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-- 新作に収録した曲を振り返ってみて、いちばんスッとイメージが具現化できた曲というと?
Minami わりと全部がそうなんですけど、アコースティックギターで弾き語った「Superhero」になるかな。この曲は、レコーディング期間に入っても、サビのメロディーしかできてなくて。完成したら収録しようって話になってたんです。やっぱり、アコギの曲は入れたかったし、スタジオから家に戻って、夜中にパッとやってみたら上手いことできて、収録することができたという。
-- となると、それこそ数時間で完成したような。
Minami でしたね。それが何だかよかったんですよ。『New Neighbors』でも10分ぐらいで作った曲があって、同じくアコギの「My Princess And Me」。で、なんだかんだ『New Neighbors』でいちばん好きな曲だったりもして。意外とすぐできる曲って、いいモノなのかなって思ったりもしたし。もちろん、難産な曲がよくないっていうわけじゃないけど。悩みに悩んだ結果、凄くいいモノになったりもするから。
-- すぐに曲としてまとまったということは、自然と手が進む感じだったんですか?
Minami それもあるし、その直感を自分で信じれたのかもしれないですね。「これでいいのかな?」と感じるときもあったけど、すぐに「これでいいんだ」って思えたし。
-- アコギの曲を入れたいっていう、いちばん大きな理由は何だったんですか?
Minami 自分が聴いてきたロックのアルバムだと、絶対に入ってるんですよね。それこそ、LAのハードロックバンドでもバラードがヒットしてたりするじゃないですか。
-- たしかに、ExtremeやDef Leppard等、挙げればキリがないほど、そういった側面を持つバンドは多いと思います。
Minami Aerosmithなんかもそうだし、ああいうカッコよさを出す自信があるわけじゃないけど、「何かやりたいな」って。まあ、憧れですよね。いいアクセントにもなるし。
-- 曲を作るときに「あのバンドのああいう雰囲気が好きなんだよな」みたく考えることもあるんですか?
Minami ありますね。むしろ、そういう場合が多いです。「こういうニュアンスの曲が作りたいな」って想像して、自分なりにメロディーをつけたりとか。改めて考えてみれば、そういうスタートラインがパンクバンドじゃないところが多かったから、今回はこういう作品になったのかもしれないです。
-- ご自身がもっとシンプルに歌いたいからアコギという選択肢が出てきたということもあったり?
Minami いや、まったくないです(笑)。だって、やっと自分が歌ってることに慣れてきたぐらいですから。『New Neighbors』とか、自分の声に慣れなかったですからね。
-- となると、歌うこと自体はそんなに好きでもなかったという。
Minami そうでしたね。ただ、どうしてもアメリカっぽさにこだわりたくて。そうなると、発音の問題がある。で、発音でも、ちゃんとロックを聴いてる人の歌い方っていうのがあるんです。そう考えたとき、しっかり歌える人を探すっていう方法もあっただろうけど、細かいニュアンスまで求めたら、その人が歌う意味が薄れたりもするだろうし。だったら、自分が歌うのがいちばんいいんだろうなって。
-- ご自身が軸になって動かないといけないバンドって、面白さが違ったりしますか?
