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『コラムパーク』

「流行語大賞に水を差す」

今年も流行語大賞の季節がやってきた。今年は例外的に同時に4つが大賞にノミネートされた。東進の林先生の「今でしょ」、滝川クリステルの「おもてなし」、ドラマ海女ちゃんの「じぇじぇ」、そして同じくドラマ半沢直樹の「倍返し」。確かに今年はこの4つに関しては、いやと言うほど耳にした。流行語大賞的には豊作の年ということになるのだろう。

別に、流行語大賞というイベントが存在すること自体に不満があるというわけでもないのだが、言葉として流行したかという点にはどうしても疑問を感じてしまう。ユーキャン新語・流行語大賞を主催する自由国民社のHP上には、「この賞は、1年の間に発生したさまざまな「ことば」のなかで、軽妙に世相を衝いた表現とニュアンスをもって、広く大衆の目・口・耳をにぎわせた新語・流行語を選ぶとともに、その「ことば」に深くかかわった人物・団体を毎年顕彰するもの。」とあるが、ここで言う流行語とはその年の世間を賑わした現象なり人物のことに過ぎないのだ。今年受賞した流行語をそれぞれ見てみても、「おもてなし」はオリンピック招致が東京に決定したということ、「じぇじぇ」「倍返し」に至っては両ドラマが記録的にヒットしたというそれだけのこと。流行語というよりも流行したこと、際だって目立った出来事というほうが正確であろう。それをわざわざ”流行語”と銘打って表彰するあたり、用語辞典を出版する主催者側のこじつけという印象はどうにも否みがたい。

ちなみに、過去数年の大賞を見てみると2012年がスギちゃんの「ワイルドだろぉ」、2011年が「なでしこジャパン」、2010年がドラマゲゲゲの女房から「ゲゲゲの」となっている。注目すべきが2011年の「なでしこジャパン」である。2011年と言えば日本国民にとって震災が何よりも大きな出来事であったことは誰もが認めるところであろう。したがって、流行語大賞は「地震」または「東日本大震災」となるのが理の当然ということになる(「津波」とするのはさすがに悪意があるだろうが)。が、しかし地震を差し置いてこの年の流行語大賞はサッカーの「なでしこジャパン」なのである。もちろん、この「なでしこジャパン」が震災と全く無関係ではないということは知っている。おそらく、なでしこジャパンのW杯での優勝が、震災の悲しみに打ちひしがれる国民に夢を与えたという、マスコミによって流布された言説が背景にはあるのだろう。それにしても我が国の歴史に間違いなく残るであろう、あれほどの大災害があったにもかかわらず「なでしこジャパン」とは・・。震災という忌々しい過去を表舞台に持ち込みたくないという意図からなのだろうが、その配慮に偽善を感じて嫌気がさす。

流行語大賞にくだくだ文句を並べ立ててきたのは、結局のところそれが流行語と謳っているにもかかわらず言葉としての流行とは関係がないこと。そしてその年の世相を忠実に反映してもいないという一貫性のなさに対する、二重の苛立ちがあるからである。しかも審査員が姜尚中、俵万智、鳥越俊太郎、室井滋、やくみつるといった無駄に豪華な顔ぶれであることが、一層この授賞式の馬鹿さ加減を煽っている。はっきり言って、単なる主催者である自由国民社の自社PRでしかないのだ。おまけにこの流行語大賞をまで流行にしかねないようなマスコミによる熱心な報道ぶりにも腹が立つ。これでは自由国民社の思うつぼではないか!いつかニュース23で、北野武が流行語大賞について「やめればいい」という胸のすくような発言をしていたが、それもむべなるかなといった感じである。まあ、世間でのお祭り騒ぎの一環であることを思えば、あれこれ口を挟むのは興ざめであり野暮になるのであろうが、流行語大賞、なんだかな、である。

いっしー 29歳 会社員

2014.01.16

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