Ken Yokoyama 初のミニアルバム『Bored? Yeah , Me Too』から、「Woh Oh」のMV公開!
Ken Yokoyama 初のミニアルバム『Bored? Yeah , Me Too』レーベル直販(通販のみ) でリリース決定!Trailer映像公開。
9月25日、Ken Yokoyamaが初のミニアルバム『Bored? Yeah, Me Too』を通販限定でリリースする。横山健は昨年9月、抑うつ状態を再発させたことによりスケジュールをすべてキャンセル。それ以降、表舞台に姿を現すことなく、沈黙を守っていた。そんな事情をファンは知るわけもなく、ただただ不安を抱えるしかなかった。そんななか発表された新作のリリースなだけに反響は非常に大きい。そして、今作はそんな膨れ上がった期待に十分応える内容に仕上がっている。
今回のインタビューはいつものようにリラックスしたものになっているが、だからこそKen Yokoyamaの現状がよりリアルに伝わるのではないかと願っている。4人に会った時点で気になることはたくさんあったが、兎にも角にも傑作『Bored? Yeah, Me Too』のことから話をスタートさせてみた。
Interview by 阿刀大志 ( @DA_chang )
──いろいろ聞きたいことはあるんですけど、とにかく作品の出来がよすぎて。『Bored? Yeah, Me Too』、めちゃくちゃよくないですか?
横山健 おお~。いいっしょ?
──本当にびっくりしました。メロディ、アレンジ、演奏、コーラス、全てにおいてきめ細やかだなと思いました。
横山 自分でも思うよ、今までと変わったなって。『Sentimental Trash』(2015年9月リリース)、ナンちゃんとのスプリット(『Ken Yokoyama VS NAMBA69』。2018年6月リリース)、『Songs Of The Living Dead』(2018年10月リリース)から変わった。でも、自分では何が変わったかあまりよくわかんないんだよね。ただ、コロナのおかげでレコーディング前にアレンジを煮詰める時間がけっこうあったし、ドラマーが変わったのも絶対に大きいでしょ? だから、何が特別に大きかったかはわからないけど、とにかく変わったって印象はある。
──『Sentimental Trash』以降というより、その前の作品とも違うと思うんですよね。
横山 どうなんだろう……? うーん、そうねえ……わかんない(笑)。お相撲さんじゃないけど、そのときどきで一生懸命やってるだけですっていうさ。
──じゃあ、JUNさんはどうですか。
JUN GRAY 俺も健と同じで、意識して変えようと思ってやってはいないかな……ただ、時間はあったと思う。
横山 それ、俺が言ったよ!
一同 (笑)
JUN や、そうなんだけど(笑)、ありすぎるぐらいあったからさ。健の体調不良でレコーディングが一度延びたことで時間ができて、またフレーズを練り直して、考えに考えた挙げ句、またもとに戻したり……っていうことができるぐらい時間があった。だから、いつもみたいにレコーディングスタジオに入ってからいろいろ考える必要がないぐらい、万全の状態でレコーディングに入れたかもね。
──南さんはどうですか?
南英紀『Sentimental Trash』は実験的な曲が多かったし、そのあとの作品も普段とちょっと違う感じの曲が多くて、寄り道というか、普段とは違う遊び心を活かした期間が長かった気がするんだよね。だから、もとに戻った……っていう言い方が正しいかはわからないけど、本来のKEN BANDに戻ったのかな。
横山 横山、曲づくりはけっこう気合い入ってたよ。スタジオのドアを開けるたびに「気合い入ってっからっ!」って言いながら新曲つくってた気がする。曲はいつも俺が8割9割元ネタを持っていくんだけど、その段階ですでに「これまでよりもステップアップしたものを持っていきたい」って無意識に思ってたんじゃないかな。
──でも、何をもってステップアップとするかですよね。
横山 ね。それがわかんないんだよ。まあ、KEN BANDもけっこうキャリアが長くなって、JUNちゃんと南ちゃんが入ってから10年以上が経って、そうすると「これ、やったよね」っていう曲が増えてくるんだよ。「これ、アレと一緒だよね」っていうのが。「前と同じでもいいじゃん」ってジャッジすることもあるんだけど、やっぱり「何かほかにないかな」って探すんだよ。そういうときってわけのわからない変化球方向に行きがちなんだけど、どうやって過去の曲と同一線上にあるような、しかもそういった曲と比べても遜色ないものをつくれるのかっていうのは考えた。
──たしかに、今作の収録曲は全部予想していたのと展開が違うんですよ。これまでの横山さんならこう展開していくだろうなっていう想像がすべて裏切られるっていう。
横山 それさ、ストレートしか投げてこなかったピッチャーがカーブ投げて褒められてるようなもんなんじゃないの?(笑)
──いやいや(笑)。黄金の横山メロディというものがあって、そこにさらに新たな道を提示された感じですよ。「まだそんなネタ持ってたんだ!」っていう。全曲そんな感じでした。
横山 まだまだ持ってんのよ。
──だから、少なくとも今までで一番インパクトのある作品という感覚はありますよ。
横山 お、すごい。
──やっぱり時間が十分あったことが大きい気がします。
横山 ひとつの曲をよくすることには限界があると思うけど、ネタをいっぱい考える時間はある。だから、別の曲を持っていく時間があったっていう意味ではよかったね。たくさん弾があったから、収録曲をどれにしようか直前まで悩んでたし、入れるつもりだった曲をボツにして新しい曲を書き足すこともできた。「Still I Got To Fight」なんて比較的最近の曲だし。
──今回の曲はどれも一緒に歌わざるを得ないんですよ。「はい、ここはみなさんシンガロングしましょう」っていうんじゃなくて、一緒に歌わざるを得ない強烈な魅力がある。
4人(沈黙)
──……人がここまで褒めてるのに、まだ「ふ~ん……」みたいな感じなんですか。
JUN あっははは!
