―― 約2年半ぶりとなるフルアルバム『Anywhere,Everywhere』 がリリースされます。この2年という期間はコロナ禍でもあり、足止めをされたバンドも多く、COUNTRY YARDもそのひとつではありますよね。このタイミングで新作を発表できるということは、どう捉えてますか?
Keisaku “Sit” Matsu-ura(Ba/Vo) 流れとしては、PIZZAから初めてのオリジナルアルバム、『The Roots Evolved』を一昨年の3月にリリースしてすぐにコロナ禍に入って、そのリリースツアーが全公演中止。その後、仕切り直してのリリースツアーをいざ始めようっていうときに作っていた新曲がレコーディングできる形になっていて、それが『Alarm / Let Me Out』というシングルになり、そのリリースツアー中に出るっていう。
―― それが昨年3月でしたね。
Sit だから、すぐに5枚目のフルアルバムを作るっていう気持ちにはなっていなかったけど、ナチュラルに制作へ向かっていったというか。急いで作ったわけでもないし、このときを待っていたわけでもないし。
―― サイズがフルアルバムということに関しては?
Sit オレも最初はミニアルバムかなって日和っていたんですけど(笑)、バンドとしても個人としてもだんだんとそういう気持ちになっていきましたね。
―― じゃあ、予定していたというより、いい流れの中で自然とそうなっていったような。
Sit 来年、僕ら結成15周年なんですけど、お客さんの中ではそこに合わせてフルアルバムを出すんじゃないか、みたいな勘繰りもあったみたいで。
―― そういうパターンも多いですからね。
Sit でも、そんなに勘ぐらなくていいよっていう感じっす(笑)。このタイミングがナチュラルなんだと思います。
―― 少し振り返った話をお聞きしたいんですけど、動きづらかったこの2年はどう捉えていますか?
Yu-ki Miyamoto(G/Cho) 絶対にみんな、ストップしちゃってた時間だと思うんですけど、その中でもオレらはこれまでにないぐらいスタジオに入ったんですよ。リリースツアーも延期しちゃったし、来たるべき日に備えて、バッチリ決められるよう『The Roots Evolved』の曲を練習してて。もちろん、歯がゆい期間ではあったけど、今になって振り返れば、バンドのクオリティを上げたり、距離を近づけたり、作品を作る上では必要な時間になったんだろうなって。
―― となると、バンドとしてモチベーションが下がるようなこともなく。
Hayato Mochizuki(G/Cho) そこは保ててたんじゃないですかね。そんなにネガティブになることもなかったし。リリースツアーは中止になっちゃったけど、ここまできたら(仕切り直して)最後までちゃんとやろうっていうテンション感でしたからね。
Sit オレだったらソロをやったり、アコースティックをやったり、みんなそれぞれ新しいチャレンジをしながら自分の生活をしてて、そこまで(コロナに)気持ちを持っていかれなかったと思うんです。だから、普通に「スタジオに入る?」みたいな会話にもなり、バンドは揺れ動いたりはするけど、ぶっ倒れることはないみたいな。
―― ちなみに『The Roots Evolved』自体の手応えはどう感じていました?
Sit リリースしてすぐにお客さんと接するタイミングがなかったから、あんまり周りの感想みたいなのはわからなかったんですけど、バンドマン、特に先輩バンドから「すげえいい作品だね」って言われたりもして。だから、作品として認められるモノを作った感触はありましたね。
Shunichi Asanuma(Dr) コロナ禍になって、広がり方が難しいところがあったかもしれないけど、楽曲やメロディーの良さがちゃんと伝えられるし、作品としては最高のモノが作れたと思ってます。だから、今回は『Anywhere,Everywhere』のインタビューですけど、まだ『The Roots Evolved』も諦めてないということも本音というか。『Anywhere,Everywhere』と共に広がっていって欲しいんですよ。
―― あと、先ほどの話でもありましたけど、仕切り直してのリリースツアー中に『Alarm / Let Me Out』をリリースしたじゃないですか。COUNTRY YARDって、リリースツアーを終えて、そこでケジメをつけないと次回作へ向かえないバンドだと思ってたんですよね。
Sit そうっすね。
Miyamoto あ〜、たしかに。
―― イレギュラー続きだったというのもありつつ、驚いたことではあったんです。
Sit でも、あのリリースもすげえリアルタイムな動きだったというか。戦略的に無理くり出したっていうより、それがやりたくなったっていう感じ。他にも、Deviluse Tokyoでやったアコースティックライヴもそうだし、WAKEFiELD sessions(※実験的な手法で行った配信ライヴ)もそうだし、やってみたいなと思ったからやってみたというのが強くて。
―― メンバーから「そろそろ新曲を作ってみない?」みたいな話はあったり?
