―― うんうん。
KEN 俺はさ、亡くなったツネに会いに行ったり、お通夜もあったし、お葬式もあったし、残された家族とちょっと話したり、そういうことをいろいろやってたんだけど、レコーディング中で、しかも自分がギターを弾いたり歌ったりしないと進まないっていう状況はいい意味で気が紛れたんだよな。
―― 今回のシングルのリリースを延ばすという発想にはならなかったんですか。
KEN ならなかったよ。もしさ、大切な録りがある日にどうしてもツネのほうに行かなきゃいけなくて、そのせいでレコーディングが延びてリリースがズレるっていう状態だったら可能性はあったかもしれないけど、そういうバッティングが意外となくて。あと、これは本当に極論だけどさ、さっきJunちゃんもちょっと話してたけど、こっちはこっちでさ、ツネが亡くなった次の瞬間から生きていかなきゃいけないわけで、それはすごく考えてたかな。「悪いけど、俺はやるべきことをやるよ」って。
―― うんうん。
KEN こういう発言を見て「冷たいなあ」って思う人も中にはいるかもしれないけどさ、俺らがやってることはそんな甘いもんでもないし、それはツネだってわかると思うんだよね。
―― それは俺も自分の仕事で感じました。
KEN 世の中の人はみんな等しくそういうことがあるんだよ。これは言葉を選んで言わなきゃいけないけど、ツネだけが特別なわけではないのよ。もちろん、俺らとかハイスタのことを好きでいてくれる人たちとか、ハイスタを慕ってくれるバンドマンにとってはものすごく大きなことではあるけど、やっぱりそれぞれが次に向かっていかなきゃいけないわけでさ。
―― そうですね。
KEN 訃報を聞いたとき、俺はレコーディングの休憩中だったの。さすがに2時間くらい作業は止まったけど、その後もちゃんとギターソロ弾いたよ。会いに行こうと思ったんだけど、すぐ行かなきゃって思ったんだけど、状況を整理したら「やっぱり行くべきじゃない」ってその日はなったの。
―― うんうん。
KEN (ツネの)奥さんに会いに行ってもさ、邪魔くさいだけだし、いきなりハイスタのメンバーが行ったってね……。親族内で話すべきこともあるだろうし。だから、「どうしようかな……」とか思いながらも俺はギターを取ったよ。
―― これは個人的な話なんですけど、俺はツネさんから叱られることのほうが多かったから、これで自分の仕事のペースを乱したり、いつまでもクヨクヨしてたらあの笑顔で怒られるよな、みたいなことを思って。
KEN ね。
―― ということは、今回のシングルはそんな状況で作り上げた作品だったんですね。
KEN そう。
―― 話は戻りますけど、ライブハウスツアーもなんだかすごいことになってますね。いろんな意味合いが乗っかって。
KEN そうなんだよね。奇しくもさ、ツアーが始まった3月13日っていうのは、政府から「今日からマスクの着用は個人の判断に委ねて、ライブとかの催し物はキャパ100%まで入れていいですよ」っていう話があった日で、引きが強いなと思ったよ。
―― そうですね。
KEN まあ、政府がそういうアナウンスをしなかったとしても、俺たちは腹を決めて昔どおりのライブをするつもりだったから、「世の中には内緒な」っていうことになってたのかもしれないし、コロナが依然として猛威を振るってたら、「ごめん、やっぱりマスク着用でその場から動かないでくれ」って言ってたかもしれない。でも、ああいうアナウンスが政府からあったから、すごいツアーになっちゃってるね。そこにツネのことが加わったから、なんか……すごかった。
―― 初日はF.A.Dでしたけど、どんなライブでしたか?
EKKUN とりあえず、「久しぶりだな」って、あの熱気というか、お客さんのエネルギーというか。テンション上がりました。
Jun-Gray 3年半ぶりにそういう光景を見たから、ちょっとびっくりした。
―― びっくり?
Jun-Gray 「結局、お前らはグラデーションもないまま一気に来んのね」みたいな(笑)。段々と暴れだすのかなとか思ってたの。でも、ライブが始まってみたら一気にだったから、「俺も忘れてましたよ、これ」って。大阪とか名古屋とか、どこ行ってもそうだよね。みんな、これまできちっと我慢したり、ガイドラインに沿ってやってたけど、「自由だよ」って言ってあげるとこうなるんだなって。まあ、それでいいんだけどね(笑)。
Minami 俺は、なんか……微笑ましいっていうか。
―― 微笑ましい?