横山 いやいや!(笑)俺たちは初めて人から感想聞くからさ!
──「やってやった!」みたいな充実感はないんですか。
JUN いや、いいものをつくったとは思ってるんだけどさ、いつも手厳しいダイシにそこまで言われるなら「ああ、本当にいいものができたんだな」って。うん。
横山 だから、みんな案外自覚がないんだよ(笑)。
南 あと、これからフルアルバムを録るからさ、そこまでつくり終えたところでようやく何か思うのかもね。今はまだ自分たちの中ではやるべきことがある状態だから。
横山 そう、今回のミニアルバムは今度録るフルアルバムとワンセットだからね。もちろん、今回のレコーディングでも力を出し切ったけど、今はまだやりきった感を覚える時期ではないのかな。
──まだ頭のなかで思い描いているものを出し切ってないっていう。
横山 実際、曲は揃ってるし、フルアルバムを録る準備はできてんのね。だから、南ちゃんが言ったみたいに、そこまで録ってやっと出し切れたと思えるのかな。
──新メンバーのEKKUNとしてはどうですか。
EKKUN まとまった作品としては初めてのレコーディングだったし、これまでやってきたのとは違う音を鳴らしたかったんで、目の前にあるものに対して必死に取り組んだって感じでした。でも、まだゴールした感覚はないし、まだやることはあるって感じですね。
──なるほど。
EKKUN でも、去年末にピザコンピ(『The Very best Of PIZZA OF DEATH III』)の曲を1曲録ってその仕上がりを聴いたときに、今までKEN BANDで鳴ってなかったドラムを鳴らせたという手応えがあったので、「この調子でいこう」っていう気持ちのまま今回のレコーディングに臨めたと思います。あと、幸か不幸か時間があったので、レコーディングブースに入ってから迷わず叩き切れるぐらい練習できたのは大きかったですね。
──横山さんのなかでドラムに引っ張られた部分ってありますか。
横山 曲づくりは相変わらず俺が中心になってあーでもないこーでもないって進めていくからそんなに影響は受けてないような気がするんだけど、EKKUNが言ってたように、ピザコンピに収録した「Out Alone」を録ったときに初めて「EKKUNのドラムってKEN BANDに混ざるとこう聞こえるのか!」ってメンバー全員が知って、「これ、イケるんじゃね!?」って思ったから、あの曲はデカかったと思う。……でも、EKKUNが入ってもう2年も経つんだけどね。正式にアナウンスされたのは去年の頭なんだけど、ちょうどその1年前にまっちゃんが辞めたいって言って、その日から新しいドラムを探し始めて、すぐにEKKUNに会って。それがもう一昨年の8月なのよ。
──どうやってEKKUNに辿り着いたんですか。
横山 なんかEKKUNがあぶれてるっぽいぞっていうのは感じてたんだよね(笑)。
──あはは!