Miyamoto いや、なかったですね。そんな心配をしないぐらい、(Sitが)常に音楽を作ってるのを知ってましたから。コロナ禍に入ってすぐぐらいだったかな、いくつかネタはあるみたいなことも話してたし、オレらよりよっぽど意欲的でしたよ。
―― いろんなバンドをインタビューしてると、コロナ禍に入って曲が書けなくなったっていう人も多いんですよ。
Sit あ〜、そういうのはないっすね。
Miyamoto たしかにライヴとかはできなくなったけど、そんなにオレらは変わらなかったというか。何も変わってないって言ったら、それはそれでおかしいんですけど。
Sit オレの場合、逆にそこでスイッチを入れられたところもあって。普段から曲にしたいことは書き留めていたりもしたし、恥ずかしがらずにやりたいことをやっていきたいなとも考えたんです。
―― 古い話になっちゃうんですけど、振り返ればCOUNTRY YARDは活動がちょっと停滞気味になった時期もあったじゃないですか。だから、悪いスパイラルに巻き込まれててもおかしくないよなって想像してたりもして。
Sit コロナ禍に入ってからShunちゃんがポロッと言った言葉があるんですけど、「これだけ作りたいモノ、表現したいモノがあるっていうのはすげえいいことだと思う」って。もちろん、気持ち的なアップダウンはあったけど、クリエイティブに関してのモチベーションが下がることは常にないし。それこそ、「レコーディングまでギリギリだから作らなくちゃ!」みたいなこともなくて。常に作りたいから作って、録りたいから録ってるっていうバンドのスタンスなんですよ。
―― バンドのソングライティングを担う人がこう発言してくれるのは、メンバーとして頼もしさがありますよね。
Asanuma そうですね。しかも、それが無理やりじゃないところが凄く素晴らしいとずっと思ってて。これだけ長く続けてるバンドで「こういうことをやりたい、したい」って音で表現できるのはなかなかないじゃないですか。振り絞る部分もあるんだろうけど、自然体のSitが凄く頼もしかったですね。
―― この2年ぐらいの間、新たにインプットしたこと、改めて見直したようなことはありますか?
Mochizuki う〜ん……あったっけな? YouTubeで東海オンエアばっかり観たりはしてましたけど(笑)。
一同 ハハハハ(笑)。
―― 照れ隠しなんだろうなと思いつつ、そこでそう言えるのはHayatoさんらしいですけどね(笑)。
Miyamoto さっきの話の繰り返しにはなりますが、練習ですかね。新曲をライヴで表現する上で練習に長い時間を費やすってことが以前はなかったんですよ。まあ、10年以上やってきて、そうしてこなかったことがよっぽどおかしいことではあるんですけど(笑)、改めて各々が見直すことができたのは大きかったかなと。いちばん単純なことを再認識したと思います。長くやってるとついおろそかにしちゃうことがあるけど、向き合ってみると大事だなって。
―― 実際、新曲はレコーディングで弾いたり、叩いたりしてるわけで、技術的には問題ないわけですからね。
Asanuma プレイに関することで言うと、自分の個性やオリジナリティを自然に出せるようになってきたなと感じてて。ドラムはこうあるべきだ、みたいな考えが抜けていったんです。コロナ禍とは直接関係がないかもしれないけど、いい方向へ向かっていますね。
―― Sitさんはそのへんはいかがですか?
