フリーライター石井恵梨子の
酒と泪と育児とロック
Vol.25
今月20日、ロストエイジのツアーファイナルを見てきました。会場は渋谷O-EAST。ファンによるツイート回数は凄まじく、当日の夜は「ロストエイジ」の名前がトレンド入りする事態になったほど。いや、本当に誰かに伝えたくなる、最高のライブだった!
未読の方はコラムVol.22から読んでください。五味岳久率いるロストエイジがきわめて閉鎖的なCDリリース方法を選んだ理由。この原稿は「閉じた先に何があったのか」を伝えるためのものです。大きくいうなら、2010年代のオルタナティヴのありかた、その理想形、という話かもしれません。
オルタナ/ポスト・ハードコアが流行ったのは90年代。速くてうるさいツービートに禁じ手だった「明るく元気なメロディ」をブチ込んだメロディックも、実はポスト・ハードコアの一種と言えます。ハイスタの初ライブで対バンがブラッドサースティ・ブッチャーズだったのは知られた話ですよね。同じ根っこを持ちながら、より叙情的な歌心や複雑な轟音を追求したバンドがのちにエモと呼ばれていく。パンクから派生した新しいバンドたちの隆盛が、それまでの流行りに取って代わるものになった。まとめて「オルタナティヴ」と呼ばれるシーンです。
ハイスタ、イースタンユース、ナンバーガールなどが次々とメジャーに進んだのは90年代後半。まさにオルタナ黄金期ですが、当然のように流行りは移り変わるもの。4つ打ちが新鮮なものとして響き出した00年代後半から、オルタナは少しずつ隅に追いやられていきます。そんな04年にデビューしたのがロストエイジ。音はまさしく生粋の90’Sオルタナだったし、最初の取材から「わー、好きな音楽がほぼ同じ!」という同世代感を味わえましたね。
対話の楽しさが変わっていったのはメジャー進出後の数年間。五味くんへの取材は毎回とても難航しました。よく「わかってほしい、けど絶対わかってもらえへん」と言っていたし、いかにもドラマチックな答えを期待する質問には「……ここで『音楽が救いでした』みたいなこと言うインタビュー、俺、嫌いです」とバッサリ。いやー、本当にやりづらかったなぁ! 後になって明かされました。「当時はメジャーのシステム自体がすごく気持ち悪かった」と。
(http://www.onlyindreams.com/interview/2011/08/090000/index.php)
詳細はこの対談に譲りますが、多くのバンド……いや、私をふくめた関係者全員がなんとなく従っている業界のシステムに、彼はまっすぐ疑問を呈し、背を向けることを選んだのです。独立時にはかなり注目が集まりました。時期を前後してツイッターの「五味アイコン」が話題になったのはいいハプニング、そして、ようやく完成した音源が発売前から違法サイトに流出してしまったのが最悪のアクシデント。なんだか我が事のようにハラハラしたのは、時代も関係していたんでしょう。オルタナやパンクは「隅に追いやられる」どころか、2010年代に入って「全然売れないもの」になりかけている。もはやYouTubeを漠然と批判してる場合じゃない。どうすればDIYで生き残っていけるか、どういう形なら爪痕を残せるのか、誰もが考えざるを得なかったからです。
たとえばピザオブデスは、サタニック・カーニバルの開催、WANIMAのマネージメント開始など、「より仲間を巻き込み、数を増やす」方向に舵を切ります。そしてロストエイジは「より無駄を切り捨て、閉じていく」ことを選ぶ。真逆の道に見えるけれど、それぞれの選択に良いも悪いもなくて、とにかく自分たちの居場所、大袈裟にいうなら「文化」を守って次世代に繋いでいかなければいけない。どちらにも、そういった強い思いがあったのでしょう。
あとは、2013年にブラッドサースティ・ブッチャーズの吉村秀樹さんが亡くなったことも大きかった。彼らに少なからぬ影響を受けていたロストエイジは、6thアルバム『GUITAR』を発表。ラストナンバーの「Good Luck美しき敗北者達」は吉村さんが完全憑依したような名曲で、最初に聴いた時は涙腺が崩壊しました。大いなる憧れに対して、行かないで、消えないで、とむせび泣くギター。それは全ファンの喪失感をまるごと抱きしめてくれるものだった。これを出したあとに『In Dreams』が生まれたのは、いまや必然だった気もします。もはやメジャーな商業として成立しないオルタナ村社会。その村人と生きていく。そう語った五味くんには「次は俺が背負う、俺たちが繋いでいく」という覚悟があったんじゃないかな……と思えるのです。
さて。結果的に『In Dreams』はなんと4000枚売れたとのこと。凄い。今どきオリコン週間チャートの10位くらいには食い込める数字ですよ。そしてツアーファイナルのO-EASTには4000人のうち900人もの「村人」が全国から集まってきた。とことん閉鎖的になることで、あるいは第三者を排除してファンに直接語りかけることで、ロストエイジは過去最高の儲けを生み、過去最大キャパのワンマンを成功させたんです。これって本当に奇跡的。夢しかない。私ももちろん気持ちよくチケットを買いました。ここで「ゲストで入れてよ〜」とへらへら言うのは、作品にもバンドにも失礼だったから。
当たり前だけど、やっぱり感動が違いますね。このバンドを自分が必要としている、だから作品を買うしチケットを買う。そうやって支えているし支えられている。ものすごくシンプルな結びつきです。前回はマスのエンタメに挑戦していくWANIMAが凄いと書いたけど、真逆のやり方でコアに結びついているロストエイジのライブにも、同じくらい見事な光景がありました。ファン全員が本気で聴き入り、全力で歌ってましたね。ここにいる誰もが同士だと実感できた。あぁ、と思いました。「僕のやり方は閉じてますけど、音楽は閉じないですよ」と語った彼が見ていたのは、こんなにも美しい景色だったのか!
ちなみに、アンコールではブッチャーズのカバー、そこから「Good Luck 美しき敗北者達」というハイライトがありました。イントロを聴いた時はまた涙腺崩壊するなと思っていたけど、全然泣けなかった。何も悲しくなかったし、頼もしさしか感じなかった。ブッチャーズが牽引してきた90’Sオルタナは、こうやって引き継がれ、彼らの手によって未来に続いていくんだな、と。
でね、今売れない、商業として成立しないなんて散々書いてますが、時代は巡るもので、近年は若い世代にオルタナがじわじわキています。同じく奈良のAge Factoryを筆頭に、驚くほどざらついた爆音を出している20代がライブハウスにたくさんいる。話してみるとよくわかります。若い彼らがお手本として見ているのは、ロストエイジ、あとは元銀杏BOYZの安孫子氏がやっているキリキリヴィラのバンドだったりする。大手レーベルや大手メディアに背を向け自分たちの方法を模索してきた者たちが、確実に、バトンを繋いでいるんです。
すべての音楽に、かどうかはわかりませんけど、これってライブハウスのバンドやファンにとって何物にも代えがたいことじゃないですか? 少なくとも私はそう思っています。改めて、ロストエイジにリスペクトを。
2018.05.28