南 そのときやってたバンド(Joy Opposites)から脱退するっていう情報が流れ始めたタイミングで、EKKUNとはもともと仲がよかったから、「EKKUN、どうしてんのかな?」って。
──じゃあ、迷わず声をかけたんですね。
横山 うん、声をかけるのは迷わなかったんだけど、今回はEKKUNも含めて4、5人のドラマーと音を出してみたんだよね。これまでKEN BANDってドラムが安定しなかったから、適任をじっくり探そうってことで。
──最終的にEKKUNにお願いしたいと思った決め手はなんだったんですか。
横山 EKKUNは、俺、JUNちゃん、南ちゃんの3人それぞれに対して平等の距離感があったんだよね。もともと、3人のうち誰か1人のことしか知らない、みたいな人じゃないほうがいいなと思ってたの。
──ああ、なるほど。
横山 ドラムはさ、人の数だけビートがあって、そこにはよさもあれば悪さもあるわけ。だから正直、実際に組んでみないとわからないところがあんの。で、EKKUNはドラムの技術に関しては折り紙付きなのはわかってたけど、KEN BANDに入ったら意外とダメだったってなる可能性も感じてて。でも、実際は人柄もメンバーとの距離感もEKKUNが一番よかった気がしたんだよね。バンドに飢えてたからやる気もあったし。
JUN やる気ね。たしかに一緒に音出したドラマーのなかで一番がっついてきたもんね。「なんとかしてこの座を掴み取りたい!」っていう気持ちを一番感じた。
横山 そう、ハングリーだった。こっちが「まだ他の人も試すよ」って言ってんのに、「ちょっと会いたいです!」とか(笑)。
南 「飲みに行きたいです!」とか。誰も飲まないのに(笑)。
──あはは!
横山 一緒にスタジオに入ったドラマーのなかで、KEN BANDに入ることがチャンスだと一番思ってたのはEKKUNだったんじゃないかな。
EKKUN それは完全に思ってました。
──EKKUN側の話を聞かせてください。
EKKUN 最初、見知らぬ電話番号から着信があって、留守電まで入ってて……俺、同級生に横山シンジってヤツがいるんですけど、留守電を聞いてもまだそいつがかけてきたと思ってて、「シンジ、どうしたんだろうな?」と思ってバイトが終わってからかけ直したら、「健だよ」って言われて、「ええ~っ!?」みたいな。
横山 そう、俺のことをシンジだと思ってたの(笑)。
EKKUN 「うわぁ! そっちかぁ~!」みたいな。
横山 KEN BANDとFACTは仲よかったけど、EKKUNの電話番号は知らなかったんだよ。
EKKUN 前のバンドを脱退することになって、「なんかな~、どうしようかな~」ってモヤモヤしてるタイミングで電話が来たんですよ。
横山 俺、その情報はツイッターで見て知ったんだよな。でも、そのときはまっちゃんが辞めるなんて思ってなかったから、「へぇ~」ぐらいに思っててさ。
──その電話を受けて、EKKUNとしては「チャンスだ!」と。
EKKUN そう、「俺しかいねえだろ!」ぐらいの気持ちで。
──それは何か根拠があったんですか。
EKKUN 根拠……あるようなないような。がんちゃん時代からKEN BANDを見てて……
JUN 「俺のほうがうめえだろ!」って?(笑)
EKKUN 違う違う!
JUN 前の2人と比べて俺のほうが上だろってことでしょ。
EKKUN 違う違う! 上とか下じゃなくて! 健さんから話をもらって、「俺ならもっとこういう感じのことができるだろう!」って。まあ、それを根拠のない自信って言うのかもしれないけど、カマしてやろうと思ってました。
──でも、実際に入ってみると、理想と現実に直面するわけですよね。
EKKUN 去年は正直、打ちのめされましたね……(笑)。この20数年の間に培ってきたなかで全然使ってこなかった筋肉が必要とされて。
──「使ってこなかった筋肉」というのは?
EKKUN FACTのライブではクリックを聞きながらドラムを叩いてたから、演奏をする上で道しるべがあったんですよ。でも、KEN BANDは完全に現場の空気を重視するから……。
横山 クリックどころか、ライブの進行がものすごくスリリングだからね(笑)。
EKKUN そういう部分に去年は圧倒されて。
横山 去年はEKKUNのお披露目のつもりで1月から9月ぐらいまで全国各地を回ってたんだけど、そこで南閣下に打ちのめされたみたい。あはは!
EKKUN いやいや!
──そうなんですか。
横山 そう、南ちゃんは特に演奏面でのバンドリーダーだから。ツアー中にちょっと心配になって、俺、EKKUNの部屋まで話しに行ったりしてたもんね。俺はさ、ライブ中は前しか見てないから案外わかってなかったりするんだけど、あとでメンバーがすごい討論してるんだよ。
──南さんは何がそんなに気になったんですか。
南 今、バンドがいっぱいいるなかで、俺らはオッサンで周りはみんな若いでしょ? そんななかで自分で勝手に「KEN BANDはこうあるべきだ」って思い描いてる形があるのよ。
──それは?