Minami いや、なんかね、ツアーは3年ぶりじゃない? でも別に3年前に戻ったわけじゃないじゃない。
―― そうですね。
Minami よく見るお客さんとかもさ、ちゃんと3年分歳とっててさ。ちょっと太ってたり、ちょっとシワが増えてたり。そういう人たちが昔みたいに必死に暴れようとしたり、ダイブしようとしたりして汗だくになってるのを見て、嬉しかったんだよね。別に3年前に戻る必要なんて全くなくて、一緒にこのときを待ってた感じが嬉しかった。
―― コロナ禍に出した作品『Bored? Yeah, Me Too』と『4Wheels 9Lives』がようやく完成した感覚っていうのはありますか。
KEN 俺はすごくあったな。俺はお客さんと一緒に歌うのが好きなんだけど、それがないまま『Bored~』と『4 Wheels~』をリリースして何年も経ってさ。でも、椅子ありだったり、声出しNGの会場で一緒に歌わなくても、手が挙がったりしてるのを見ることでみんなの生活に作品が入り込んでるなっていう実感は得られてたのね。だけど、今回は「この合唱を待ってた!」って感じだった。「やっと、やっと、落とし前がつきました」っていう感じだった。「4Wheels 9Lives」はいつもライブの序盤にやってるんだけど、やるたびに鳥肌立ってたね。
Jun-Gray こっちも曲をつくってたときは当然、「このパートでシンガロングが起きるんだろうな」って思ってたけど、コロナ禍の間はそれがずっとなくて、でも今回は「ほら、やっぱりここは歌うよねぇ~!」みたいなさ。
KEN そう、「みんな歌いたかったよねぇ~!」って。『4Wheels~』なんて2021年5月に出したんだけどさ、「なんでそんなタイミングでこれ出したのかな、俺はバカなのかな」って思ってたんだよ。合唱できる曲がたくさん詰まったアルバムなのにさ。
―― でも、溜めて溜めての爆発もすごかったですけどね。
KEN そうそうそう。一周回って、「自分、すげえ」になるんだけど。
―― あはは! 最近音源を出すバンドはシンガロングを意識したものが多い印象ですけど、Ken Yokoyamaには関係なかったですね。
KEN そう。一番声出しちゃいけない時期にシャープな曲を出してたからね(笑)。今回のツアーだと、「Woh Oh」なんかもよかったな。みんな歌いたかったんだろうな。「Still I Got To Fight」とかさ。
―― 音源を聴いてると勝手にライブの光景が思い浮かんでましたから。とはいえ、アンチではけっこう気を使ってライブの進行をしてましたよね。
KEN うん、さっきMinamiちゃんが言ったことに近いんだけど、3年ぶりだからお客さんも3つ歳をとっててさ。歳をとったことはさておき、久しぶりに無茶する人もいると思ったの。だから、必要以上に休憩して、換気して、っていうライブの進め方をしたかな。そうしないとこっちだってへばっちゃうし。
―― 久しぶりの小箱で感覚的に違うところってありました?
Jun-Gray けっこう疲れた。ぶっちゃけ、Zeppみたいな環境のほうが演奏はしやすいし、疲れない。客もそうだろうけど、なんか力が入るんだろうね。ガチンコみたいな感じになるし、「ちっこいライブハウスって疲れんな」って思った。
―― 俺は、ライブ前に軽くストレッチしかしてない横山さんを見て、「それだけで大丈夫ですか?」って言いました。
KEN 何を心配してるの? ただのロックンロールだよ?
―― あはは!
KEN リングに向かうわけじゃないし、いつも練習でやってることを感情込めてやればいいだけで、ちょっとアキレス腱伸ばして、声が出るか確認したらそれで準備OK。ダイシはさ、すげえストレッチしたり、出番前に気合入れて円陣組んだりするバンドばっか見てんじゃないの?(笑)
―― あはは!
KEN 俺たちはロックンロールなんだよ。で、みんなの気持ちとかはステージに出た瞬間に受け止めればいい。ステージに出る前からそんな準備をする必要なんてないんだよ。
―― 構える必要はない。
KEN 全くない。目が覚めてればいいの。でも、セットリストが決まったら「この曲どうだったっけな」ってちゃんとひと通り弾くけどね。やっぱ、間違えると自分が嫌な思いするからさ、一応ね。でも、ストレッチとかはいらない。
―― アンチのライブで面白かったのが、俺の後ろに女の子2人組がいて、いろいろしゃべりながらステージを観てたんですけど、横山さんがMCで下ネタを披露しはじめた瞬間に、「ああ、お元気そうでよかった」って。
KEN あはは! 照れるね。
―― いや、その反応も違うんですよ(笑)。
KEN まあ、真面目な話、ツネのことも関係あるんじゃないかな。みんな、「KENさんはどういう心境でステージに上がるんだろう」って心配してくれてたと思うんだよね。そこでさら~っとおちんちんの話をしたら、そりゃあね、お客さんも「ああ、お変わりなくてよかった」ってなるよね。
―― それなら最初の一音目でそう思ってくれたらいいのに、「下ネタで確認するんだ」って。それもKen Yokoyamaの客らしいなって。
KEN たしかにね!(笑)
Vol.02へ続く...
