『横山健の別に危なくないコラム』
Vol.90
「Sentimental Trash」
9月2日にリリースされた Ken Yokoyama の6枚目のアルバム「Sentimental Trash」は、様々なメディア、媒体にお世話になったおかげもあり、発売週のアルバムチャートでは自己キャリアハイの2位にランクされた。オレみたいなパンクロック/ロックンロールのアルバムが2位に食い込めたこと、もしかしたらこれが今後のライブハウスシーンで地道に活動しているバンド達のなにかに繋がるのではないか、と思った。次にライブハウスバンドが作品をリリースしたらチャート上位に食い込む、とかそういった即効性などないのだが、若いバンドマンが「よっしゃ、オレらもやってやるよ!」と火がついてくれれば、それが繋がったことになるのだと思う。そうなってくれれば嬉しい。
横山健にできることは、きっとキミ達にもできるのだ。
シングルをリリースした際はこのコラムで全曲解説をしたのだが、今回のアルバムの各曲についてはあちこちですでに話させてもらったので割愛させていただく。
しかしながら、念を押すためにもう一度ここで言っておく。どんなアルバムなのかを言っておく。
今作はロックンロール・アルバムだ。いままでの Ken Band のアルバムの中で、一番ロックンロール色が強い。
全曲がそうかというとそういうわけでもなく、従来の Ken Band の楽曲が好きな人も聴いて好きになってくれるであろうタイプの曲もいっぱい入っている。しかし今まで挑戦してこなかったタイプの楽曲にトライしている。
それがいまのところ「聴きやすい」とか「バラエティーに富んでて楽しい」という評価に繋がっているように思う。
このアルバムの曲を最初に作り始めたのは、かれこれもう2年半も前の話になる。数曲できた頃、箱ものギターとの出会いがあった。Gibson の ES-335、 ES-355、そして Gretsch のギター達…それらに導かれるように、自分の作る楽曲が変化していった。ギターによって音楽性が引っ張られていった。
ものすごく興奮していた。いま振り返っても的確に言い当てる言葉が見つからないくらい、それほど濃厚な、キラキラとした、興奮した日々だった。
アルバムを世に出して数字である程度の結果も得たが、本当の勝負はこれからだ。ツアーに出て、アルバムの楽曲をライブで演奏して、その時初めてこのアルバムの楽曲がみんなの物になる。数字で結果を得ることはもちろん嬉しいし…今回はいろいろと背負った部分もあったので、いつも以上に嬉しい。
しかし売れている物が良い物とは、決して限らないのだ。これをライブで演奏して、その場にいた人がなにをどう感じるか、そこで初めてこのアルバムの良し悪しが決まってくるのだ。
ライブに限ったことではないのかもしれない…聴いてくれた人が全員ライブを観れるかというと、それもそうとも限らないから、結局はアルバムとして長く、深く、その人たちの人生に寄り添える物が、最終的には良いものと評価を受けるのだろう。
逆に、良い物が必ず売れるわけではないというのも真実。そんな中運良くオレ達のアルバムは売れ始めた。だったら、意地でもそれを良い物にしなきゃいけないんじゃないか?