南 演奏が上手かったりタイトである必要は全然ないんだけど、ベテランにしか出せない圧倒的な空気感のあるライブを毎回したいわけよ。だけど、ライブ中に背中からそれを感じられなくて。まだ曲の構成で頭がいっぱいなのかなとか、自分のドラムのことだけ気にして叩いてるなっていうことを感じちゃうのよ。もちろん、はじめはいいの。それは仕方ないから。でも、そこからなかなか一歩前に進めないことに対して苛立ちがあって。1本1本のライブは大切だし、その日にしかないものだからさ。またそこに来たときにいいライブをやればいいよっていうわけにはいかないじゃん。
──そうですね。
南 そう考えると自分のなかで焦りが出てきて、どうしても言っちゃうのよね。メンバーが変わったらさ、前よりもグレードアップしたものにしたいのよ。でも、EKKUNには申し訳ないけど、自分のなかではそれができてるとは思えなかった。「もしかして、まっちゃんがいた頃のKEN BANDのほうが強いライブやってたかな……?」みたいに思っちゃったライブが何本か続いて、自分でもそれが悔しくて。だから、必要以上にEKKUNに当たった部分はあったかもしれない。
横山 すごく難しい問題だよね。EKKUNのドラム技術は折り紙付きだけど、4人の集団として練られていくには何しろ時間が必要だし、精神性のすり合わせなんていきなりできるわけではないし、ライブ中に自然と出てくる「間」もすぐに生まれるわけではないでしょ? でも、だからといって「しょうがない」では済ませられないわけよ。
南 そうそう、そうなのよ。
横山 自分たちで予定を立てて、人からお金をとって舞台に出ていくわけだから、最初から100%以上のものを見せないと。そんな話をEKKUNが1本目のライブをやる前からずっとしてたんだけど、やっぱりそういう問題に直面して……これ、読んでる人に伝わるのかな? 意外とKEN BANDって真面目なバンドなんだよ。いつもはふざけてるけど、これがKEN BANDなのよ。
──でも、それを言われるEKKUNとしてはなかなか難しいですよね。個人練に何時間も入って解決するような問題ではないし。
横山 ね。
EKKUN でも、俺自身もみんなが言ってることは究極だと思ってるし、前からKEN BANDは究極の存在だと思ってたので、自分もそうなりたい一心で今もやってます。
横山 でもさ、ちょっと話は飛んじゃうけど、ライブをしてない時期が一年ぐらい続いてて、これが俺らにとっては意外といいんじゃないかと思って。
──それはどういうことですか。
横山 衝突しながらライブを続けていくと、いつか絶対消耗していくと思うんだよね。だけど、去年からツアーに出られない時期が続いて、その代わりにしょっちゅうスタジオに4人でいるようになったんだけど、これはこれで別の空気が出来上がっていくんだよ。だから、強制的にライブできない時間が1年近くあったことはラッキーだったと思う。まあ、これがこの先どれだけ続くのかわからないけど。
──たしかに、4人で長い時間をともにすることで生まれる空気感がライブに影響を与えるっていうのはありますよね。
横山 KEN BANDは30分練習して、3時間おしゃべりするバンドだもん。
──EKKUNは、3時間くっちゃべってることに関してはどう思ってるんですか。
EKKUN いや、もう、幸せな時間です。
──「この人たちまだ帰んないのかな……」みたいな。
EKKUN いやいやいやいや!
横山 それはJUNちゃんだよ(笑)。
JUN 家が遠いんだよ。ねみいし。
──今話してもらったことに加えて、今のKEN BANDは「それぞれのメンバーにバンドの1/4を担ってもらいたい」っていう横山さんの思いが強くあるわけじゃないですか。それもEKKUNに容赦なくのしかかってくる課題ですよね。
EKKUN 次の日から1/4になるのは無理だから、いい意味で割り切るというか、自分らしくいられるように、前に進めるようにっていう気持ちでやってます。だらけるっていうことじゃなくて、長い目で見て、一歩ずつ着実に。こういう時期も重なったのでなおさら俺にとってはチャンスだなと思ってます。
──ライブこそできていないけど、バンドの一員としてEKKUNはフィットしてると言えますか。
横山 俺はそう思うよ。
南 音源つくったからね、それが大事だよね。
横山 そうね、集団として何かトピックを乗り越えていかないとね。ツアーがありました、新曲をつくりました、それを録りました、リリースの動きに全員で関わっていきましたっていうことを経て集団になっていくと思うんだよね。それに俺は今、4人でスタジオに入るのがすごく楽しいし、ライブのことを考えずにいられるから、ある意味ではリラックスしたいい時間のような気がする。
Vol.02へ続く
Interview by 阿刀大志
( @DA_chang )
──そんなEKKUNの話もありつつ、横山さんは去年、また抑うつ状態になってしまったそうですね。
横山 そう、やっちゃったっぽいんだよね。ただ、俺は30歳のときにもやってるでしょ?