Interview by 阿刀大志
―― シングル『Better Left Unsaid/Whatcha Gonna Do』について聞かせてください。これはKen Yokoyamaシングルシリーズの第一弾だそうですね。なぜこの企画をはじめようと思ったんでしょう。
KEN これはメンバー内ではよく話してることで、人に話すのは初めてだから合ってるかどうか分からないんだけど……コロナを経験したりする中で音楽の聴かれ方が変わったじゃない? CDが減っていって、サブスクが中心になって。そんな中でアルバムの意味ってなんだろうってちょっと分かんなくなっちゃってさ。それなら、シングルをポンポン出して、それが溜まった段階で曲をさらに足してアルバムっていう形にすればいいんじゃないかなって。俺たちはこれまでそういうやり方はしてこなかったし、アルバム原理主義者みたいなバンドだったけど、もうそんなこと言ってらんないなと思ったの。ていうのもさ、俺らみたいなバンドって2、3年に1枚アルバムを出すじゃない? それで取材を受けて、リリースツアーをやって、また新曲づくりに戻って、また2、3年経ってアルバム出して、「前作は3年前でしたが……」みたいな取材を受けてって考えたら、「つまんねえな!」と思ったの。作品をリリースするってことはさ、バンドにとってはステイトメントになるわけでしょ?「僕たち、ここにいます」「僕たち、こういうことをやります」って。そういうことを数多くやりたいなって思ったわけ。
―― 数多く見せるためにはシングルというフォーマットがいいんじゃないかと。
KEN 正直言って、シングルなんて面白くないんだよ? 2曲入りだとか3曲入りだとかの作品をつくったってめんどくさいだけでさ、アルバムでドンって見せたほうがカッコいいっていう思いはあるんだけど、その必然性が分かんなくなっちゃったから今回はこれをやってみようかなと。
―― 横山さんは2曲入りのシングルなんて大っ嫌いだったじゃないですか。
KEN そうそう、「この世にいらねえんだ!」ぐらいの勢いだったよね。
―― だから、Ken Yokoyamaのシングルには必ず4曲収録されていました。
KEN そうなんだよ。でも、曲をつくりながらメンバーによく話しててさ、「アルバムしか出さないとなったら曲がかわいそうだ」って。リードトラックだけ注目されるし、みんなプレイリストで好きな曲を集めてランダムに聴いたりするわけでしょ? こっちは「アルバムです」ってつもりでも、聴き手は多分その意識が薄れてるから、いままでやってこなかったことをやりたいんだよね。でも、最終的にはちゃんとアルバムにつなげるよ。それはもう、自分たちの自己満のために。
―― なんやかんやアルバムというフォーマットは好きなわけですよね。
KEN 好きなんだよ。必要とされてるされてないじゃなくて、好きか嫌いか。俺は好きだからやりたい。
―― 2曲入りにすれば、聴き手もその2曲にフォーカスを合わせてくれますもんね。で、今作はレーベル通販で販売する上に受注生産という。
KEN そう、今回はね。
―― あ、じゃあ今後のシングルは販売の仕方が変わるかもしれないということですか?
KEN そうそうそう。次は流通に乗せるかもしれない。
―― となると、なぜ今回はレーベル通販という形に?
KEN 俺はレーベル通販をもっと育てていきたいのよ。ピザオブデスにはレーベル通販の機能があって『Bored~』のときにも使ったんだけど、通販って野菜の直送みたいなもんでしょ? スーパーに卸さないで、農家からあなたの台所へ直接届けます、みたいなさ。それをCDでやってるつもりなんだけど、『Bored~』のときにすごくいい数字が出たんだよね。でも、アイテムが少なすぎてさ。HONESTとか最近のバンドは通販だけで扱ったりしてるけど、ピザオブデスの通販ってまだ認知度が低いのかなと思って、今回はそれがいいかなと。
―― 受注生産ってことは締め切ったらもう買えないってことですよね。
KEN どこで締め切るかはやりながら考えていかなきゃいけないんだけど、どこかの段階で生産中止にすると思う。
―― そういうやり方も初めてですね。
KEN だってさ、サブスクで聴けちゃうんだもん。どうしてもパッケージがいいっていう人はCDが出たらすぐ買ってくれると思うし、売れるかどうか分からない在庫をいつまでも抱えててもさ、それって何のためなんだろうとか思ったり。
―― じわじわと横山さんの感覚が変わってきてますね。
KEN すごい変わったよ。すごい変わった、本当に。でも、俺がそう思うってことは、世の中はとっくにそうなんだよね。
―― デジタル配信を始めるときもなかなか「うん」とは言わなかったですからね。
KEN そうだね。2000年代中頃くらいだっけ。「ジャケがないってどういうこと?」「音源だけ買ったってロマンないじゃん」って。でも、あの段階で突っ張ったのはまだ正解だったと思う。でも、今のこの流れにはもう抗えない。音楽をつくる側だけのロマンじゃない。今はもう、そんなことしたら無駄の嵐だよ。金の無駄、物資の無駄、あと情熱の無駄ね。すごく寂しいことなんだけど、もうしょうがない。
―― レコードは出さないんですか?