それはライブの場で、皆さんの生活の中で、そしてオレの腹の括り方で決まっていくのだ。
まず Ken Band は「Sentimental Trash ツアー」に出るので、そこで観に来てくれる方々に楽曲を育ててもらうことになるのだ。もちろんオレ達がちゃんと…ちゃんと?ちゃんとじゃないかもしれないがw曲を披露するわけだ。その中でどの曲が求められているか、どの曲が案外そうでもないか、オレ達は感じるだろう。求められている曲はわかるもんだ。求められる曲は育っていく。
それを感じるのがとても楽しみだ。
「The Kenny Falcon」
Gretsch から遂に横山健シグネイチャー・モデル「The Kenny Falcon」がリリースされた。オレも7月の終わり頃には1本入手済みで、8月のフェスやツアーではすでにステージで弾き始めている。
「Wild Bunch Fest. 2015 にて。The Kenny Falcon」
素晴らしいギターだ。なにしろルックスがカッコ良い。機能性ももちろん重要だし Kenny Falcon にも機能面での充実が図られているが、なにしろ見た目が良い。とても大事なことだ。
このギターは、基本的には Gretsch の最高級機種である Falcon を踏襲している。サイズも装飾も全て Falcon だ。深い緑色は、Gretsch の別の人気機種 Country Club の代表的なカラーだ。それを2つにまとめたという、少々乱暴なやり方をした。
そしたら「世界一綺麗なギター」が出来上がってしまった。まぁ完全に主観ではあるが、オレにとってはそういう代物だ。
http://www.kandashokai.co.jp/flos/gretsch/kenny-falcon/
YouTube にも映像が上がっているが、Gretsch のギター/ベースを作っている愛知県の寺田楽器の工場見学に行ってきた。そこの中でも話していることだが、本気でギターと向かい合いたいギタリストは、全員工場見学した方が良い。そりゃ全員はできないこともわかってる。しかし縁があって都合がつくギタリストはなるべくした方が良いと思う。ギターに対する感謝の気持ちが変わってくる。それは後々プレイとなって、もしプレイに出ないのであれば姿勢として、きっとなにか良いものをもたらしてくれる。
この世の中にあるもの、存在するあらゆるプロダクツに言えることだが、ギターも例外ではなく、何人もの人の手を通って生まれてくる。まるで八十八人の手を通ってくるお米のようだ。見ておいて、人として損になることは絶対にない。
そしてその映像の中でフライング気味に語っているのが、The Kenny Falcon Jr. の存在。「Falcon Jr. とはなんぞや?」…Falcon が17インチのボディーの大きさに対して、Falcon Jr. は16インチ。少しだけ小ぶりなのだ。オレがライブで使ってる青い「スカイ」と呼んでいる Falcon、あれと同じサイズだ。
機能面は The Kenny Falcon と変わらないのだが、それに採用した色が「アーリー・サマー・グリーン」という緑色だ。最初はシーフォーム・グリーンと呼ばれる、Fender や Gretsch のギターには散見される色を使おうと思ったのだが、いろいろ考えて、オリジナルの色を作ろうということになった。何度もサンプルを出してもらって「あーでもないこ−でもない」工場の方にも骨を折ってもらって、オリジナルカラーが出来上がった。「色に名前をつけてください」とのことで…初夏の緑をイメージして「アーリー・サマー・グリーン」にした。名前からしてどこか甘酸っぱい気がするのは…恋の香りを感じてしまうのはオレだけだろうか(猛爆)
この Falcon Jr. はオレ分はもう完成していると聞いたので、もしかしたら「Sentimental Trash ツアー」の比較的早い段階でお披露目できるかもしれない!
とても嬉しい話なのだが、The Kenny Falcon が予想以上の好リアクションを受け、現在全国的に品薄状態だ。でもまぁ焦らず!もしかしたら Falcon Jr. を観て、「こっちの方がシブいな!」となったら、そちらの発売も予定しているのでしばらくお待ちいただくのも一案かと。
Falcon Jr. の発売は、来年2016年の早い段階に現状セットされている…ようだ。
あとちょっと飛躍した話だが、9月にアメリカ本国の Gretsch/Fender チームと久しぶりに会合を持った。そこで新しいアイデアの話も建設的にできたのだが…Falcon 系は Gretsch の中でも最高級ラインだ。値段だってかなりする。…ただそれに見合う価値がありますけどね!w
だから今度は Gretsch で廉価版のモデルをやってみたいという話をした。これから手をつけるプロジェクトなので年単位で時間はかかるだろうが、オレには明確なビジョンがいくつかある。それが形になって、操作性もゴージャスさも兼ね備えつつ(価格を抑えるためには多少のゴージャスさは諦めなければならなくなるかもしれないが…)、なおかつ安ければ、もっと若者が手に取りやすいモデルになるんじゃないかと考えている。