Sit ソロをやったり、絵を描いたりもしたけど、それは表面上なことであって。根本的なことで言うなら、思いついてやりたいと思ったことをやってみる、みたいな。今まで「時間がないから」とか、いろんな理由をつけてやってこなかったことを「やりたいならやろうよ」って自分に言い聞かせたりもして。
―― そのスタンスは『Anywhere,Everywhere』にも如実に表れていると思います。キャリア初となる日本語詞を「Umi」と「Dokoka」で導入したのはそのひとつですよね。
Sit そうっすね。なんで日本語で歌ってこなかったかを自分に投げかけてみたとき、たぶんオレ、ちょっと恥ずかしかったんですよ。でも、挑戦してみないとわからないこともある。結果、バンドマンや音楽家として芯が太くなった気がしますね。
―― 長く英語詞でやってるバンドには「どうして日本語はやらないの?」と投げかけられることが絶対にありますよね。以前はそういうアイデアがなかったんですか?
Sit 昔、1回スタジオへ持っていったことはあって。5年か6年ぐらい前だと思うんですけど。
Mochizuki どれだ? どの曲だろう?
Sit 西荻でスタジオに入ったときじゃないかな? でも、そのときは突拍子もなかったんですよね、タイミングとしても。
Miyamoto あぁ、そうだったかも。オレたちが微妙な反応をしたのかもしれないんですけど、「今回はこれをやってみたいんだ」っていう勢いが緩かったというか。本人なりに「これを広げていきたい」という確信があるときは強く推してくるし。
―― バンドへ持ち込んでみたものの、感触があんまり良くなくて。
Sit でしたね。当時のスタッフからは「COUNTRY YARDは英語詞っしょ!」って言われてたりもして、自分も何となくそれに頷いてたし。ただ、このコロナ禍の間、日本人として日本で生まれて良かったなと思うこともたくさんあったし、そこから逃げずにやってみよう、って。そうしたら、メンバーもスッと受け入れてくれて。だから、同じ境地でもあったのかなって感じたり。納得させられるモノを持ち込めたっていうのもあるとは思うけど。
―― 今回、日本語詞の曲を持ち込んだときはどう感じました?
Asanuma 素晴らしいなと。曲自体の完成度も高かったし、みんなそう感じたんじゃないかな。それに、表現する人がやってみたいことを最大限に表現するべきだろうから。
Mochizuki これは角が立つ言い方になるかもしれないんですけど、英語詞から日本語詞にしたバンドの歌詞って言葉選びがしっくりこないなと感じることもあったりするけど、Sitっぽい言い回し、音の選び方があったから、素直にカッコいいなと思いましたね。
―― 日本語詞を導入するにあたって、もっとバンド内でディスカッションがあったのかと思ってましたけど、そうではないんですね。
Sit そこがオレたちが音楽的であり、めちゃくちゃバンドっぽいところだと思ってて。「ここへ行く為にはああしなきゃいけないし、日本語詞が必要だよね」みたいなことじゃないんです。
―― ビジネスとして広げていく為のアプローチみたいな。
Sit そういう選択を否定することはないんですけど、オレたちはそうではないっていうことなんですけどね。
Vol.02へ続く...
Interview by ヤコウリュウジ
―― では、『Anywhere,Everywhere』全体に関するところで、目指す設計図みたいなモノはあったんですか?