KEN レコードはね、海外でCDの売上を上回ったとかいう話を聞くけど、それってただ単にCDの売上が落ちてるだけで、レコード市場が爆発してるわけじゃないんだよね。
―― この間、人に聞いたら、某CD店で人がたくさんいたのはK-POPとアニソンとレコードの売り場だったって。そういう空気は自分も感じるし、日本は特殊な環境だけど、それでも海外と近い感じになっていくんじゃないかと思うんですよね。
KEN それが有効だっていうならやるかもしれないけど、まだその感じは俺らのところには届いてないかな……でも、何年先になるかは分からないけど、次作を出すときに「アナログつくるなんて珍しいですね」「そんなの当たり前じゃん! 今はアナログだよ!」って言ってるかもしれない(笑)。
―― まあ、この先はどうなるか分かんないですからね。で、今作についてですが、「Better Left Unsaid」は横山節全開っていう。
KEN いい曲だよね。できて1年経って、人前でも披露しているし、今回はこれを録るのがいいかなと思って。
―― 年を重ねるたびに深みととともにえぐみのようなものも増してるなと。
KEN どこにえぐみを感じた?
―― 最後の<もし全てを言葉にしたら オレはお前を 壊してしまう>(日本語訳)とか。「ここまで言っちゃうんだ」って。
KEN そうか。歌詞を書くにあたって、普段からすごい色んなことを考えるわけ。世の中のこと、国のこと、政治のこと、政治とは離れたカルチャーのこと、家族のこと、親子論……いろんなことを考えるわけ。当然、20代の頃とは考えは違うし、感じるものも違う。俺にとってそれは普通のことなんだけど、それが今回の歌詞に反映されてるんじゃないかな。
―― Minamiさんはどう感じました?
Minami まあ、この曲から急にこうなったわけではないからね。
―― 確かに。
KEN ひとりの人間が人と接するときに、自分の思ってることを全部言葉にしたら相手も壊れるだろうし、その人との関係は壊れるよね。
―― はい。だから、俺はめっちゃ共感しました。
KEN 自分の中で溜めることなくなんでも言おうね、みたいなのが人と健全に付き合う上での常套句というか。
―― なんでも言い合える素敵な関係、みたいな。
KEN そう、まさに。そんなんじゃないよと。何十年の付き合いがあったとしても、そんなのたったひと言で壊れることもあったりしてさ。
―― しかも、曲が明るくてキャッチーだから、よりギョッとするんですよね。
KEN 俺は曲調に合った歌詞を書いたつもりなんだけどなあ。
―― マジっすか? EKKUNはどう感じましたか?
EKKUN たしかに、曲調と歌詞の内容がいい意味で離れてて。
―― 巨乳? 竜巻?
KEN 乳が離れてる?
EKKUN (笑)いまの言葉を借りるなら、ギョッとした。
KEN あ、本当?
Jun-Gray 俺はそんなに意外だとは思わなかった。むしろ、さっきKENが言ったように、KENなんて一時<物言うパンクス>なんて言われてたぐらいバンバン物を言う人だったけど、これだけいろんな人が毎日のようにネットを見てると、KENに限らず、発言を切り取られて全然違った解釈をされることも多々あるわけでしょ? だから、そういうことも含んでの話なのかなと思った。何でも言えばいいわけじゃないよって。
KEN 実はこの曲、タイトルから思いついたのね、「何でも言えばいいってもんじゃないんだ」っていう。これは歌詞だからひとつのストーリーにはしてあるけど、何でも言えばいいってもんじゃないって思う瞬間って人によって様々だと思うのね。これは男女の話で、「歌詞の通りだ」って思う人もいるかもしれないけど、さっきJunちゃんも言ったように、ツイッターとかで「こういうこと言わなきゃいいのに、バカなんじゃない?」って思うような人もいたり、人によって<Better Left Unsaid>って感じる場面が違うから面白いなと思う。実生活で感じる人もいれば、SNSで感じる人もいるし、テレビ見てて感じる人もいるし。
―― 実は今の時代を映し出している。
KEN そう思う。<物言うバンクス>とかさ、「KENさんは何でも言葉にしてくれる」とかさ、そういったイメージを持たれてるっていうのは俺自身もわかるの。でも、「そんなバカじゃないぜ?」って思う。言いたくないことは言わないし、言って後悔することだってあるし、言わないでよかったと思って安心することだってあるし。
―― サウンドの話になりますけど、今回はどっちもミドルテンポですよね。それも横山さんのシングルとしては珍しい構成だと思いました。これまでのシングルは4曲入りだったから、その中でサウンドのバランスをとってたけど、今回は2ビートの曲がなくて。
KEN そうね。今回はミッドテンポの曲とレゲエ調の曲だからね。あれなんじゃないかな、『4Wheels~』でやるべきだったコロナの世の中に沿ったやり方がやっとできたんじゃないかな(笑)。
―― ズレまくってる(笑)。このセレクトに異論は出なかったんですか?
