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フリーライター石井恵梨子の
酒と泪と育児とロック

Vol.21

毎回書きながらボンヤリ思うんですが、このコラムを読んでくれる方って何歳ぐらいなんですかね? 子育てネタを書くと「自分も育児中です」とメールをくださる方もいるので、いわゆるアラフォー同世代? いやもうちょっと若いライブハウス・キッズもいるかな? でも「ライブハウス・キッズ」って一体いくつくらい? 考え出すとキリがありません。

「ライブハウス・キッズ」あるいは「ライブハウス・シーン」なんて言い方もありますが、以前書いたとおり、都内だけでも何百軒のハコがあることか。下北沢CLUB Queと渋谷O-nestと代官山UNITにある光景が毎晩同じであるはずはなく、ひとつのハコに集う「キッズ」も日によってガラリと様相を変えるのでしょう。たとえば新宿LOFTでハードコアもヴィジュアル系もサブカルトークも地下アイドルも連日ソールドアウトしていたとする。でも恐ろしいことに、そこに集まる人はみな、前日このステージに誰が出演し、どんなことが起こっていたか、まったく知らないんですよ。考えれば考えるほど、なんか気持ちが悪いことだなと思います(長くなるのでこの話はまた別の機会に)。

何が言いたいかというと、人は自分の見たいアーティスト、見たい光景しか知らないまま生きている、それぞれ勝手に年を取っているってことです。同じ場所に集まる仲間を作り、共に年を取り、気づけば互いに大人になっている。だけどライブハウスにはいつでも汗があり、熱と実感があり、最高の笑顔があります。なんとなく、ここにいるとずっと青春だと思えるし、中年太りが始まっていようともTシャツに着替えた瞬間から自分のことを平気でキッズだなんて言えてしまう。「もはやキッズちゃう。おっさん、おばさんやで」。そんなツッコミをスルーできるのが、ライブハウスの良さであり怖さでもあります。

そんな場所で生きている私は、だから、なんの疑いもなく自分のことを「まだ若い」と思っています。いや、笑うとこなんだけど、笑えないくらい普通にそう思っているんですよ。怖いわー。怖いと言いながら実感が乏しいのは、体が丈夫ってこともあるんでしょう。けっこう平気でモッシュピットの中にいられるし、立ちっぱなしで足腰が辛いとも思わないし、前日の疲労がなかなか取れないなんてこともない。おほほ、若いじゃん。くほほ、まだイケんじゃん。

完全に間違ってますね。「年を取るとこれが辛いらしい」という事例を挙げて自分と比較しているからこうなるんです。この前、それを思い知らされる出来事が立て続けにありました。

これは幼稚園で仲良くなったママ友Aちゃんの話。ものすごい美人の35歳でスタイルも抜群。後ろから見ればイケてる20代という感じなので、以前、道を歩いていたら後ろからサッとお尻を触られたそう。痴漢にライトもクソもないとは思うけど、まぁタッチ魔と言われる痴漢行為ですね。

そこで、Aちゃん、キレた。逃げようとする若い男をとっ捕まえて懇々と説教をカマしたそうです。Aちゃんにはボウズと同級生の男の子のほか、二歳になったばかりの可愛い女の子がいるので、若い女子を傷つける下劣な行為がことさら許せない。もう子供を守るためならライオンにも向かっていける野生動物の気分で「あなた、それで女の子がどれだけ怖い思いをするのかわかってるの!」と怒鳴りまくり、男がほんとに勘弁してくださいと涙目で懇願するまでやりこめたそうです。

で、言うだけ言ったあと、Aちゃんはこう思います。「女子を傷つける」「どれだけ怖い思いをするか」と言いながら、わたし、全然傷ついてないし怖い思いもしてないなぁ、むしろ100%の怒りしか感じてななぁ、と。

後日その話を聞いたママ友たち、みんな大爆笑。「確かに、10代の頃ってまずびっくりしたし、そのあと恐怖があったよね?」「うん、怒るとか考えられなかった」「自分が性的対象になりうると知ることは、そのまま恐怖心に直結してたのにね」「今って……ただムカつくだけだねぇ」。そうやって導かれた結論が「おばさんになるって、こういうことだ!」。

あとは最近、仕事で10代のバンドに取材する機会がありました。ニトロデイという横浜出身のバンド。ニルヴァーナみたいな轟音を出している現役高校生で、作詞作曲を手がけるギター&ボーカルの小室ぺい君は17歳。つーことは2000年生まれ? わっかー! わっかー! 2回言うけど3回目も言っていい? わっかー! そういうテンションになりながら音を聴き、なるべく失礼のないように取材に挑みました。90年代生まれのバンドが出てきた時もびっくりしたけど、ここからさらに次の世代がやってくるんだなぁと感銘を受けながら。

インタビュー中、印象的な言葉がありました。「大人の人が認めてくれるのは嬉しいですけど。逆に、年のこととか言われるのはあんまり嬉しくない」。年のこと? 「そう。高校生なのに、とか言われるとあんまり嬉しくないです」。

……なんか一瞬、頭を殴られた感じがしました。うわ、その感覚はすっかり忘れてた! 思えば高校生の頃、へらへらした感じで「高校生なのにしっかりしてるねぇ」とか言ってくる大人が一番うっとうしかった気がします。「高校生なのに」「若いのに」と言われるたびに、だから何だよ! と言い返したい気分になったものです。あの無神経をいま私がやっている。それどころか「わっかー!」を3回も言っちゃってる。恥ずかしくてその場で穴掘って埋まりたくなりました。うん、これはもう認めざるを得ません。若さに対して、ものすごく凡庸かつ失礼な中年の反応をしている自分はぜんぜんまったく若くない!

いくら今もモッシュピットに飛び込めるからって、いくら10代の頃と同じようにライブを楽しめるからって、みんな、年とともに絶対何かを失い続けているんですよね。「年を取るとこうなる」という事例を考える前に、「若い頃のあの感覚を忘れてないか?」を自問したほうがいい。もちろん、ナイーヴだった10代の頃の感覚を今も持ってろというのは不自然だし、いつまでも若々しくいたいっていう話でもないんですけど、「忘れてしまったこと」を自覚できるかできないか。これってけっこう大事なことじゃないかなと。

なんて書きながら、今年40歳になる自分の年齢を考えます。これからもライブハウスに通っていられる自信はあるんだけど、それについて書く文章が劣化したら、あるいは求められなくなったら、おしまい。そのことだけは忘れないように生きていたいもんです。

で、どうすかね? 「自分も同い年だからわかるわー」なのか「このおばさんの話うざー」なのか。ああ、読み手の年齢層を想像するって難しい!

2017.06.23

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