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映像作家MINORxUの
ビー・カインド・リワインド

Vol.02

運命って信じますか?
え?何?MINORxUってスピってるの?スピリチュアル系男子?
というわけで運命に抗うことも大事ですが、些細な運命なら乗っかって行ってみよう、という横ノリ気分で生きることについて考えてみます。

前回のテーマにも近いのですが、やはり若いころは「あーなりたい、こーなりたい」と思うわけです。
パンクに出会ってパンクな格好したくなる。ただ、それが似合わない場合はどーするか?
考えたことありますか?

「ファッションなんて関係ねーよ!要はスピリッツだ!」なんて言われるかもしれませんが、初期衝動とは「客観性を伴わない憧れ」のことを言うわけで、とにかくやるんです。
似合わなくたって着るんです。そしてそれがやがて恥ずかしい過去となっていくんです。

オレにもありました。
モッズに憧れて、※ポール・ウェラー(ザ・ジャム)みたいな格好がしたいとタイトなホワイトジーンズを履いたりしていた時期が。

当時のオレはバリバリのサッカー部。
今でもそうですが、現役の頃は今にも増して腿が太く、ホワイトジーンズはいつでもパツンパツンでした。

「似合ってるか似合ってないかなんて関係ねー!」「いや、似合ってるはずだ」「似合っててほしい」
そもそも、そんなことすら思ってなかったかもしれません。
ただひたすら、鏡の前の自分の姿を捻じ曲げてポール・ウェラーを気取っていたのです。

それでも現実は否応無しに押し寄せて来ます…。

ある日のこと。
高校生だったオレは、いつものようにパツンパツンのホワイトジーンズを履いて街へ。友達と何をするでもなく、退屈を紛らわすために辿り着いたその先は老舗のボウリング場。
「ボウリングシューズ、モッズっぽくて良いなぁ」とか思っていたかはさて置き、オレ達は投げるわけです。

なんでも形から入るオレは、どんなスポーツでもだいたいフォームから入るタイプで、それだけは最初からやけに褒められてました。
ボウリングに関しても、御多分に洩れずフォームは美しかったようです。爆笑されるほどに…。

そして何ゲーム目かの投球。
いつものように構え、いつもの用に美しいフォームで投げたそのとき。
オレの股間の辺りからビリビリと音が…。
それはパツンパツンのホワイトジーンズが、股の下から破ける音でした。
美しいフォームですら友達から爆笑されていたのに、ズボンが卑猥な箇所から破けて更に大爆笑。

そのときオレはようやく悟ったのです。「ロックの神様はオレには振り向いてくれてないのだな」と。

UKのパンク/ニューウェイブ(だいたい服装がタイト)に傾倒していたオレにとっては、タイトなズボンが破けるというのは致命傷以外の何ものでもありませんでした。
「そうか。ロックの神様に見捨てられたのだ」
そのショックを胸に、股の下の破れた箇所を往年の※エルビス・コステロばりの内股で隠しながらトボトボ歩いて帰ったのでした。ホワイトジーンズは当然ゴミ箱行き。

行き場の無い気持ちをロックに救われたのに、そのロックに見放されたあの気持ち。15歳の多感な少年の心の痛み。わかりますか?
危うく盗んだバイク(出来ればベスパ)で走り出しそうになりました。

けれど、そんなオレにも希望の光が差し込みます。

当時の自分にとっては、パンクまたはロックといえばUKでした。「UKの方がカッコいい」という呪縛があり、UKもの以外はあまり聴いていませんでした。
ただ、ホワイトジーンズ股破れ事件を経て、そのUKロック(だいたい服装がタイト)にアイデンティティを見出せなくなったオレは、ふと考えを巡らせたのです。

「そういえば聴かず嫌いしていたアメリカのパンクスは、細いズボンではなく太いズボンも履いていたな…」と。

そんなことを思い出し、アメリカのパンク/ハードコアにも目を向けてみようと思うようになりました。
そこからは言わずもがな、どんどんアメリカのパンク/ハードコアの文化にのめり込んで行くことになるのでした。

「太いズボンを履いていたから聴くようになったUSハードコア」

ハードコアパンク指導員がいたならブン殴られそうな理由ですが、※イアン・マッケイ(マイナースレット/フガジ)がディッキーズっぽいチノパンを履いてなかったら、マジでオレは路頭に迷っていたと思います。
それくらい救われたのです。

で、何が言いたいかと申しますと、「運命を悟って諦めた末にも、新たな世界は広がってるもんですよね~」ってことです。

オレがもし、スラッとした細身のズボンが似合うような体型だったら、きっとアメリカのパンク/ハードコアには出会ってなかったと思います。
きっと渋谷系を引きずって2000年代もスタイルカウンシル(ポール・ウェラーが在籍してたバンド)だけを聴き続けてたと思います。それも悪くないかもしれません。
でも、たかが洋服が似合わなかっただけですが、現実を受け入れたことで視野は確実に広がりました。

これも「運命なのかな?」とも思うし、「お前のロックを神様に委ねるな!」とも思うわけです。

さて、オレはいつからロックを語るロックスターのようになったのでしょうか?大いに突っ込んでください。
でもオレ、言ってましたよね。初期衝動とは「客観性を伴わない憧れ」のことだって。

オレの初期衝動は未だ続いていると思われます。

MINORxU

※ポール・ウェラー
パンク御三家といえばセックスピストルズ、クラッシュ、ダムドだが、五大パンクというと、ストラングラーズとポール・ウェラーが所属していたジャムも入ってくる。彼らはパンクの時代に60年代に流行ったモッズファッションで活動していた。

※エルビス・コステロ
昔グリーンデイのビリージョーが日本でミスチルのシーソーゲームのPVを見て、ミスチルのことを「エルビス・コステロのイミテーションバンド(モノマネバンド)だろ」と言ったという逸話あり。
内股の件に関しては、あのPVの桜井さんの内股を思い出してもらっても良いです。

※イアン・マッケイ
説明不要のハードコアレジェンド。通はイアン・マッカイとも呼ぶ。ちなみに往年のドラマ「ビバリーヒルズ青春白書」のイケメンはディラン・マッケイ(引っ掛け問題)。

MINORxU / 2016.02.16

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