Minami 別にこれを出したから次は2年後、とかじゃないじゃない? これから出すシングルとのバランスは一応考えてはいるし、その結果としての今回だから、今回速い曲が入ってないのはたまたまっていうか、別に深い意味はない。
KEN そこらへんのことは全然考えなかったな。でも、これはちょっと別軸の話なんだけど、『4Wheels~』には速い曲がけっこう入ってて、「じゃあ、次のアルバムに向かおう」ってなったときに、ミドルテンポの曲を増やそうと思ったの。
―― へぇ~。
KEN コロナの時期だったからダイレクトにそう思ったっていうのもあるけど、もうひとつ理由があって、速い曲をやるのがしんどいなって思ってきたの。Minamiちゃんもそれはよく言ってるし、Junちゃんもそうよ。昔はそういうことはあんまり言ってなかったけど、(Jun-Grayのマネをしながら)「ライブの1曲目がこんなに速いならちょっとウォーミングアップしとかないとマズいな」とか「前半に速い曲もってこられるとちょっとしんどいんだよな」とか言うようになって。EKKUNはまだ若いからいいんだけど、今やKEN BANDは50代が3人いるバンドなわけでさ、そういうこともあってミドルのいい曲を増やしたいっていう考えが出てきたんだよね。あとは、マイナーの速い曲。「この2軸でいこう」みたいな。この答え合わせができるのは次にアルバムを出すときになるんだけど。
―― それはそれで面白そうですね。
KEN そう。こうやって話すと面白いと思うけど、一曲一曲段階を踏んでつくっていくと「これでいいのかな……?」なんて思ったり(笑)。でも、俺は速い曲をやりたくてこれまで速さにこだわってきたところはあるけど、ミッドテンポの曲、8ビートの曲もすごく好きだね。
―― EKKUNとしてはどうなんですか?
EKKUN もちろん得意なのは速い曲なんですけど、幅があるのは好きです。
Minami ミドルのいい曲って実は前からいっぱいあるんだけど、ライブのセットリストに入れるのが難しいんだよね。でも、最近は割とライブでうまくやれる曲が多くなってきてるかな。
―― ミドルの曲と言えば、最近「Not Fooling Anyone」とかやってます?
KEN いや、あんまりやってない。俺、すごく好きなんだけど、「Not Fooling Anyone」の頃と今とではバンドが違うじゃない? それがけっこうデカいかな。ライブでやるのはなるべくこの4人で作った曲を中心にしたいと思ってるからさ。なるべく、ね。だから、各音源からどれくらいの比率で1本のセットリストを構成するかっていうのはすごく考えるの、俺。
―― その比率って変わっていくわけですよね?
KEN うん、音源が出るたびにどんどん変わっていく。あと、その音源の持つ雰囲気にもよるかな。『4Wheels~』はそこに入ってる曲をいくつもセットリストに据えても遜色ないアルバムだったと思うのね。だけど、今後「このアルバムからは2曲ぐらいやっといて、あとは昔の曲でいいでしょ」みたいなものをつくってしまう可能性もゼロじゃない。AC/DCとかみたいにデカいバンドがそうなようにさ。そういうことで、「Not Fooling~」はたまにやりたいからいつもスタジオで練習はするんだけど、なぜかセットリストを組んでるときに最後の最後で落ちることが多い。
Jun-Gray 「Not Fooling~」はEKKUNも好きなんだよね。
EKKUN 好き。
―― どういうところが?
EKKUN (EKKUNの)奥さんがこの曲好きで……(笑)。
―― そうなんだ(笑)。
KEN そうだよ、EKKUNじゃなくて、奥さんが好きなんだよ。
EKKUN 違う違う! 俺も好き! 俺も好き! コーラスが歌っててすごく気持ちいいです。
Vol.03へ続く...
