フリーライター石井恵梨子の
酒と泪と育児とロック
Vol.10
アイドル、流行ってますね。
今さらかよ!って怒られそうなテーマですが、その流行り方というか論じられ方に、なんだか違和感を覚える昨今です。
いわく「ロックバンドより断然熱い」「加熱するアイドルシーンがロックフェスを席巻」あるいは「偶像を脱ぎ捨てて、必死に勝ち上がろうとする姿がロックファンの心を打つ」みたいな。とにもかくにもアイドルカルチャーとロックを同じ土俵で語らなくちゃいけない。そんな風潮を強く感じます。元ピザオブデスのDAくんには、たまらない時代なんだろうなぁ。
たまに私も聞かれます。「ロック畑のライターから見て今のアイドルはどうですか」「ロックとアイドルの関係性についてどう思いますか」。即答しますよ。知らんがな! 自分より若くてカワイイ女の子なんて心底どうでもいいぜ! というかね、私が夢中になるのは格好いいロックンローラーと本物のパンクスだけ。ずっとそれで育ってきたんだし、今もこれからも、その話だけをしていたい。なぜ「時代」というだけでロックとアイドルを一緒に語らなくちゃいけないのかがわからないんです。
さて、こういうこと書くと必ず出てきます。うわ、出ました、アイドルを馬鹿にしてロックを美化するアホ〜、って騒ぎ出す輩が。
「楽曲も聴かず、アイドルというだけで馬鹿にする低レベル!」
「そもそもアイドルよりロックが偉いという選民意識が最悪!」
「どちらも良質な音楽なのに、フラットに楽しめない可哀想な人!」
これらを冷静にまとめたのが、ライターとしても活躍なさっているレジーさんのブログ(http://regista13.blog.fc2.com/blog-entry-50.html)で、なるほど、昨今のアイドルは「お仕着せ人形」では全然ない。私だってそれくらいはわかります。ガチンコの勝負。自分の意思で前に出ていく強さや根性が必要だというのは、たぶんモーニング娘。が最初の黄金期を迎えた2000年あたりから当たり前になってきた感覚なのでしょう。
話は飛びますが、モー娘。がブレイクした頃、ロックの世界では空前のインディーズ・ブームがありました。ハイスタに続けと全国からメロコア・バンドが登場し、第二のケムリを目指すべく街中にスカコアが溢れ出す。当時は「インディーズ・マガジン」や「DOLL」など音楽雑誌が元気だったし、まだ若くて駆け出しだった私は使い勝手のいいライターだったんでしょう。とにかく新人バンドの取材をめちゃくちゃ依頼されました。本当に何も考えていないハイスタ・フォロワーとか、出来の悪そうなケムリ・ワナビーとか、和製NOFXになりたがっている若手を、たぶん100バンド以上は取材しました。いま残っている人たち、ほとんどいないけど。
取材した顔を全部覚えているかというと正直曖昧ですが、ただ、今も強烈に覚えている言葉があります。印象的な名言だったというよりも、なぜか誰も彼もが口にしていて、嫌でも覚えてしまったセリフ。記事の見出しにもよく使われていたのがコレです。
「やりたいことをやるのが、パンク!」
一見もっともらしいし、ビシッと言い切っているのが格好いいし、どんな角度からも自分たちを肯定できる。とても便利な言葉ですよね。でも私には違和感が拭えなかった。堂々とそのセリフを語る彼らのインタビュー原稿を完成させて、ふとテレビを見れば「アイドルになりたい」と頑張る美少女がいて、見事オーディションに受かり、念願だったモー娘。の一員となっていたりする。カメラに映る完璧な笑顔。うーん、「やりたいことをやる」という意味なら、これも十分パンクになっちゃうよ。なんか変じゃないのかなぁ。まぁ、当時は取材相手の発言を真正面から否定するほど気も強くなかったんだけど。
やりたいことをやる。法に触れたり人に迷惑をかけない限り、みんな大いにやればいい。目立ちたい、みんなに自分を見てもらいたいと思い立ち、アイドルの世界に飛び込む少女たちには、頑張ってね、と思う程度。否定の言葉はなんにもありません。ハイスタになりたい、ケムリみたいになりたいと思ってバンドを組むのも同じこと。まずは頑張れよと思う。だけど「それがパンク!」と言われたら、今の私は全否定しますね。それとこれはまったく別だ。
現在最も期待している若手バンドのひとつ、爆弾ジョニー。ボーカルのりょーめー君が、取材で印象的なことを話してくれました。
「10代でパンクを知って、まず、お前らでやれ、っていうのを感じた。ハイロウズ聴いて、そこから初期パンク、あとはメロコアも聴いたけど、ハイスタとか聴いても”俺らでもできる”っていうのを感じたし。でね、パンクって、たとえばピストルズとかクラッシュ聴くじゃん? それのコピバン組んじゃったら終わりなんだよ」
思わず膝を打った一言でした。これはパンクが抱える永遠の矛盾ですが、「既成概念をぶっ壊せ! Do It Yourself!」と叫ぶバンドに感銘を受けて、俺もこうなりたいと思ったとき、同じことを叫んでしまうと、その瞬間から彼は既成概念の中に取り込まれてしまう。DIYでは全然ないし、ましてやパンクとは程遠い、ただの模倣ですね。だけど「スタイルじゃねぇ、やりたいことをやるのがパンクだ!」と開き直ったところで、だいたいの人が自分のやりたいことをやっています。それだけではパンクは絶対成立しない。「俺もやりたい」と「真似しちゃ終わり」の矛盾に揉まれながら「自分だけのやり方」を見つけること。私が格好いいロックンローラー、または本物のパンクスと呼ぶのはこういう人たちです。
門外漢ながら言いますが、たぶんアイドルには不変の条件があるんですよね。カワイイのはもちろん、息を合わせて踊れるとか、人に元気を与える存在でなきゃいけないとか。お客さんに喜んでもらって、応援してもらって、よりいっそう輝く存在。本人の意識とファンの愛情は「トップを目指す」というストーリーで固く結びついているのだと思います。
だけどロックやパンクにトップはない。それぞれが「自分だけのカタチ」を作ればよくて、誰にも真似できない圧倒的オリジナルを作ってしまえば、それで勝ち。シーンの勢力地図など関係なく時代を超えていくんです。たとえば甲本ヒロトがその一人。彼に影響を受けた横山健さんは、ブルーハーツのコピバンのようなアマチュア時代を経て、ようやくハイスタというオリジナルに到達したわけで。それぞれカタチの違うストーリーは、必死に頑張ることで勝ち上がっていくアイドルのストーリーと合致するものではないでしょう。なぜ一緒にして語らなきゃいけないのか。疑問の根っこはそこにあるのです。
一応言っておくと、アイドルを馬鹿にしたいわけじゃないですよ。ただ興味が沸かないだけ。そして、ロックを自称しつつも誰かの真似ばかりのバンドとか、「やりたいことをやるのがパンク!」と言いながら自分の音が提示できないバンドには、もっともっと興味がない。自分の音、自分の言葉、自分だけの泣き方や笑い方。そういうのが好き勝手に溢れてこないとロックシーンは面白くならないよね。同じ音楽だからなんでもフラットに楽しむほうがいいって、そりゃ正論だけど、私は本心ではそう思っていない。同じ音楽のなかでも特別だったからこそロックが好きになったんだと、今でも信じていたいんです。
2014.05.12