──はい、そうですね。
横山 あのときほどひどくはなかったんだけど、「ちょっとマズいな」っていうのを感じて、<いしがきミュージックフェスティバル>の前の晩にメンバー4人で話をしたのよ。それをすぐにピザオブデスにも伝えて、ピザはやっぱりずっと俺のことを見てるわけじゃない?だからすぐに「全部止めよう」っていう判断をしてくれたんだけど、そのおかげでリカバリーがすごくよくて。意外と早く練習に復活できたし。ヤバいってなったのが9月末で、11月にはもうスタジオに戻ってたんじゃないかな。
──やっぱり一度経験してるからこそ、自分でもヤバいポイントがわかってたんですね。
横山 うん、そんな感じだった。この20年の間にもピンチな時期はあったんだけど、今回は一番ヤバさを感じて。それをちゃんとメンバーに告白できたのはデカかったな。あれで「でも、ライブをやらなきゃいけない」ってなってたら30のときの二の舞だったかもしれない。
──初めてのときなんてわからないですもんね。ただなんとなく調子悪いのかな、みたいな。
横山 そうだよね。しかも20年前ってさ、世の中的にもうつとか抑うつとかパニック障害に対する理解がまだ足りなかったからさ。
──本当にそうですよね。今から考えると無理解に近いというか。
横山 「気合いでしょ?」みたいな。実際、そういうふうに言われたこともあるし。だけど、今回は周りにも救われてラッキーだったと思う。
──3人もよくすぐに受け止められましたね。
JUN 健は「理解」って言ったけど、まあ、休んでもらうしかないよね。それがいつまでなのかはわからなかったけど、早くに復活してくれて動けたからこそ今があるっていうか。そういうことも含め、うちらにとっては結果オーライだったんじゃない? ほかのバンドはコロナになってもっと大変だと思うけど。
横山 若いバンドとか中堅バンドにしてみたら、すごく活動をしたいときにこの状況はかわいそうだけど、ベテランの俺らにとってはサッカーのハーフタイムをもらったような感覚だよ。「ああ、ちょうど休みたかった」みたいな。若いバンドにとっては「開始5分でハーフタイムかよ!」みたいな感覚なのかもしれないけど。
──体調の問題とコロナのこともあって、結果的に横山さんは完全に世の中の外にいるような感じになりましたね。
横山 そうねえ。SNSでの発信も止めちゃったしね。SNSで発信するかどうかっていうのは何気にデカいと思うんだよな。ツイッターはもう自分が発信する場所じゃないなっていう気がしてる。
──それはなぜ?
横山 なんでだろうね? はっきりした理由はなくて、そこまで悪いもんだとも思ってないし、たまには見るけど、発信したいっていう欲求が湧いてこない。
JUN 健は俺とかとフォロワー数が全然違うから面倒くさいよ。何か言ったことに対してのリアクションがでかすぎるからやりづらいだろうなって思う。俺はレーベルの宣伝に使いたいから便利だったりするけど、有名な人はすぐに炎上したりするし、嫌んなっちゃったっていうのもあるんじゃない?
──まあ、ツイッターは治安悪くなりましたよね。
横山 ね。今や2ちゃん(現5ちゃんねる)よりひどいよね。出てきたときは「これで2ちゃんの影響力が小さくなるし、ツイッターさまさまだー」なんて思ってたけど、今はそれよりひどい。だって、中傷で人が死んでんだよ?