Interview by 阿刀大志
―― では、2曲目「Whatcha Gonna Do」について聞かせてください。これは複雑な過程を経てつくられた楽曲です。まず、横山さんがWANIMAに曲を提供しようと2016年にメンバーへボイスメモを送ったんですよね。今回、そのときに書いた卑猥な日本語詞を英詞に置き換えて収録しています。そもそも、なんでWANIMAに曲をつくりたいと思ったんですか?
KEN いや、理由はないんだよね。ある日、会社のソファーでギターでレゲエを弾いてたんだよ。多分、POLICEか何かが頭にあったんだと思うんだけど、それに鼻歌を乗っけてみたらWANIMAみたいになってさ、「あ、これ、WANIMAじゃん」って。「自分たちでこういう曲できたら面白いんだよな」とは思いつつも、「これ、WANIMAにあげたらどうか」ってその場のノリで思いついたわけ。で、適当な歌詞をつけて、「はい、これあげるから曲にしなね」って。
―― じゃあ、歌詞もその場の勢いでつけたものなんですね。
KEN 基本はね。ただ、人間の深いところを歌ってたものだから、その場の思いつきというのとはちょっと違うんだけどね。
―― <チンコが伸びたり縮んだり>っていうのが?
KEN そうそうそう。なんていうのかな、チンコが伸びたり縮んだりするっていうのはさ、経済がどうとか、政治がどうとかっていう以前の話じゃない?
―― ああ。
KEN それって人間の根源の話だと思うのよ。それについて歌うっていうのはすごく大事なことだと思う。
―― はい。その後の流れを教えてもらっていいですか。
KEN あ、もういいのね。で、WANIMAはそれをちゃんとレコーディングしたのよ。レコーディングしたものを聴かせてもらったらすごくてさ。ビートも速くなってて、いろんなパートがついてて、いいねと思ったんだけど、なぜかアルバムには入らないでそのまま俺も忘れちゃってたの。で、コロナ禍になってステイホームの動きがあったじゃない? そのときにいろんなミュージシャンがネットを使ってメッセージを届けて、いかに家でもみんなを楽しませられるか考えてやってたけど、WANIMAは俺があげた曲でPVを作ってKENTAのインスタにあげたの。それでWANIMAのファンが盛り上がったんだよね。
―― なるほど。
KEN でもさ、WANIMAって大きなバンドじゃないですか。だから、俺が書いた歌詞のとおりに<チンコ>とか言っちゃいけないわけ。たしか、その代わりに<尻尾>になったのかな? <尻尾が伸びたり縮んだり>って。俺が思い描いていた心象風景とまるで関係ない内容なわけ。
―― あっはっは!
KEN <マン○が濡れたり乾いたり>っていう歌詞も<マント>になってたのね。「そりゃそうだよね、マントも雨に降られたら濡れるし、干しときゃ乾くよね……ってそこに何の意味があるんだよ!」とか思ったわけ。だから、これはもう一度自分の手に取り戻すしかないとこのタイミングでなぜか思ったんだよ。
―― それをそのまま英詞にしたんですか。
KEN そうです。
―― しかも、歌詞の意味を生かすんじゃなくて、響きのほうを生かすという。俺、最初は<チンコ><マン○>のところしか耳に残ってなかったんですけど、よくよく聞くと歌詞が丸々日本語から英語に置き換えられていて。
KEN そうです。
―― しかも、ちゃんと英詞の意味がちゃんと通ってるっていう。
KEN そうです。
―― Minamiさん、これ、英語にするのめちゃめちゃ大変だったんじゃないですか?
Minami 大変だった。
―― 響きだけを重視して英単語を集めてつくるならまだなんとかなると思うんですよ。だけど、ちゃんと意味も通すとなると難易度は一気に上がりますよね。
Minami まず、KENさんから日本語をもらって「これで英詞つくって」って言われたの。
―― すごい無茶振り!
Minami しかも、「いつもみたいに訳して」とか何も言われずに丸投げ。
―― 具体的に何も言われず?
Minami そうそう。で、どうすればいいのか分かんない状態で2週間くらい手がつけられないでいるうちに、「まだやってないのかよ……」っていう空気をKENさんから感じて「どうしよう……!」と思って、本当に1日1行絞り出して、英語の響きありきで日本語の訳は後付け、みたいな感じでやってみたらなんか上手い具合にそれっぽいものができて、結果オーライ。
―― すごいっすね。
KEN いい歌詞になっちゃったんだよね。
Minami そうそう。深い歌詞になって。
KEN 俺が最初にこの歌詞を見たとき、ボブ・ディランが浮かんだね。
―― ……ちょくちょく出てきますね、ボブ・ディラン。
KEN まあ、これはボブ・ディランに限らず、何かを言ってるようでいて、何も言ってない、でもどうとでも取りようがある、みたいな。すごく文学的な歌詞だよね(笑)。
―― Minamiさんも達成感があったんじゃないですか?