Minami たしかに面白いんですけど、やっぱりたいへんですね。僕がだらしないんで、切羽詰まらないと動かない人だし。結果、何とかなるって思ってて……まあ、何とかなってるんですけど(笑)。
-- ハハハハ(笑)。メンバーは3人ですけど、中心人物の責任もありますよね。
Minami プレッシャーはないですけど、他の2人には楽しくやってもらいたいなとは思いますよね。言うべきことは言うけど、なるべくストレスなく。やっぱり、大前提としては、3人で楽しくやりたいだけですからね。
-- emberとしてはそこを踏まえたいという。もちろん、遊びでいい加減にやってるバンドとは決して思わないんです。ただ、emberって絶妙なラフさがあるじゃないですか。例えば、新しいアー写でGenkiさんを紹介するときも「火の付いてないタバコを持ってるのがGenkiです」って書いてて。なんで、「火の付いてない」っていう、面白い要素を入れるのかなと(笑)。
Minami ハハハハ(笑)。なんか、カッコつけたくないんですよ。そういうキャラでもないから。この歳だからできること、許されることっていうか。例えば、これが20代のバンドだったら「この人たちはやる気がないんだな」で終わっちゃうだろうし。
-- そう捉えられてもおかしくないでしょうね。
Minami 決して、コミックバンドにもしたくないし……ギャップっていうか、演奏し始めたら「おぉ!」って思って欲しいっていうか。僕ら、イベントとかだと若いバンドから誘ってもらうことが多いんで、そういう場で負けたくないっていう言い方はおかしいかもしれないけど、やってきた年数の説得力はある程度出さないと。そういう責任やプレッシャーみたいなモノはあったりもして。
-- 培ってきた重みをステージで出すと。
Minami そのニュアンスをステージ上で「お前ら行くぞ!」的なスタンスで表現したくないっていうか。楽曲のシンプルさの中にある説得力だったり、ギターソロひとつだったり、古臭い考えなのかもしれないですけど、自分の歳だからできることを出していかないとこのバンドの存在の意味がないとは考えてますね。
-- 無理をしないし、取り繕わない。カッコいい服を着るんじゃなくて、自分をそのままさらけ出して勝負してるみたいな。
Minami うん、そんな感じっすね。
-- ちょっとしたリフを弾いてる姿だったり、本質的な部分で光るモノがあるように。そういうところを伝えたいし、勝負したいみたいな。
Minami 勝負って言い方がどうかな……でも、そうですね。あと、勝手になんですけど、使命感みたいなモノがあるっていうか。若い子がやってる音楽に、自分が思うロックっていう要素がだんだん少なくなってきてるんです。自分の中のロック像が今の若い音楽にはないというか。別に「ロックはこういうモノだ!」とか「これを聴け!」っていうわけじゃなくて、こういうことをやってるバンドが今いないことに対して、物凄くつまらないようなところもあって。
-- 寂しさみたいなことですかね?
Minami あっ、そうですね。もちろん、音楽の形が時代と共に変わっていくのは当然だし、それを否定してるわけでもないんですけど、何となくでも「こういうロックっていいよね」って思ってくれる人が少しでもいたら嬉しいなって。「こういうのが聴きたかったんだ!」って。
-- たしかに、時代で音楽は変わっていくんでしょうけど、自分が寄り添ってきた音楽がなくなるのは寂しいですしね。
Minami 今って、洋楽離れしてるっていうか。必ずしも洋楽が偉いっていうわけじゃないし、全然そんなことじゃないけど、自分が音楽を始めたころの夢っていうか、観てきたバンドもそうだし、触れてきた音楽シーンはどうしても海外のモノが強かったんです。だから、そういう洋楽離れしてるこのシーンが寂しいなって。
-- ちなみに、好きなロック感を具体的に表すとどういうモノになりますか?
