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フリーライター石井恵梨子の
酒と泪と育児とロック

Vol.29「ライブハウスの話を続けていこう」

ライブハウスの話を、今後も続けていこうと思います一一。

前回そう書いたものの、さて、何を書こうか悩みました。昔話を続けても仕方ないし、現状を見渡せばどこも苦しいのはわかりきっていますから。

ふと思いついたのは大好きなハコ。熱いライブをたくさん見てきたのに、不思議と「三密」の印象がないあのエントランスの風景。2009年、新代田にオープンした、カフェ併設のライブハウスFEVERです。

オーナーの西村仁志さんは19歳から下北沢シェルターに勤務し、その後10年間は店長を勤めていました。独立してFEVERを作り、近年はすぐ近くにコーヒーショップRRも経営しています。地下室の喧騒を愛しながらも、生活に密着した心地よい空間を生み出せる不思議な人。私の印象はそんな感じです。

現在FEVERは忙しい展開を見せています。いち早くYouTubeチャンネルを開設し、無観客ライブの配信をスタート。またコーヒー豆も含むオリジナルグッズのオンライン販売を始め、一度は止めていたライブ配信も今月から再開。スケジュールは次々と決まっているようです。現状を発表した西村さんのブログにはこんな言葉がありました。

「分かったことが1つありました。FEVERはたくさんの皆様に愛されている」

今こう言える彼の話が聞きたくて、新代田に伺いました。これは「三密の象徴・ライブハウスがとにかく苦しんでいる話」では全然ないのです。

一一今、どんなことをやってますか。

西村:今はとりあえずライブの配信と、ドネーションのTシャツ配送したり。あと6月4日からコーヒー屋も復活させたんで、そっちをやってます。ようやく人の生活をし始めたような感じで。まぁ痺れる毎日でしたけど、なんだかんだ今、みんな前向きだとは思うんですね、ライブハウスの人は。

一一そうなんですかね?

西村:「もうヤベェ、もうダメだ」って頭抱えてるところは、知り合いの中にはいないですね。みんな「どうやってやっていくか」を話してて、あんま嘆いてもしょうがねぇ、みたいなところが多いのかな。でもわかんないです、僕が付き合ってる人たちがそうっていうだけかもしれないけど。

一一西村さんが付き合う人やバンドって、何か線引きはあるんですか?

西村:いやぁ? ないっすね。基本的には誰でも話すし。もちろん、ほんと仲間って感じで付き合ってる人もいれば、子供じみてるけど「付き合いにくいな」っていう人もいるし。でも「こういう人じゃないと無理」っていうのはないです。仲良くなる人のほうが多いですよ。

一一人当たりいいですもんね、西村さん。ライブハウスのオーナーって以前ならロフト代表の平野悠さんみたいな、ちょっとアウトローっぽい名物オヤジのイメージが強かった。

西村:あぁ。そうっすね、先代とかはそういう人たちが多かったかも。だからライブハウスって怖かったり暗かったりする印象がずっとあるんだろうし。やっぱり大多数の人にとっては、未だに「暗い・狭い・怖い」のイメージだと思うんです。それがコロナで決定的になっちゃって。でもここ10年くらいで言えば、ライブハウスの間口ってだいぶ広くはなったと思うんですね。

一一FEVERのオープンは2009年。意識的にライブハウスのイメージを変えたところもあります?

西村:ありますね。「暗い・狭い・怖い」じゃないところにしたくて。だから壁も白っぽくしたり。入口が自動ドアなのはたまたまなんですよ。ここ前はスーパーだったんで、その名残で。最初は「ライブハウスの入口が自動ドアって、なくねぇ?」みたいな意見もあったんですけど……人って慣れるんですよ(笑)。もうみんな違和感を感じてないから。

一一確かに。私は最初場所に驚きましたね。「は? 新代田?」って。

西村:よく話のネタにしてるんですけど、100人に相談したら100人に「やめとけ」って言われてた(笑)。ほんとそんぐらいの勢いで反対されたなぁ。今でも11年前に新代田でやろうとした自分を褒めることがありますよ。よくぞあそこで決断してくれた、って。

一一広い場所を選んだのは、シェルターの反動もあるんですか?