Minami いやいやいや! こういう風にやってくれって頼まれたわけじゃないから、KENさんからは「こうじゃないんだよな」って返ってくるかなと思ってたの。そうしたら意外と面白がってくれて、「よかった……」って。安心しかなかった。
KEN Minamiちゃんも言ってたけど、元々の歌詞をどう解釈してどう作り変えていくかっていうのを丸投げしちゃったわけ。でも、俺の予想を超えたのね。俺、「最終的には<dick>とか<wet>とか、そういう言葉が入るんだろうな」って想像してたから、「それだけするのに何週間かかってるんだろう」と思ってたわけ(笑)。
―― じゃあ、Minamiさんが感じてた圧は勘違いじゃなかったんだ(笑)。
KEN そう(笑)。「まだ?」って。でも、出来上がったのを見て、「これ、すげーな!」と。で、歌詞をスタジオに持って行って一回歌ってみたらもう、虜ですよ。
―― 歌詞を実際に口にしたときなんてヤバかったんじゃないですか?
KEN 最初、笑っちゃって歌えなかったよ(笑)。
―― あはは!
KEN 「<二倍増し>って言ってるよね!」って。実際は ―― 全編空耳っていう。横山さんから何も指定されてないのに、Minamiさんはなんで敢えて難しいやり方を選んだんですか? Minami レゲエって語呂が大切じゃない? ただ訳すだけだとリズミカルじゃなくなるんだよ。だから、あの日本語の響きを活かさないとダメだなと思って……でも、「日本語で歌えばいいじゃん!」と思いながらやってたよ? KEN あはは! ―― やっぱり、曲の頭は<チンコが~>の感じじゃないと合わないと。 Minami そうなんだよ。 KEN 曲もさ、WANIMAのバージョンだと5個くらいのパートを詰め込んでたからさ、最初に「Whatcha Gonna Do」のカバーするよって言ったときに、Junちゃんから「お前、ラップするの? あそこ、どうするの?」って言われたのよ。でも、「いや、考えがある」って。ラップパートとかを削ぎ落として、俺がデモテープを録ったときの形に近づけてさ。 ―― メロディーも原型を採用してるってことですよね。 KEN そうだね。歌い出しが似てるぐらいで、あとは崩した。サビについてもよくバンド内で討論したね。 ―― Ken Yokoyamaでレゲエってどうやってつくっていくんですか? やっぱり、Minamiさん主導? Minami いや、そういうわけでもなくて。大好きなわけじゃないけど、みんなレゲエは聴くから、自分たちなりの解釈でつくった感じよ。 KEN 前回のアルバムでも「On the Sunny Side of the Street」っていうジャズのインストを入れてるんだけど、あの曲を録るときも「俺たちはジャズを演奏したいわけじゃないから、全部<なんちゃって>でいいんだよ」って話をよくしてて。今回もレゲエをやりたいわけじゃないし、自分の思うレゲエ感を大事するってことでさ。ここを踏み外したらレゲエとしてはアウトですみたいな一般論があったりするじゃない? それはジャズもスカもそうなんだけど、そういうことって意外とどうでもいい……とまでは言わないけど、無視しちゃっていいことだと俺は思うんだよね。 ―― そこまで大事なことではないと。 KEN それよりも、自分からレゲエはこう見えるとか、ジャズはこう見えるってことに忠実であったほうが面白いものができると思うんだよね。ルールってあるようでないから。 ―― それでも、そのレゲエ感は4人で統一していないといけないですよね。 KEN たしかに、それはそう。 EKKUN 最初のうちは「それはそうじゃないだろう」みたいなことを言われてたんですけど、俺もレゲエは好きで聴いてるから、こうだろうと思ったものをブラッシュアップしました。 KEN さっき、「ルールはあるようでない」って言ったけど、ある程度はあるわけでさ(笑)。あと、「ぽい感じ」とか、そういうツボは突いてほしいなっていうのはあった。そこは演奏する者のお楽しみとしてさ。ドラムは弦楽器とは違って特殊だから、一緒に音を鳴らしてても見えてるものは違うと思うの。だから、初期段階ではEKKUNがどう解釈するかっていうところで苦労はしたかもしれない。でも、ギター2本とベースとドラムで鳴らす俺たちのレゲエ感はうまく出せたと思う。 ―― 今回の2曲を聴いてて面白いと思ったのが、キャッチーでみんなが好きになりそうなのは「Better Left Unsaid」なんだけど、ふとしたときに口ずさんでるのは完全に「Whatcha Gonna Do」なんですよね。 KEN あっはっは! ―― そういう意味でも面白い曲だと思いました。 KEN 演奏しててもすごく楽しいよ。 ―― さて、今後はさらにシングルを何枚か出して、アルバムづくりに向かっていくと。