──まさかそんなツールになろうとは。
横山 最初は最っ高に楽しかったのにね。
──最っ高に楽しかったですね。
JUN もともとそういうツールがなかった時代はそれが普通だったんだけどね。バンドマンが何やってるかなんてわからなかったし。
横山 すごく平たい言い方すると、バンドマンも芸能人もミステリアスさがなくなっちゃったよね。ファンにとってはいいことなのかもしれないけど、別の角度からするとちょっとね。バンドマンがどこで飲んでるかなんて知ったこっちゃねえよ、みたいな(笑)。
──10年前のツイッターは、まだ人があまりいないところで遊ぶ楽しさがあったけど、それが当たり前のものになってしまうとちょっと違ってくるというか。今は、ほかのバンドマンがやってないような発信をしたり、表現方法を見つけるほうが刺激的ではありますよね。
横山 そうそう。しかも、今なんてまともに活動してないから言うこともないわけで(笑)。「今、新曲つくってます!」って馬鹿みたいに毎回言ってもさ。……まあ、ちょっと強めに言っちゃったけど、中傷じゃなければみんな自由に利用すればいいと思うんだけど、俺はちょっと引こうかなって。そうなると、やっぱり世の中の外にいる印象になるよね。元からやってないなら別だけど、俺、一時期はツイッターの人だったからね(笑)。
──そうですね(笑)。ツイッターに絡めたツアーをやったり、ツイッターの番組に出演したりしてましたもんね。今回の作品はそういうこともあって自身を世の中の外側に置いてる印象を受けるんですよね。
横山 聴いてそう思ったのならそうなのかもしれないけど、自分がそのときどういった面持ちだったかはまだわからないなあ……ただ、外側にはいたかもね。世の中に対して「クソが」って思う気持ちがすごく強かった。だけど、それをそのまま言わずにいろんな表現でまぶした。
──今回の歌詞の世界に出てくるのは「俺」と「お前」だけで、仲間という意味での「お前ら」はいないんですよね。
横山 たしかにそれはあるかも。俺対不特定多数じゃなくて、1対1の関係を取り戻さないとという感覚はもしかしたらあったかもね。あと、自分の表現が変わったと後づけで思うのは、「俺」と「お前」と「あいつら」なの。だから、やっぱり自分を外側に置いてるんだね……よくわかったね!
──……いや、それはみんな感じると思いますよ。
横山 (笑)ここでは世の中のことを「奴ら」とか「あいつら」に置き換えてるわけ。そういった世界観が今回のミニアルバムと次回のフルアルバムにも反映されるんじゃないかな。
──<お前は「男が逃げたらダメ」って言うけど 心配ない 代わりに人形でも置いときゃ 誰も気がつきゃしないよ>という歌詞なんかも、横山さんらしいと思いつつ、これまでとは違うなって。
横山 歌詞を書くときって、その事象について描いているようでいて、実は何かの暗喩だったりするわけじゃない? だから、この曲の場合は冗談ぽく書いてるけど、「世の中、これって替えがきいちゃうんだぜ」っていうことの裏返しかもね。
──それでありながら、サウンドやメロディには人を強烈に惹きつけるパワーがあって。そのすさまじいギャップにちょっとした怖さを感じるんですよね。
横山 ああ、そう。へぇ~。
──冷めた視点で語られているのに、それがみんなが歌いたくなるようなメロディに乗せて歌われているというギャップ。今気づいたんですけど、こういうふうに感じるのは今作のアートワーク込みで歌詞を読んだせいかもしれないです。
横山 ああ、なるほど。あのアートワークは最高に不気味だからね。
──今回は横山さんが全ての絵を描いてますもんね。そこからの影響が大きいのかも。
横山 そうだね。あのアートワークは好きだなあ。今回は死神がテーマなわけ。死神を主人公にしたアートワークなんてこれまでだったらつくろうと思わなかったと思うんだよね。だけど、うまく説明できないけど、ダイシが歌詞に抱いた印象とあのアートワークは近いかもしれない。
──どのページを見ても死神しかいなくて、描かれた道の上には人間がひとりもいないんですよ。かつては、ソーセージとはいえ、ジャケ一面を埋め尽くすぐらいの生き物がいたわけじゃないですか。そういうところからも横山さんの心象風景がうかがえるんですよね。
横山 なるほどね。
──南さんは今回の歌詞についてどう感じてますか。
南 歌詞を英語にしてるのは俺なんだけど、日本語詞を読んで受けた印象から、「これ、このまま訳してもいいんですよね……?」みたいなところはちょっとあったね。
横山 そうなんだ(笑)。
──たとえばどの曲ですか?
南 コンピ(『The Very Best of PIZZA OF DEATH III』)に入ってる「Out Alone」。「大丈夫かな~?」って思いながらやったからね。
横山 <ひとりで死ぬのさ>だもんね(笑)。
南 そうそう。普通に「ああ、そうだよね」って思える部分はあるんだけど、お客さんが見たら深読みしちゃうかな、とか。
横山 歌詞を書く過程で、南ちゃんに「頭のおかしい時期に書いたからこその面白い歌詞ができるかもね」みたいなことを話した気がするな。
──サウンドが違うから最初は気づかなかったけど、「Cost Of My Freedom」の世界観にも近いんですよね。
南 ああ、そうそう。そうだね。
横山 言ってることはわかる。
──そう言われてみて思うことって何かありますか。
横山 これ、Hi-STANDARDの映画『SOUNDS LIKE SHIT』でも言ったんだけど、「Cost Of My Freedom」の歌詞を今読むとね、そこまでいいものではないんだけど、狂った画家が描いた絵みたいに感じることがあって。今回もそういう手触りなのかもしれない。別に病気になったからとかではなく、それって自分を世の中とか大衆の外に置くことなのかなと思ったり。
──なるほど。
横山 あのときもそういう感覚に支配されてたとは思うんだよね。歌詞自体はすごく孤独じゃない?