Sit というよりも、1曲1曲を積み重ねていった感じですね。
―― 印象として『The Roots Evolved』よりまた一歩進んだ気がしたんです。湧き出るイマジネーションをそのまま形にしつつも、COUNTRY YARDらしいニュアンスやアクがより加わり、進化した1枚だなって。
Miyamoto 基本、Sitが持ってきてくれる土台を広げていくのがCOUNTRY YARDのやり方で、それは今回も変わらずですね。ただ、モノづくりをするならば新しいモノを作らなきゃいけないっていうのが個人的なルールでもあって、これまでにない作品にしたい気持ちがありました。
Sit いつもだと洋楽っぽくヴォーカルはダブルにしたり、レコーディングエンジニアのアンドリューさんに「こういう音を目指したいっす」って参考にするアルバムを持っていったりしてたけど、今回はそういうこともしなくて。制作を進めていくとき、例えばHayatoに「U2のあの感じを出したくて」みたいな伝え方はするけど、作品として目指してるモノがなかったんです。
―― そういう意識だったんですね。
Sit 結果、(ヴォーカルの)ダブリングはほとんどしなくて、1本のラインが多いんですけど、そういった中で言ってもらったようなCOUTRY YARDらしさを出すのは目指してましたね。
―― 違和感なく、COUNTRY YARDらしさが凄く出てますよ。
Sit ダブリングを多用してたオレのヴォーカルも、実は1本でもすげえ力強いんだと言ってもらえて、そこで勝負した結果、ライヴ感も凄く出たし。5枚目のフルアルバムでそういうところにようやくたどり着けたかなって。それこそ、ずっと日本語で歌ってるバンドなんかはとっくにそこへ到着してるんでしょうけど(笑)。
―― ハハハハ(笑)。でも、今のナチュラルな心境になったからこそ、より良いモノが作れたんだと思いますよ。
Sit これまでも常にそのときに自分たちを音に乗せてきたけど、その中でもいちばん生々しい音をぶちかませたと思います。それが凄く出てるなって感じるし。
―― その生々しさは1曲目の「River」からすぐ感じましたよ。
Sit 初めてなんですよね、1曲目が2ビートじゃないのが。
―― あっ、そう言えばそうですね。加えて、頭のギターリフから媚びないバンドらしい力強さがありますし。
Sit そう言ってもらえるのは凄く嬉しいです。「River」を1曲目にしようと言ったのはたぶんMiyamotoですね。
Miyamoto ……そうだっけ?
一同 ハハハハ(笑)。
Miyamoto なんか、Sitがバンドへ曲を持ってきてくれる段階から滲み出るSit節みたいなのがあって。それがいちばん強烈に出てるのが「River」だと思ったんですよ。まあ、COUNTRY YARD=Sitだから、それがいちばん前に出てる曲が幕開けとしていいんじゃないかなって。
―― そのSit節というのは歌い方? それともメロディーが?
Miyamoto 上手く表現できないんですけど……Hayato、何かあるよね?
Mochizuki 言葉にするのがムズいんだよな〜。メロディーなのか、コード進行なのか、感じる部分があるんですよ。
Miyamoto あえて言うなら、述べるようなフレーズというか、言葉が詰まり過ぎないメロディーを歌ってるのがSitっぽいっていうか。
―― 客観的に聴いてきた期間が長いShunさんは何か感じます?
Asanuma これがSit節っていうのを感じるまでには至ってないんですけど、コード感は独特だなって感じたりはしますね。
―― そういう節みたいなところだと、展開の妙もひとつの特長ですよね。テンポ感だったり、抑揚の作り方が凄く上手い。「River」だと右肩上がりで熱量が増幅していって、ライヴを観てるみたいな感じを受けました。
Miyamoto それは嬉しいな〜。
Sit 自分らもアンドリューさんもライヴ感は出したいと考えてましたね。
―― ああいう展開って、Sitさんがバンドへ曲を持ち込んだ段階から考えてあるんですか?