オレは入り口でありたい。
だいぶ歳食ったので、入り口にはもっと相応しい若者がいるだろうが、それでもオレはいつだって入り口である気概でいる。
ああ、オレは最近思うのが、自分を形成してくれた、育ててくれたいろんな業界に恩返しがしたい。まずライブハウスシーン。それから CD の小売店、そして楽器業界だ。いまのオレがいるのは彼らのおかげなのだ。特にここ数年ご縁もあり、力を入れているのが楽器業界だ。だから楽器の開発のことも一生懸命やる。オレがワオワオ出ていくことで注目が集まるのなら、いくらでもワオワオ言っていく。
だって素晴らしい文化であり、みんなに知ってもらいたい世界だから。
「バズリズム」
先日出演させていただいたバズリズム、すごく楽しかった。バカリズムさんにお会いする当初は「…オレみたいなタイプ、きっと苦手なんだろうなぁ」となんとなく思っていたが、すごくオープンに接してくれて、楽しくお話しさせてもらった。あの番組の最後に描いてもらった絵(これが猛爆なんですがwww)、撮影後にスタッフを通じて入手し、いつも移動する時に使うカバンに入れている。「なんとなくお守り」なのだ。その話なんかでバカリズムさんとちょいちょいメールのやり取りなんかをさせてもらっているのだが、今度その絵にサインを入れてくれるというのだ!もしサインを書いてくれたら…額に入れて、我が家に飾ってある三代目彫よし氏に書いてもらった一点物の創作漢字の額、Gretsch の社長 Fred Gretsch のサイン入りポートレートと一緒に、並べて飾るのだ。
なんだか仲良くやっていけそうで、嬉しい出会いだった(オレがそう思っているだけという可能性もあるがw)。
「これがバカリズムさんから見た横山健だそうです(猛爆)分かるぜwww」
バカリズムさんとマギーさんの力を、番組スタッフの方々の力を借りて、番組内でギターの魅力を話させてもらってとても感謝している。
それでマギーさん。すごくスタイルが良くて顔も綺麗で、本物見た時は正直引いた。思い出しても、この世のものとは、オレと同じ人間とは思えない。「あんな人っているんだねぇ…」というのが正直な感想。
そして後日談。当コラムおなじみの、ロック好きの姪っ子から電話があった。
姪「バズリズム見たよ。超楽しかった!」
オレ「いやー楽しかったよ。」
姪「バカリズムさんのギターの位置、やたらと高くなかった?www」
オレ「あれはオレの狙い通りじゃwww」
姪「マギーさん、すごいカッコよかったね。」
オレ「そうなんだよ。あのスタイルでギター持たれたらもう参っちゃうよ。この世のものとは思えないね。」
姪「あーやっぱそうなんだー。すごいスタイルいいもんね。似合ってたしカッコ良かったー。」
オレ「…でもさぁ、あんなに綺麗でスタイル良かったら、逆に悲劇かもな…。だってさ、仮に彼氏とかいても、うかつにそのへん歩けないぜ?絶対にソッコーでバレるもん。まぁマスクでもしてりゃーさ、わかんないかもしれないけどさ。でもバレなくても、どうしても人目を引いちゃうだろうからさ、気が気じゃないよね。まぁ見られるのには慣れてるだろうからダイジョウブなのかもしんないけどさ。でもまぁとにかく目立っちゃうよね。イヤでも目立っちゃうよね。だからさ、大っぴらなこともできず、部屋とかでしか会うことできなくて、結局行き詰まってさ…。ちょっとね、かわいそうっちゅーか。」
姪「……なんの心配してんの?」
そうでした、余計なお世話でした(猛爆)
「武道館」
ついに発表になった2016年3月10日、日本武道館。8年ぶりの武道館、この時が来るのを待ってた。8年間ズーッと待ってた。なので「Dead At Budokan Returns」と銘打った。
8年間もの間、武道館でやれなかったことには、ちょっとした色気のない事情がある。「消防法」だ。武道館の管轄は千代田区の消防署、彼らの指導通りにやらなければいけないのだ。
前回の2008年の武道館の時は、まだオールスタンディングのライブに対し、規制が緩かった。しかしその直後に方針が代わり、「事実上」オールスタンディングのライブが武道館ではできない状態になっていたのだ。
あれほど大きな会場だとブロック分けされる。そのブロックを鉄柵で囲うことが、緊急時の避難において妨げになる、そういうは判断になったようだ。ブロックの前っ面だけ鉄柵を設置して、脇は人力でロープを張る。それならスタンディングも可、ということだったのだが、ここで疑問が出てくる。「お客さんが暴れて、そのロープからはみ出したり決壊した場合どうなるのか?」その時の措置は、会場内にある赤灯が回り「公演は即刻中止」とのことだった。つまり「できるけど…できるわけない」のである。
