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Review 02 / フリーライター:石井恵梨子


インラン・パブリックス。まず名前がいいじゃないですか。公にインランなんですよ。人呼んで「淫乱公共地帯」ですって。そんでルックス確認。なんてIQの低そうな4人組でしょうか。はい、馬鹿はっけーん。すでに表情はニヤニヤ崩れかけております。

で、音を聴いてバチコーンと笑いが弾けます。一曲目“ノー・モア・ファッキン・リアル・ワールド!”の大合唱は、そのまま大爆笑と換言してもいい。エレキのド真ん中にちんぽこ突っ込むようなロックンロール。全身を麻痺させ、感電したケツに火がついたまま、曲がるカーブも曲がりきれず、ひたすらトップスピードで走っていく狂気のビートパンク。一発でわかります。こいつらマジで馬鹿。最高にイカれた馬鹿野郎どもでしょう。よーいドンで死ぬまで大暴走。ワハハそのまま地球の果てまで行ってこーい! ってな気分。

印象が変わったのは6曲目「ロザリーロザリー」でした。妙にロマンチックな歌詞から始まるこの曲の、孤独と悲しみが祈りとなって夜空に放たれていくような、マイナーコードのサビの切なさたるや! ふいに息苦しさを覚え、胸の奥の繊細なところがキュッとしてしまう。なに、この、札付きの不良少年が雨の日の公園で仔猫拾ってんの見かけちゃったみたいなドキドキ感。さらに後半「お前の部屋」で完全ノックアウトされました。なんて切なく狂おしいラブソングなのか。

イカれた馬鹿野郎であることと、せつないロマンチストであることは、この音楽において決して矛盾していません。純粋であるがゆえに傷つくのなら、誰にも触れられないスピードで走り続けるしかない。だるい世の中に窒息しそうだから、いっそ息を止めたまま踊り狂っていよう。それがインラン・パブリックスなのだと思います。コロシテシマエと悪態をつく叫びがアイ・ラブ・ユーに聴こえた瞬間、つまり最低の馬鹿どもが最高のロックスターにひっくり返った瞬間、私は恋に落ちていました。

恥ずかしいけど本当のことを書きます。ロックンロールって人を馬鹿みたいにときめかせてくれるもの。年甲斐もなく性別も超えて、人を簡単に恋に落とすもの。なぜならそれはあまりに純粋なラヴソングだから。退屈で窮屈で毎日死にそうだ、おまえなんか知らない寄るな触るなと尖ったカッティングを張り巡らせて、そのくせ彼らは震えながら「おまえ」の存在を求めて泣き叫んでいる。これは、「おまえ」さえ居てくれればこの世界はひっくり返ると信じる者にしか歌えない音楽です。「おまえ」以外はすべて敵に回してかまわないと覚悟した連中の音。もちろん、ここで言う「おまえ」とは「ロックンロール」だと換言してもいい。魂を売り渡たすってそういうことですよ。

己の魂を賭けた強烈なロマンと覚悟、代わりに引き受けた孤独とやるせなさ。それらを爆発させてロックンロールするインラン・パブリックス。久々にドキドキしながらヤられてしまいました。低能パンクスにして優れたロック詩人でもあるヴォーカリスト・清水には、モジモジしながらこう伝えたい。

ねぇ、地球の果てまで連れてって。

推し曲 M⑥「ロザリーロザリー」
フリーライター:石井恵梨子