──そうですね。
横山 でも、今は全然孤独ではないんだけど、歌詞に向かうマインド、発信したいマインドはそうなのかもしれないよね。
Vol.03へ続く
Interview by 阿刀大志
( @DA_chang )
──それにしても、『Bored? Yeah, Me Too』というタイトルは秀逸ですね。
横山 いいっしょ? パッと思いついたんだよね。歌自体が今の時期とかコロナのことを直接捉えてないから、「だったら作品のタイトルだけでも」って。
──とはいえ、もっとほかにあるでしょうっていう(笑)。
横山 あはは!
──でも、このタイトルを見た瞬間、肩から無駄な力が抜けたというか。こういう発信の仕方をするミュージシャンっていなかったなと思って。
横山 まあね。このタイトルみたいなことを大きい声で言ったら不謹慎って言われちゃうからね。
──でも、こういう皮肉の効いた視点ってすっぽり抜け落ちてたなと。だからこのタイトルを見たときに、「ああ、横山健が欠けてたんだな」ってことに気づいたんですよ。
横山 世の中には横山が足りないと。ふはははは!
──そうですよ(笑)。このタイトルも、去年から世の中の外に身を置いていたからこそ出てきた言葉だと思うんですよね。
横山 そうだね。(声色を変えて)マチガイナイ。
──誰ですか、それは。
横山 ヤマケン(DRADNATS のベーシスト)。ごめん、マイナー過ぎた(笑)。
──あはは! でも、Ken Yokoyama、KEN BANDって面白いですよね。最初は音源化されるかどうかもわからないところからひとりで曲をつくり始めて、それが結果的に幅広く受け入れられて、そこからライブもやるようになり、パンクシーンを背負う存在になったかと思ったら、そこから一気に奥へ引っ込んで、またこの作品で世の中に現れて。これまでいろいろな出来事があったけど、何をやっても、どんな状態にあっても、Ken Yokoyama、KEN BANDなんだって違和感なく思えるんですよ。
南 でも、それに振り回される俺たちはけっこうツラいよ!
──たしかにそうですね!
南 ウソ、冗談冗談(笑)。
──いや、そりゃあツラいですよ。自分たちなりに横山さんに対して気を使っていたのに、いきなり「KEN BANDの1/4になれ!」とか言われたり。
JUN あははははは!
南 でも、自分の器ってあるじゃない? その範囲内でやるしかないからさ。
横山 オトナだなぁ(笑)。
南 結局、それができないとまっちゃんみたいに辞めていっちゃうのよ。EKKUNも強い気持ちでKEN BANDをこれからもやっていくんだろうけど、できること、できないことはあるからさ、うまい具合にやってくれたらいいかなって思う。
──それがKEN BANDでうまくドラムを続けるコツですか。
EKKUN ふはははは!
南 そうそう。極端に言えば、こんだけ言ってる俺の言うことが100%正しいわけでもないからさ。だから、EKKUNは「いや、南さん、こっちのほうがいいと思いますよ」って言えるようになるぐらい、自分の力でKEN BANDのドラマーになってくれるのが一番いいと思う。
──さて、このあとはアルバムの制作に入るわけですね。極端な話、世の中の状況がどうなろうが、とにかく出すべきものを出すと。
横山 そう。着地点を求めずに、今はバンドがバンドらしくいるための活動をしないとさ。それが音源制作だったりするのよ。今はこれだけ音源が売れなくなってさ、果たして音源制作だけを続けることが正解なのかとは思うけど、俺らは俺らでモチベーションを保っていきたいからさ。やっぱ、形にしていかないと先には進めないし、この時期なりのバンドの進め方ってあると思うんだよね。
──ライブができなきゃどうにもならないと思ってるわけではないんですね。
横山 最初は「えれぇこっちゃ」って思ったよ。でも、数ヶ月もすると「まあ、そんなことばっか思っててもな」と。この先何が待ってるかはわからないけど、今すべきこと、したいことははっきりしてる。この先、2年3年もライブができなかったら「ライブできないならバンドなんてやってる意味ねえよ!」とか思うかもしれないし、「音源制作だけでもけっこう楽しいね」って思うかもしれないし、どうなるかは本当にわからない。でも、そのときそのときの自分たちのモードに従って正直にやっていけたらなと思ってるよ。
──わかりました。『Bored? Yeah, Me Too』は作品単体としても、次のフルアルバムへの期待を高める意味でも本当に素晴らしい作品だと思います。
南 どうしよう、アルバムでガッカリさせちゃったら。
横山 「あのとき、ミニアルバムとワンセットだぐらいのこと言ってたのはなんだったんですか」とか。
──あはは!