西村:めっちゃありますね。やっぱり前の職場は「暗い・狭い・怖い」の総本山みたいなところだったんで。バンドも楽屋の狭さに不満をこぼしつつ、でも「ライブハウスってそうだから」みたいな感じで。もちろん10代20代はそれでもいいですけど、30代にもなってくると隙間がないのがしんどいなと思えてきちゃって。だから、逃げ場がある、っていうのはFEVER作る時に大きかった。よくよく考えたらo-nestだったり今の新宿ロフトも同じような環境だけど、なぜかそのイメージはなくて。もっと違うかたちにしたいと思ってましたね。

一一広さの余白が違うというか。知らない人も多いだろうけど、ここの楽屋ってフロアより広いじゃないですか。

西村:広いっすね。ステージとフロアを足したのと同じくらいの面積かな。一応ホームページに図面(FLOOR PLAN)が出てるから、あれを見てもらえればわかるんですけど。やっぱり最初はみんなびっくりしてましたね。

一一このエントランス・スペースも、言ってしまえば余剰ですよね。全部フロアにすればもっと客は入るのに、っていう話も当然あったと思う。

西村:あったあった。FEVERは300ちょっとのキャパですけど、500キャパまで広げようと思えば広げられたんですよね。もちろん500人なら500人、100人だったら100人のライブハウスのやり方があるんだけど、自分的には200〜300人ぐらいのフロアが一番面白いことができると思って。500にしちゃうと商売っ気も出て「500人埋まるバンドじゃないと」みたいになるだろうし。俺は300くらいが一番やりやすい。バンドも口説きやすいというか。新人とか、そんなに売れないバンドでもギリギリやれるから。

一一あとはフロアも把握できる。全員を覚えるのは現実的じゃないとしても、だいたいどんな奴がいるのか、何が起きてるのか、300人ならなんとなくわかる。そこも大事だったりします?

西村:俺ライブ中にお客さん見るのすごく好きで。それこそシェルターを知ってる人はわかると思うけど、階段のところでライブ見る人がいて、未だにあそこは特等席っぽくなってて。FEVERで言うとバーカウンターのステージ寄りのところ。上手(かみて)のギターは見えないかもしれないけど、あのへんからお客さん見てるほうが面白かったり、今日はいいライブかどうかわかったりする。これバンドに失礼かもしれないですね(笑)。この話で共感する人、いるのかな? ライブハウス界隈の人とこの話したことないんですけど……。

一一いや、わかります。私、お客さんの顔でライブレポート書けますもん。

西村:あははは。ですよね、すごくわかる。そのほうが面白いっていうと語弊があるけど、そっちはそっちですごく面白い世界。で、500人キャパにしちゃうとその感覚は変わってきちゃう。

一一さらにZeppクラスになると個々の顔なんてわからなくなっていく。だから人と直に会うとか、ちゃんと顔を確認することが、西村さんにとってはすごく大事なんだろうなって。

西村:そうっすね。こういう話もちゃんと会ってしたいと思うし。人とコミュニケーション取る時に、ちゃんと輪に入る、密に話すことが大切で。それは前の店で勉強させてもらったんですよね。ひとつの空間しかないとおのずと人を避けられない。バーカウンターで精算とかして、仕事しながらも打ち上げにいるみたいな。変な話、今やらなきゃいけない仕事を一生懸命やりながら、バンドマンの話を一生懸命聞くっていう技術を身につけたり。相手のことを疎かにしてません、っていう感じを出しつつパソコンでこっちの作業もやるとか。そのスキルはFEVERになってから薄まっちゃう気がしたんですね。逃げる空間がいっぱいあるし、事務所もできたんで、そっちにいると人と直接会えなかったりする。だから意味なくエントランスをうろうろしたり。それは意識的にやってますね。

一一FEVERに行くと西村さんがこのへんをうろうろしてて、何を話すでもないんだけど、常にニコニコしてる印象がある。

西村:結局データで仕入れる情報より、こうやって話して「ああだった、こうだった」っていうことのほうが、のちのち響いたり自分の実になったりするから。だから直接会う、口コミを大切にするのは今も変わらないですね。

一一それって思ってる以上に残りますよね。ライブハウスのドネーションも、まずは自分が好きな場所からやっていくじゃないですか。で、「FEVERのどこが好きなんだろう?」って考えたら、案外出てくるのはライブの記憶じゃなくて。

西村:あぁ、どこだったんですか?