Sit そうっすね。ただ、そのままやるときもあれば、けちょんけちょんに切り刻むときもあったり(笑)、曲毎って感じです。
―― あと、「River」の歌詞で、日本語訳にすると<それでも唾は飛んでくる で避けると思いきや 当たってみる 文句は言わねぇ その壁が何かを教えてくれる>っていうフレーズがあるじゃないですか。これ、凄くCOUNTRY YARDの屈強さを表してるところだなと思ってて。
Sit 活動がまさにそんな感じですからね(笑)。それに、そういうツバも当たってみれば当たってみただけで何か思うことがあるし。
―― そう思えるのって、COUNTRY YARDが音楽的なバンドだからなんでしょうかね。
Sit コロナ禍になってMiyamotoが「COUNTRY YARDは改めて音楽を」ってツイートしてたけど、やっぱり音楽をやりたくて集まってて、音楽を作りたくて集まってるわけだし。しかも、今はより日常がそこに繋がってて、感じたことを投影していく。まあ、それが36歳とかになってようやくわかってきたところなんですけどね(笑)。
―― 他の曲ですと、「One By One」はCOUNTRY YARDの王道的な曲かなと思ったりもして。
Sit 何が王道なのか当人たちがわかってないんですけど(笑)、たしかに客観的に聴くとこの曲がいちばんCOUNTRY YARDだなと。
―― 奥深いメロディー、適度な疾走感、願うようなSitさんの歌声、このあたりの要素があると凄くらしさを感じます。
Sit そんな中に加えて、憧れのUKロックみたいなところも。サウンドで言ったら、メロディックパンク meets UKロックみたいなところもあるし。オレはすげえUKロックが好きだから、聴いてもらったとき、同じようなスパイスが降りかかると嬉しいなと思います。
―― あと、「Two Years」はこのコロナ禍の期間を歌ってるように感じました。
Sit そうっすね。ただ、コロナ禍を描いてるっていうよりは、この2年間の中で自分が何をやってきたか、っていうところが大きいですね。もしかしたら、何事もなかったとしてもここにたどり着いてるかもしれないし。実際にどうだったのかは誰もわからないけど、こういう状況になったから歌いたかったわけじゃなくて、この2年間でやってきたことを振り返るような感じなんですよね。
―― ここでみなさんにお気に入りだったり、手応えの良かった曲を挙げてもらいたいんですけど、どのあたりになりますか?
Miyamoto 「Strawberry Days」ですね。結構、ダントツかもしれない。PIZZAから2枚目のフルアルバムで、改めてもう1枚作るとなったとき、あんなにフックを打ちまくってる曲を入れられるのって、ちゃんと自分たちの音楽を突き詰めてるからこそだと思うんです。それに、何せ単純にカッコいい。「自分たちはこういうことも好きだし、今やってるんだよね」っていうのが曲として表現されてるのが面白いなって。さっき言ってもらえた、COUNTRY YARDが音楽的であることのひとつの象徴なのかなと思ったりもして。
―― 他にはいかがですか?
Mochizuki オレは「Umi」です。Sitが考えた冒頭のフレーズも凄くいいし、Bメロのフックもいい。あと、1サビが終わった後の静かに落ちるパートも好きなんですよ。
―― 「Umi」はグッときますね。タイトル通り、波間に漂うようなニュアンスから開けていく流れもいいし。
Mochizuki この曲は邦ロックと呼ばれる、ああいうのが好きな人にも受け入れてもらえるのかなって思ったりもしてます。
Asanuma オレも「Umi」が好きなんですよね。Sitがスタジオへ持ってきて、最初に合わせた段階からもう好きだったんです。サビのメロディーがホントに良くて、心を持っていかれた曲でした。でも、最初の方に合わせて、その後、触らない時期も長かったよね?
Sit そうだったね。
Asanuma だから、「あの曲はやらないのかな?」ってちょっと心配してたりもして(笑)。
一同 ハハハハ(笑)。
Asanuma それぐらい、凄く良かったんですよ。出来上がってみても、想像もしてなかったコーラスワークもいいし、サビのメロディーはやっぱり凄い。あの一撃だけでいろんな人が感動するだろうなって。
―― 歌詞の後半で、16号とか町田とか、具体的な単語が出てくるじゃないですか。あんまりCOUNTRY YARDってこういうことをしないイメージでした。
Sit そうっすね。これまで、明確なところを描いてこなかったですからね。例えば、「Heart Island」や「In Your Room」とか、どこにあるかも名前もわからないけど、頭の中で想像させるような場所を描いてきたけど、日本語で歌うとなったとき、そうじゃないなって。
―― バンドへ曲を持ち込むSitさんは選ぶのが難しいとは思うんですけど、何か印象的な曲はありますか?