──今回の作品に関してはこのボリューム感だからよかったというのはありますよね。
横山 そうだと思う。これで曲数が倍以上あったら散漫に受け止められたかもしれない。アルバムはアルバムで、今回とは別のアプローチも考えてるから。何曲ぐらいつくったのかなあ? この3年で相当つくったよ。ボツにしたのも合わせたら25曲ぐらいやってると思う。しかも、まだつくってるし。
──それは横山さんが曲づくりのモードになってるということなんですか。
横山 いや、嫌々つくってる。でも、揃った曲を家で聴いてると、時々「あれ?」って思う瞬間があったりするの。「これってアルバムに入れる必要ないんじゃない?」って。今までは時間がなかったからそこまでは考えられなかったんだよ。でも、アルバムってそういうもんだし、そんなことやってたらいつまで経っても完成しないじゃない? そのせいで15年もアルバム出せませんでしたっていう話が美しく受け止められるようなバンドでもないし(笑)。だけど、幸か不幸か今は曲を検証する時間がいっぱいあるし、「この曲じゃなくて、もうちょっとこういうタイプの曲だったら……」って一度思っちゃったらその気持ちには嘘をつくべきじゃないんだよね。
──なんやかんや言ってましたけど、やっぱり時間があったからこその鋭さっていうのはこの作品にはありますね。
JUN ダイシはどの曲が好きなの?
──うーん……。
横山 「Balls」?
一同 (爆笑)
横山 「あれはヤバいッスよ。あれは全男が泣きますよ!」って(笑)。
JUN 「こいつ、本当にこの作品のことわかってんのかなあ?」ってなるよ。
──でも、「Balls」の歌詞はどうでもいいネタなのにしっかりオチがついててすごいと思いましたよ。
南 BBQチックだよね~。
──そうそうそう。
横山 実話だし、みんなでよく話してたことではある。で、突然キンタマのことを歌いたくなったんだよね。
──そういえば、今作は通販限定販売にするそうですね。
横山 ピザとして、この時期ならではの面白いことができないかって挑戦したがってて。そこで通販限定っていうアイデアが出たのね。CDショップもオンラインが売上のほとんどを締めてるぐらいだし、それならピザオブデスの通販で売れないってことは絶対ないと思うんだよ。それに、レーベルとしてもそういうインフラを持つのはすごく強いことだし、やってみようと思って。
──なるほど。
横山 で、もしこれが成功したら、今まで手がけられなかったバンドの作品を出せるようになるかもしれないし、所属バンドがアルバムとかシングルとかに縛られない面白い作品を出せるようになるかもしれないし、ちょっとは可能性が広がるかなって。でも、ピザオブデスが一番重要視したのはお客さんの手元に直接届けられるってことかな。外に出られない時間を経たからこそのアイデアだよね。
──Amazonよりピザから届くほうがうれしいですもんね。
横山 うれしいはずなんだけどね。だからといって、これが通販向けのアルバムだとはまったく思ってないし、こういう販売形態だとすごくお遊び的な作品に受け取られそうだけど、それは癪なんだよね。だから、今回でその認識を変えないと。
──どの曲もよすぎて、どれがリードトラックになるのか全然わからないですよ。ひとつに決められない。
横山 どれも別のよさがあるからね。今回、1曲ビデオをつくるからそれがリード的な扱いになるけど、決してそれがこのアルバムをレペゼンしてるわけではないと思う。そういった意味でも不思議な肌触りのミニアルバムだなって思う。人によって好きな曲が全然違うだろうし。
──そうでしょうね。どれも飛び抜けてるんだけど、結果としてどれも飛び抜けてないっていう。
横山 アレだよね、世界陸上の男子100m決勝みたいなさ。
──自分からそう言われると同意したくなくなりますけど、うん……まあ、そうですね……わかりますよ。
横山 わかってもらえたならいいや!(笑)
Interview by 阿刀大志
( @DA_chang )