一一たとえば10周年の時、200MPHのライブが終わった後もエントランスにみんな延々といたなぁとか。いいおっさんばっかりだけど、その中で「昔シェルターで遊んだよね!」っていう友人に会えたこととか。あとATATAにインタビューしたら、誰も地元じゃないのに「新代田集合ね」って言われて、ごく自然にPOPOに入ったなぁとか。

西村:あははははは。

一一誰と会った、こんなこと話したな、みたいな記憶ばっかり溢れてくる。それって他のハコなら店の前でダベって、まぁ怒られながらやることなんだろうけど。FEVERなら屋内でできてしまう。

西村:そうっすね。たまにスタッフにも「一番重要な仕事は?」って振るんですけど、わかってる子は「外の警備です」って言う。近所の方に絶対ご迷惑かけないようにする、その戦いはライブハウスのテーマとしてあるんですね。自分も昔の経験があって、前の職場は2日に一回くらい苦情の電話が来たんですよ。「すいません、すぐ行きますんで!」って言ってるけど、謝りながら頭で違うこと考えてるんですよ。「あぁ、また○○さんだ」とか。そういうのは自分でも嫌になるし、外でビール飲んでて楽しいのはわかるけど、「場所移動してくださーい」って言われた人たちも「自分が迷惑かけてるな」って気持ちが絶対どこかにあったと思うんですよね。そのストレスがない状態でみんなが喜んでくれるなら、こんなに楽しいことはいないだろうなって。

一一余剰の必要性、無駄とも思えるスペースの必要性が、なぜ11年前から的確にわかっていたんだろうって、すごく不思議です。

西村:的確にわかってたから作ったんじゃなくて、自分だったら嬉しいんだけどなって考えてたことが、思った以上にみんなにとってもそうだったのかな。でもライブの内容じゃなくて他のことが思い出になるって、もしかしたらよくある話で。ライブハウス自体がそういう感覚に陥りやすい場所かもしれないですよね。バンド界隈でもあるじゃないですか、「あの時の打ち上げがどうだったから!」っていう話で何年も酒が飲めるみたいな(笑)。そういうのも含めたら、楽屋とかエントランスはできるだけ広くしたかった。バンドマン同士がFEVERの楽屋で撮った写真がSNSに上がってたりするのを見ると、やっぱり嬉しいですもんね。

一一そこに居た者同士の繋がり、ですよね。配信ライブも悪くないんだけど、やっぱり誰かと語り合いたいと思ってしまうから。

西村:あぁ。昨日、初恋の嵐ってバンドが配信だったんですね。YouTubeのスーパーチャットで投げ銭でやりましたけど、やっぱコメントがすごいワーッと出てきて、そこでお客さん同士が交流してるのが嬉しくて。もちろんバーチャルだし現実世界ではないかもしれないけど、これだけ愛の溢れる交流ができるのかって、見てて驚いたんですね。ライブ自体が良かったのもあるけど、FEVERのことを思ってくれてるお客さんがこんなに多いんだっていうのも感動的で。みんな「初恋の嵐が好きです」っていうだけじゃなく「FEVERが好きです」って書いてて。スタッフもみんなほんと嬉しくて、10年ちょっとやってきた甲斐があったなって思いましたね。

一一この取材をお願いしたのは、もちろん私がFEVERを好きだからですけど。ただ、たとえばカウンターアクションを支援するなら「KOさん頑張って」なんです。でもFEVERの場合は「私の居場所、残ってて」って思う。主語が自分ごとになってるんですよね。

西村:あぁ、うんうん。俺はKOさんみたいにバリッと旗振れない。もうちょっとみんなに紛れてたいというか、「FEVERをうろうろしてる人」くらいでよくて(笑)。でも俺がよく言ってんのは「出演者と、お店と、お客さん、3個が対等であるほうが絶対いい」ってことで。バンドがいないとお客さんも来ないし、お客さんがいないとバンドも困るし、ライブハウスがないとどっちも困る。その3者が対等である中で、いいバランスを取れたらなぁって。

一一誰が主役ってわけじゃないから、勝手に「ここは私の居場所だ」って思えるのかもしれない。

西村:うん。でも今、ドネーションも受注が追いつかないくらい、いろんな人がワーッと買ってくれてて。その中にはバンドマンもけっこういたり。そういうのもちゃんと気づいてます。あとメールや手紙もそうですけど、オンラインストアもみんなコメントいっぱい書いてくれるんですよね。日々生活してると気づかないくらい、ありがたい言葉が多くて。ほんとに愛されてるんだなって。で、今はちょっとお客さんや出演者に負けてるというか、関係が対等じゃない。「ありがとうございます」って言うしかない。これはコロナが落ち着いてからどうにかするしかないし、今後返していくしかないんですけど。今3つのバランスがいい意味で崩れてるのは、自分たちが今まで頑張ってきたことの功績かなって思うと、ちょっと頑張ろうって気持ちになりますよね。

2020.06.19

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