Minami その時期によって変わったりもするんですけど、ずっと普遍的に好きなのはハードロックとポップスの間ぐらいのバンド。凄くロックだと感じるんですよね。で、メタルは自分の中だと別モノだったりして。Megadethみたいなバンドも大好きですけど、その影響をemberで受けるかっていうと、また違うし。
-- Minamiさんのバックグラウンドとしては、メタルも強いですよね。
Minami そうなんですけど、emberではメタルの要素は排除したかったりもして。こんなことを言ったら誤解されるかもしれないですけど、メタリックな色付けって簡単だったりもするじゃないですか。ザクザクしたリフを入れちゃえば、それっぽく聴こえちゃうだろうし。そこはあえてやりたくなかったんですよね。だから、emberとしては細かいジャンルを知る前に感じてた洋楽っていうか、ビルボードのTOP40的な感じがやれればっていう。
-- だからこそ、emberにはメロディーを軸とした、シンプルな聴きやすさがあるんでしょうね。
Minami あの時代の音楽って、アメリカのロックになるのかもしれないですけど、ルーツになってるのがロックンロールだったり、カントリーだったりして。いわゆるダンスミュージックが入ってくる前の音楽ですよね。だから、凄くメロディーがよかったりする。ビートやグルーヴ重視じゃなくて、バラードがヒットしちゃうみたいな時代。そこで育ってきたからなのかもしれないけど、いい時代だったなと思うんですよね。
-- そう考えると、そういうロックにフォーカスしたバンドってあんまりいないですよね。もうちょっと細分化された音楽だといたりしますけど。あのあたりで育ってきたミュージシャンって少ないんですかね。
Minami いや、そんなこともないと思うんですよ。例えば、健さんなんか絶対にそうだろうし。マドンナとかマイケル・ジャクソンとか、今回ブライアン・アダムスもカバーもやりましたけど、なんか強かったんですよ、あのへん。
-- 周りを見渡してみて、同じような趣向を持ったバンドがいない寂しさみたいなモノはありますか?
Minami それは物凄くあります(笑)。
-- ハハハハ(笑)。ただ、普段から幅広いバンドと対バンしてますし、あまり他にない立ち位置で面白いなとは思いますけど。
Minami 知り合いがどうしてもメロディック系になっちゃうんで、意外と広いようで広くないところもあったりして。独自の世界観みたいなところで、ワンマンもいいのかなと考えたりするし。
-- emberは聴き手を選ばない良さがあると感じますし、どこでもハマりそうですけどね。それこそ、新作の仕上がりはそこが堪能できる仕上がりですから。
Minami ロックアルバムですね、ホントに。たぶん……ホントにたぶん(笑)。
-- いやいや、先ほどのお話にもありましたけど、「こういうのを待ってたんだよ!」っていう人も多いと思いますよ。
Minami たしかに、僕も思ったんです、他にいないなって。ただ……需要がないからいないんじゃないかなとも感じて(笑)。
-- あっ、そう考えますか(笑)。
Minami 3年間やってきて、最近ちょっとそう感じるというか(笑)。もちろん、好きでいてくれる人はいるし、バンドマンで「いいよね」って言ってくれるのも多いんです。でも、そう言われるバンドに限って人気がないじゃないですか(笑)。
-- でも、そういうバンドって、得てして内側に向いてるというか。ミュージシャンだからこそわかるこだわりが強すぎる場合な気がして。emberはそれが一切ないし、シンプルにいい曲を鳴らして、自然に楽しむ姿勢が伝わってくるんです。だから、そういう心配はしなくていいと思ったりはしますよ。
Minami そう言ってもらえると安心します(笑)。
-- あえてお聞きしますけど、emberから漂ってくる、自由に楽しんでいる根幹はどこにあるんでしょうか?
Minami ライヴのスタイルや楽しみ方って、いろいろあっていいと思うんですよね。それが意外とみんな似通ってる気がしてて。例えば、自分がYouTubeとかで好きな海外のバンドの映像を観てると、ちょっとしたライヴハウスでみんな酒を飲みながら、別にダイブやモッシュをすることもなく、自由な感じで楽しんでる光景があったりして。僕が知らないだけで、日本にもあるのかもしれないけど、そういうのがあっていいと感じるし。
-- 「ひとつのバンドの在り方として、楽しみ方としてこういうのもあるんだよ」っていう。
Minami そうですね。もちろん、ダイブやモッシュみたいな盛り上がり方を否定してるわけじゃなくて。emberのライヴでも、そういった楽しみ方をしてもらっても構わないし。そこは自由にやってもらいたい。根本にあるのは、ライヴへ足を運んでくれた人と空間を共にして、一緒に遊びたいっていうことですからね。
Interview by ヤコウ リュウジ
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