『コラムパーク』
「爆風」
終戦間際のあの日、おじいちゃんはな、22歳やった。おとうもおかあも病気で早うに死んどったし、兄さんは兵隊へ行ってた。おじいちゃんは足が悪いやろ。子どもんとき小児麻痺になったせいで右の足だけ細いでな、身体障害者の扱いや。兵隊には行かんで、毎日防空壕を掘っとった。
ここ岐阜もな、爆弾が落ちたんや。おじいちゃんが住んどったのは井桁だけんど、その近くの川島は爆薬庫があったでな、B29の標的にされたんや。ガスボンベくらいあるでっけえ爆弾がB29の両脇から落とされよったわ。その「バラバラバラバラ…」っちゅう音は井桁まで聞こえてきて、そのあと空が真っ赤に燃えるのも見えた。
そう、そんであの日はな、川島まで行かんと、井桁に爆弾を落としてきたんや。
近所のおじさんがな、みんな逃げろって叫んで走りまわりよった。慌てて家を出たら、B29がすぐ頭の上を飛んどった。おじさんが「こっちだ」っちゅう方にならってな、近所の人らみんなで走った。坂を駆け下りた。坂を下り始めて10秒もたってなかったはずや。おじさんが「伏せろ!」っちゅうんで地面に突っ伏したんや。そしたら、坂の上に500キロ爆弾が落ちた。
伏せたすぐ上を、熱っつい風が吹いた。ごうごうと、ものすごい音を立てて体のすぐ上を過ぎてった。衝撃と熱さで体がバラバラになるんやないかと思うた。おそろしくって、ただただ地面に伏せとった。
助かった、とわかったんは、風がおさまってからや。土煙が薄うなって、同じように伏せてた人らが起き上がるのが見えたでな。
でもな、起き上がらん人がおった。みんなに「逃げろ」って叫んで教えてくだすったおじさんや。爆風で欠けた赤土の塊の下敷きになったんや。即死や。おじいちゃんのすぐ近く、数メートル先やった。みんなにあぶないって教えてくだすった人が、死んだんや。
おじいちゃんは、おじさんのおかげで命拾いした。おじいちゃんだけやない、あの近所に住んでた人ら、みんなや。たった10秒足らず逃げるのが遅かったら、あの爆風でおじいちゃんたちは吹っ飛んどった。
戦争の話となると、おじいやおばあはみんなこんな話をするやろ。ようある話なのかもしらん。けどな、あんなもん目の前で起きてみろ。おそろしいぞ。あの爆風で、おじさんは一瞬のうちに命をなくしたんや。戦争はな、おそろしい話しかねえんだ。みんなおそろしい思いをして、死んだり、死ぬ人を目の前で見て生き延びたりしたんや。よう覚えとくんやぞ。
祖父から聞いた実話です。 戦争反対。だって、おそろしいから。 流れ弾に当たって死ぬかもしれない覚悟なんてできません。
くーちゃん 30代 会社員
2015.09.23