Sit どれもが思い出深いんですけど、「Life」とかは提示できて良かったなと思ってて。弾き語りのアコースティックを入れるんじゃなくて、バンドのアコースティックアレンジを入れたかったし、自分たちのオリジナリティを昇華したアコースティックサウンドになりましたから。
―― 個人的には「Where Are You Now?」も好きなんです。音楽的でいろんな要素を持ってるCOUNTRY YARDだからできるパンクロックナンバーだと思ったし。
Sit 嬉しいですね。この曲は「どこがサビなのかな?」って思う人がいるような展開にしてるんですけど、分数としてはめちゃめちゃ短い曲で。
―― 2分しかないですからね、この曲。で、ストレートなようだけど、フックと抑揚があるっていう。
Sit 「Bad」とかにも通じるところがあるけど、より自分たちの表現の仕方ができてるなと感じてます。
―― 全体的に凄く広がりがありつつも、バラバラな感じはしなくて。制作段階で設計図を描かなかったにも関わらず、繋がりや流れもしっかりありますよね。
Sit そうなんですよね。曲を並べてから気づいたことなんですけど、1曲目の「River」って川じゃないですか。で、2曲目の「Where Are You Now?」は川に流されてる自分たちを描いてて、3曲目には「Umi」があって。川って、山から生まれた水が海に流れていくわけで。だから、長い道のりを経て、大海原へ出ていく自分たちをその流れで想像できたり。その後に続く「One By One」は、大海原の先でいろんな人に出会うニュアンスがあって。自然とこうなっていたんですけど。
―― 他にも「Mountain Path」という曲もあるし、キーワードとして繋げようと考えたのかと想像してましたけど、そうじゃないんですね。
Sit 自分の中で無意識のうちにそういうインスピレーションがあったのかもしれないですけど、こういう物語として繋がったのは曲を並べてみて気づいたことでしたね。
Vol.03へ続く...
Interview by ヤコウリュウジ
―― そして、10月からはリリースツアーが始まりますね。前回が全公演からの仕切り直しというイレギュラーな形で開催されたわけで、強い意気込みがあるのかなと思いますが、そのあたりはいかがですか?
Sit オレが先に言っちゃうけど、ツアーを終えた後でもエクストラだったり、何かしらの形でライヴは組めるということを考えると、ツアーだからどうこうっていうより……1本1本のライヴを大事にして、「ライヴって最高だな」っていうことを現場で感じたいというか。自分たちがやれるライヴをとにかくおもいっきりやろうっていう。
―― 無駄に力むことなく、シンプルな思考でライヴへ臨みたい。
Sit みんなが気持ちいいライヴができればと。
Miyamoto やっぱり、『The Roots Evolved』からそうですけど、単純にCDだけじゃ伝えきれないような音像が生まれてて。CDはCDならではの楽しみ方があるけど、ライヴだともっと違う聴こえ方をしてる曲がいっぱいあるんですよ。空気感、響き方、揺れ方とか、それが今まで以上にできてるから、「ライヴハウスで聴くそれは全然別モノだよ」って思うし。で、長い時間がもらえて、全曲ぐらいやれる機会なのは自分たちのリリースツアーだけだったりするから、より『Anywhere,Everywhere』を生々しく聴けるのはこのリリースツアーだけなんですよね。
―― 実際、リリースツアー以外では披露できなくなる曲も出てきますからね。
Miyamoto 節目で長い持ち時間のライヴでしか聴けないような曲になっちゃうのもあったりするから、『Anywhere,Everywhere』を気に入ってくれたのなら、いちばん楽しめるのはCDじゃなくて、リリースツアーかもしれませんね、っていうところはあります。まあ、Sitが話したように、リリースツアーに対して凄くかしこまった姿勢があるかと言われたらそうじゃないけど、やっぱり出来上がった作品の音像がいちばん表現できるチャンスだなっていうのは感じますね。
Asanuma みんな、考えてることは一緒なのかな。リリースツアーに対しての意気込みはそれぞれあるだろうけど、堅苦しいモノはまったくなくて。いい作品を作ったから、それを最大限に表現しに行きますよっていうぐらい。それに今までの曲も(セットリストに)混ぜてやるから、自分たちでも表現しきれない部分があるし、バンドとして表現力を高める過程のひとつにしか過ぎないのかもしれないというか。
―― 日々、バンドとして進化していくという。
Asanuma だから、そういった意味では普段通りのライヴになるのかなと思います。
―― あくまで『Anywhere,Everywhere』へフォーカスした、今のCOUNTRY YARDのライヴをするっていう。
Asanuma ですね。それとMiyamotoが言ってた通り、このリリースツアーでしか聴けない曲があるかもしれないから、それは聴き逃さない方がいいかなって。あとから「あの曲をやってください!」って言っても、そうそう簡単にできるわけじゃないからっていう(笑)。
―― 普段のライヴでは、どうしても時間的な制約がありますからね(笑)。
Mochizuki あとはもう延期になりたくないです(笑)。
一同 ハハハハ(笑)。
Mochizuki とにかく頑張ってコーラスをする、ギターをちゃんと弾く、お酒はほどほどにする(笑)。それだけですよ。
―― ライヴをすること自体が難しい期間もありましたけど、この2年ぐらいの間で成長した部分って感じますか?