だって Ken Band の武道館で公演中に赤灯が回りライブ中断/中止なんてことになったら、Ken Band や Pizza Of Death では責任が取れない。もちろんイベンターの方々に迷惑がかかる。お客さんも不満に思う。後々のロックバンドの武道館公演にもなにかしら支障が出てくる。そうなるとオレ達だけの問題ではなくなってくるのだ。かといって椅子を設置してやるくらいなら、これもまた生煮えになるので、やらないほうが良い。
そんな事情で戻れなかったのだ。
ところが、最近になってポロポロと「武道館でオールスタンディングでやっている」との話が耳に入り…「できんの!?それならやりたい!大至急日にちを押さえてー!」と頼んで出てきたのが上記の日程だ(ちなみに現状、図面上はバリケードが脇に入っているらしいが、オレ自身は当日どうなるかは把握はしていない。ただオールスタンディングでできる、ということだけ把握している)。
そして3月10日は、東日本大震災からちょうど5年目を迎える、その1日前の日だ。
色気のない事情でできなかったとはいえ、…8年間もの間戻れずにいて、悔しい思いをして、しかしそこでオレも震災を体験したりいろいろあって、音楽性の幅も広がったこの時期にやる武道館…なにか運命というか、ストーリーがあるんじゃないか?と思えてしまうほど、時の流れというものはドラマチックだ。
ところで、「Dead At Budokan 特設サイト」にオレはコメントを寄せた。それがかなりエモく捉えられ、なんと一部では「横山引退説」も流れているという。これについて話そう。
まずハッキリさせたいことは、オレは引退しないし、Ken Band も解散しない。
ただ「いつまでもオレがいるとは思ってくれるなよ」という気分はある。その気分がああいう文章になったんだと思う。
「I Won’t Turn Off My Radio」の歌詞にもある通り、オレは40半ばのおっさんで、そうとう古ぼけてきた。以前から話しているが、オレの感性自体が古くなってきているのを感じる。だって Wanima なんていうバケモンみたいな新人が出てきたら、イヤでもそう感じてしまう。つまり求心力のあるミュージシャンとしての賞味期限も長くはないのではないか、と思うのだ。そりゃギターはどこだって弾ける。しかし武道館くらいの大規模な自分達のライブを、今後3回目、4回目と重ねていけるかというと…誰にもわからない。「よーし、それができるようにしちゃるぞ!」という気持ちはあるにはあるが、状況が伴うとは限らない。だから今回が最後の武道館になる可能性があるわけだ。それがまずエモくなった1つの理由。
それに、体力も気力もいつまで続くかというのもわからない。そりゃバンドは細々とだってできる。しかし武道館で何度もできるくらいバンドを維持できるかというと、自信も確信もない。もしかしたら自信はあるのかもしれないが…「できるようにやっちゃるぞ!」という気持ちはあるが、先の状況は読めない。それに周りで若くして亡くなる人がとても多いのも事実。オレだっていつポックリ、というのもいつも頭をよぎる。別にネガティブな意味ではない。死を意識するということは、それだけ生きているということを鮮明に捉えることでもあるわけだ。そういった意味ではとてもポジティブだ。と同時に、エモさも隠せない自分がいるわけだ。これが2つ目の理由。
だから「引退するのでは…」と思わせてしまった人達には、誤解を与えるような文章を書いて、申し訳なかったと思います。ゴメンなさい。
引退も解散もしません。しかし「オレ、そのうちいなくなっちゃうよ」ということを、エモく書くつもりはなく、冷静に伝えたかっただけなんです。
そういえばこの前、Dragon Ash のケンジに「健くん、オレだけには教えてくれる?…もしかして、病気してる?」と真顔で訊かれた。オレは病気はしていない。いまは心身ともに大健康だ。
ケンジもあの武道館の文章を読んで気になったようで、そう訊いてきてくれた。あいつは本当に可愛いやつだ。でも「病気もしてないし、引退もしないよ」と言うと、ジーッとオレの目を見つめて、嘘ついてないか探ろうとするのだ。そして「本当だって。辞める時は言うよ」と言うと「なんだよ、引退しないのかよー。そしたらオレがトップになるのに。…早く引退してよ」と憎まれ口を叩くのだ。そんなケンジもまた可愛い…というかシメたい。
とにかく、絶対に特別な空気になる武道館には、みなさん都合をつけて観に来てくれれば嬉しいなと思うのだ。
3月10日は平日だ。3月は様々な企業の決算月で忙しいとは思います…が、オレ半年前に告知したからな!できる人はなんとか時間作って観に来てください。
でもね、最終的には70才や80才を過ぎても、もっとヘロヘロでバンドやってて、倍くらい遅い「You And I, Against The World」とかを武道館でできてたら最高なんだけどね(猛爆)
See You Guys In The Fuckin’ Pit!!
2015.09.24