ライブはどうなるんですか? KEN ライブもけっこう決まってるのよ。 Minami 野音。 KEN そう、野音。音源の話に戻るけど、そもそもこの2曲は野音に来てくれる人に届いたらいいなと思ってるんだよね。野音でもやりたいからさ。 ―― 気持ちよさそう。 KEN それ、Minamiちゃんも言ってたのよ。「これ、野音でやったら気持ちよさそうだな」っていうから、「じゃあ、最初のシングルに入れちゃおう」って。「Better Left Unsaid」はもう入れることが決まってたから、あともう1曲入れるなら「Whatcha Gonna Do」なんじゃないかって。 ―― 野音でKen Yokoyamaがやるのは初めてですよね。やることはライブハウスと同じですか? KEN まず言っておきたいのが、今後も椅子ありの会場でのライブを続けていきたいのよ。オールスタンディングのライブハウスと椅子ありの会場の両方でライブをしていく上で、選曲の仕方とかライブの進め方は多少変わっていくと思うんだよね。だから、野音ではコロナ禍で培ったものを見せられたらなと。 ―― それはいいですね。 KEN ぐちゃぐちゃなライブハウスで久しぶりにライブをやって「これこれ!」って思ったけど、椅子ありのホールとかでやるライブの面白さもちょっと味わってしまってて、「これはこれでいいところがいっぱいあるな」って思ったのね。だから、今後も続けていきたいのよ。 ―― ホールの何がいいと思ったんですか? KEN まず、ライブハウスと違って落ち着いてしっかり演奏ができる(笑)。あと、ぐちゃぐちゃなライブだと前のほうにいたくないっていう、女性とかお子さんとかちょっと体の弱い男性でも一番前で見れる。 ―― なるほど。 KEN それは思わぬ副産物だったな。ホールでライブやるとさ、そういう人たちがギターソロのときとか指先をじーっと見てるわけ。それを見て、「こういうのもいいな」って。 ―― ライブハウスじゃそうはいかないですもんね。 KEN そうだよね。だから、たくさん回るわけじゃないけど、今後ホールツアーも予定してる。さっき挙げた人たち以外にも、ライブハウスとかオールスタンディングのライブはあんまり行きたくないけど、ホールだったら行きたいっていう人もいると思うんだよね。野音はその第一歩。 ―― コロナ禍で得たものを無駄にしないっていう。 KEN うん、すごく楽しみだな。 ―― じゃあ、シングルシリーズも含めて、今後はこれまで違った新しい展開を楽しめるんですね。 KEN そうだね。今後、どうなっていくのか今の段階で予想するのは難しいけど、シングルをたくさん出して、椅子ありの会場でもライブするようになって、そういうことがこのバンドに新しい刺激をもたらしてくれるんじゃないかなって期待してる。 ―― コロナ禍で横山さんはライブへのモチベーションがちょっと下がってたけど、それも戻ってきた感じですか。 KEN うん。でも、コロナ禍でもね、ライブやる前はどうやったらいいのか分からなかったからモチベーションの持ちようもなかったけど、一度始めちゃえば楽しかったよ。すごいモチベーションでやってたよ。「椅子ありの会場とかなんだよ」とは思ったし、「声出せないってなんだよ」とも思ったけど、観に来てくれた人たちはみんな何かを期待して、何かを見たくて、それぞれの生活を削って来てくれてるわけじゃない? そういう人たちの期待を裏切らないように、その日しか見れないものを見せるつもりでやってた。 ―― 話は変わりますけど、HONESTみたいな若いバンドが出てくるってめっちゃいいですね。Ken Yokoyamaが出たMステを見てバンドを組んだってのが熱いなと思って。 KEN ね。「こうなってくれたらいいな」ってことが起こってる。 ―― だから、またMステにってわけではないですけど、Ken Yokoyamaにはもっといろんなメディアにゴリゴリ出てもらいたいなって思いました。 KEN そうだね。 ―― ちゃんといいもの、かっこいいものをやってれば、引っかかる人いるじゃん、みたいな。そういう希望が感じられたから、もっと表に出ていってもらいたいです。体力的には大変なんでしょうけど。 KEN 入れ墨的にもね。 ―― ああ、それもあったか(笑)。でも、「もうKen Yokoyamaは自分たちのペースでいい感じにやればいいじゃん」とは全然思わないです。なので、頑張ってください。 Jun-Gray 頑張ります! KEN でも、Junちゃんは退職が近いから。うちは60歳定年なのよ。 ―― そうなんだ(笑)。 Jun-Gray あ、これ書いといて。定年なんて言ってるのは保守的っていうかさ、何ひとつロックっぽくないのよ……これが今日のインタビューの締めだから、夜露死苦。 Interview by 阿刀大志