Miyamoto ある気がしてますね。
Sit 自画自賛になっちゃうかもしれないけど、最近は「4人ともすげえ!」って言われるのが嬉しいっすね。オレが好きなバンド、QueenとかThe Beatlesとかみんなそういうバンドだし。いろいろあるけど、イケてるバンドをやれてるっていうのがいちばん感じてることだったりもして。
―― COUNTRY YARDのライヴは4人それぞれに目がいきますね。
Sit あと、オレたちのライヴを「1本の映画を観てるみたい」って言ってくれる人もいて。そういう部分も洗練されてきてるのかな。それぞれが自分の位置をもっと深堀りして、磨いてきたことを音に乗せて。みんな、あえて言葉にしてないのかもしれないけど、そういうのが解放されてるんだと思いますよ。
―― しっかり話していただける機会だからお聞きしたいんですけど、現状のライヴにはルールや制限がまだまだあるじゃないですか。ただ、バンドによってはこの秋からのツアーで歓声OKにしてみたり、どういったスタンスでライヴに臨むのかという選択を迫られてるタイミングでもあると思うんです。そのあたりについて、どう考えていますか?
Sit オレは凄くそれに対して考えてて。やっぱり、何かを前へ進めるって、生半可なことではないじゃないですか。
―― 相当なエネルギーが必要ですよね。
Sit ただ、論争になるのは嫌なんです。いい方向へ繋がる語り場だったらいいけど、ツバの吐き合いみたいのは嫌いだから、現場で淡々とやるっていうことを自分は決めて、ここ最近のライヴはやってるんですけど……実際、昔は自分たちもステージダイブとかを「楽しんでやろうぜ!」って言ってたバンドだし、お客さんがグチャってなったら気持ちも高揚するし、すげえ楽しいし、生きてるっていう実感も湧く。それが(バンドを)やってる理由の出発点だったりはしたから、それをもう押さえたくないとは思ってるんです。
―― 現場でずっとやってきたバンドとしては、過ごしてきた日常を感じたいというのが正直な気持ちだと思います。
Sit 例え、ダメって言われたとしても「声を聴かせてもらいてぇ」と感じたら、そう言ってると思うし。もちろん、人におもいっきりぶつかったりするようなことはステージ上から注意するけど、それはコロナ云々っていうより、みんなに楽しんでもらいたいからっていう理由からだったりするから。
―― それはもう、今のルールやマナー以前の問題ですからね。
Sit やっぱり、ライヴの現場で起こること、生まれる光景は決められたルールとかで判断できるようなモノじゃないと思ってるんですよね。だから、なるべくなら現場で確認してもらいたいと考えてて。COUNTRY YARDとしてどう進めていくのかっていう意味だと、いろいろと言われるかもしれないけど、まずは現場の自分たちのライヴを観てもらいたいのと、そこで起こってる光景を観てもらいたい。やっちゃいけねえって言われることも普通にやってるかもしれないし、それを止めてもいなかったりするかもしれない。もし、そうなったとき、みんなに楽しんでもらうにはどうすればいいか。そこでそう考えるのは0からじゃなくて1からのスタートだと思うし、何か思うなら直接言って欲しい。そうなったら、そこから前へ進める為の話ができるから。
―― 今の状況から一歩進めたいライヴをやっていくから、それを現場で確認して欲しいっていうことですよね。
Sit 根本にあるのは、感じたまま楽しんで帰ってもらいたいだけのことなんです。それがいちばんだし。
Miyamoto オレが思うこともそのまんまですよ。
Sit 目の前にいる人の感情を押し殺させたくないから……ステージでは自分や自分たちの言葉で発してるし、伝えたいことも伝えてるから、そういうことも聞きに来て欲しいなと思いますね。
―― SNSで飛び交うあやふやな話を鵜呑みにするんじゃなく、自分の目で見て、そこで判断してもらいたい。
Sit ただ、少し付け加えるのなら、そういう瞬間を生み出すことを目的にするのはやりたくなくて。生まれるべくして生まれる瞬間を見たいっていうか、やっぱ。
―― スポーツじゃないですしね、ライヴは。感情表現がどういう方法なのかっていう。
Sit とにかく、そのときに芽生えた自分自身をおもいっきり出してるだけですからね。
―― では、今後の活動に関して、何か目標にしてることであったり、やってみたいことはありますか?
Sit 上手く進めば、イギリスには行ってみたいですね。別に凄いブッキングだとかいい環境じゃなくてもいいし、憧れた場所へ行ってみてライヴをやらせてもらいたい。そういう気持ちはありますね。もちろん、国内でも楽しいことをやっていきたいんですけど、ちょっと観てみたい景色があるっていうのは正直なところです。
―― そこで受けた刺激でまた新たな曲も生まれるでしょうし。
Sit だから、海外ですね。英語詞だから、日本語詞だからとかじゃなくて、素直なシンプルな気持ちでライヴをやりたいです。
―― 制作も活動も自然体でいいですね。
Miyamoto 故に行きあたりばったりみたいなところもありますけど(笑)。
一同 ハハハハ(笑)。
―― 昔の話にはなりますけど、COUNTRY YARDって頭が固いというか、もうちょっと気張ってたところがあったじゃないですか。
Sit そうっすね(笑)。でも、無理してやってても面白くないんですよ。しかも、楽しんでる自分たちがいちばん輝いてることに気づいたし。言ってしまえば、楽しいことを、これが好きなんだっていうことをおもいっきりやるだけのことかもしれないですけどね。
―― そう言えば、来年に迎えるという結成15周年では何か具体的な予定はあるんですか?
Miyamoto いや、何も話してないです(笑)。
Sit 何せ、いろんな壁と対峙する毎日なんで(笑)。
―― ハハハハ(笑)。それも大切なことですけど、楽しみにしてるファンも多いと思いますよ。
Sit 次の動きに関して、イギリスへ行きたいとかはあるけど、15周年という節目だからどうこうみたいなのは、みんなあんまり考えてないかもしれないですね。
―― 節目を大事にするバンドもいれば、周りから言われて気づくようなバンドもいたりして。
Sit だから、自分たちにとってじゃなく、お客さんに対して、というところですよね。「15周年で何かやったらみんな楽しんでくれるかな?」みたいな気持ちからスタートするだろうし。
Miyamoto それにオレもShuちゃんも(途中から加入して)実質15年やってないから、率直にぶっ刺さるわけじゃないところもあるんですけど、お客さん的には何かを待っててくれるのかもしれないし。これから考えるところですかね、そのあたりは。
―― いい形でリリースツアーを終えれば、何か一緒に楽しめるようなことを考えていくと。
Miyamoto そうですね。それに、バンドとして毎年、音楽的にすげえ挑戦してて常に前進してるから、何周年であろうといちばん最新が最高でいたいみたいな気持ちがあって。15周年で特別な何かをやるより、15年経ったからこその熟し方をして、それをしっかり見せることを目指したいんですよね。
Interview by ヤコウリュウジ